1つのデータや1枚の図から公開できる”figshare”で研究をもっとオープンに 〜LabTech海外事例最前線〜

取ったのに死蔵しているデータ、ありませんか?”figshare(フィグシェア)”はあらゆる実験データをシェアできるサービス。よりオープンにデータを公開できる場を作り、学問全体を活性化させる試みです。

「死蔵データ」は学術界全体のエネルギーロス

どのような分野であれ、採取したデータの処理には時間を取られることが多い。加えて、それだけの手間をかけたにも関わらず、紙幅の都合やテーマ変更で論文に載せられなかったデータが手元にあるというのも珍しくないはずだ。

未公開データは、内容がいかに貴重なものであっても、各々の手元に残り続けている限りアクセスすることができない。また、論文になっていない以上、なかなか引用もしづらいのが実情ではないだろうか。

研究者の時間をかけたデータが埋もれている現状は、学術全体におけるエネルギーロスとも言える。これを解決できるサービスが、データセットや図、グラフを一つからでも公開できるプラットフォーム”figshare(フィグシェア)”である。

3Dデータや音声も。あらゆるデータ形式に対応

“figshare”の仕組みは単純明快だ。研究者や研究機関は、“figshare”上にあらゆる形式の研究データをアップロードすることができる。それぞれのデータに著者、タイトル、カテゴリ、検索用のタグなどを付記できるはもちろん、DOI(Digital Object Identifier、デジタルオブジェクト識別子)の付与も可能であり、アップロードしたデータがどれほど閲覧・引用されているか把握できる。

また、データの公開形式は必ずしもオープンアクセスに限らず、自分のみが閲覧可能な設定や、共著者やプロジェクトメンバーとのみ共有する設定もあり、フレキシブルに選択することが可能になっている。

検証可能性の向上と「出版バイアス」の解決

また、データのオープンアクセス化は、研究結果の透明性にも寄与する。データの改ざん・捏造が見抜きやすくなるだけでなく、データの恣意的な解釈についても議論の俎上に載せやすくなる。

それだけでなく、データのオープンアクセス化は「出版バイアス」の是正にも効果がある。一般に、肯定的なデータ(「効果があった」とするデータ)は公表されやすく、否定的なデータ(「効果がなかった」とするデータ)は公表されにくい。

これが繰り返されると、全体として肯定的な研究結果ばかりが見受けられるようになり、さもその方法論が有効であるかのような仮説が形成されてしまう。これは「出版バイアス」と呼ばれ、主に医療の分野で問題視されてきた。

かといって現状、「実験を行なったが、結果はよくなかった」というデータがアクセプトされる土壌があるかは懐疑的だ。図表やデータ単位から研究を公開できる“figshare”ならば、否定的なデータの公開もしやすいため、研究分野の健全化につながることが予想される。

「試し読み」機能や講義補助としての利用

“figshare”を利用しているのは研究者だけではない。すでに多くの出版社が“figshare”と提携し、一部のデータを公開している。電子書籍の「試し読み」機能ではないが、出版社がユーザの場合、一部のデータをオープンとし、フルテキストは有料とするなどの用途が想定される。

他にも、講義音声を“figshare”にアップしている研究者もいる。現状、授業の配布資料は大学のシステムや研究者の個人サイト上で配布されることが多いが、大学のシステムは学籍がなければアクセスが不可能であり、個人サイトの認知度は低い。検索用のタグを設定でき、閲覧だけなら登録・ログインの必要がない“figshare”は、その欠点を補うツールとなりうるだろう。

SNSと論文の「中間」として

研究者の持っているデータの中には、研究対象が絶滅したり、政情不安でその地域に立ち入りにくいなどの理由で、採取困難・不可能なデータもある。また、中にはグラフィティ・アートや方言を生かした広告など、永続性が担保されておらず、「もう一度見に行ったら消えていた」タイプのデータもある。

これらをオープンアクセスが可能な環境下で保護することにより、貴重なデータが多くの研究者の手に行きとどくことや、断片的なデータをより体系的なデータへと昇華させるといった展望が期待できる。

また、断片的なデータを気軽にアップロードできる環境は、非研究者に対するハードルを下げることにも繋がる。2016年には、気象庁気象研究所の雲研究者・荒木健太郎氏がTwitterで「#関東雪結晶」タグを利用したデータ採取を行なった。

現状は荒木氏が手動でデータを分類・整理していると予想されるが、もしもデータ提供者それぞれが“figshare”に同ハッシュタグでアップロードしていれば、誰もが利用可能なビッグデータとなった可能性もある。

もちろん「#関東雪結晶」の場合は、Twitterの気軽さこそが大きなムーブメントを生んだのだろうが、「論文を書き、ジャーナルに投稿する」ハードルに比べれば“figshare”へのアップロードが簡便なことに変わりはない。論文とSNSのいわば中間として、新たな方法が開かれただけでも意義があるだろう。今後の日本への浸透にも期待したい。

LabTech海外事例最前線

研究の未来をデザインするメディアLab-Onが、研究を加速させる様々なLabTechを紹介する本連載「LabTech海外事例最前線」は毎月新しい調査を報告しています。バックナンバーはこちらから。

連載「LabTech海外事例最前線」
1.『science.ai』に高まる期待:次世代の「Nature」を作るのはあなた?
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