重力波源からの光を初観測

重力波とは?

そもそも重力波とは何だろうか。アインシュタインの提唱した「一般相対性理論」は、現代物理学の最も基本的な理論の一つと考えられている。この理論は「重力とは時空の歪みである」と主張しており、今まで数多くの観測により支えられてきた。時空の歪みの伝搬が波のように伝わるのが重力波であり、これが星の死や合体など天文学的なスケールでの現象で生じるというのを、一般相対論は予言していた。そして100年近くにわたる探査の末、2015年にブラックホール同士の合体により生じる重力波が検出されたことで、この予言の正しさが確認された。

重力波の波形から、波源は中性子星の合体であることが分かった。中性子星とは、星の最晩年の姿であり、半径10km程度に太陽くらいの質量が詰まった、非常に密度の高い星である。この中性子星同士が合体したら何が起こるのか、シミュレーションを行った動画を紹介する。まずはこれでイメージを掴んでいただこう。

以下では、今回の重力波とその後の追観測で分かったことの一例を紹介する。

重い元素の起源

宇宙に存在する元素のうち、鉄とそれより軽い金属は、星の内部での核融合反応が主な起源であると考えられている。しかし鉄より重い元素については、その起源については意見の分かれるところであった。数年前までは超新星爆発の際にこれらの元素も合成されると考えられていたが、最近の詳細な研究により、それが難しそうなことが分かってきていたのだ。重元素の起源は、天文学における大きな謎の一つであった。

今回の中性子星同士の合体後、ぼんやりと可視光や赤外線が放出されている様子が観測された。こうした光の明るさがどのように変化していくかをずっと観測していると、その起源が「重元素の合成」であることが分かった。

中性子星の合体後には中性子の多く含まれた物質が周囲に撒き散らされ、その中では原子核に次々と中性子がくっついていき、重くて不安定な原子核が続々作られていく。こうした不安定な原子核は、光を放出しながら安定な原子核へと崩壊していく。この過程を経て、金やプラチナ、レアアースといった、鉄より重い元素が作り出される。

観測で得られた光の明るさや色は、このような元素合成が起こっているとした時に理論的に予想されるものと、非常によく一致した。ここから、二つの中性子星の合体が、重い元素の合成の現場であることが分かったのである。宇宙における貴金属の起源という謎の解明に大きく近づいた。

ガンマ線バーストの起源

宇宙では「ガンマ線バースト」という現象が存在する。非常に強いガンマ線が、短い時間(1秒未満のショートバーストと、より長く続くロングバーストがある)で一気に放出される現象である。その起源をめぐり様々な議論がされてきたが、現在はロングバーストは重い星が寿命を迎えた際に発生すると考えられ、一方ショートバーストは中性子星同士、あるいは中性子星とブラックホールの合体の際に起こると想像されてきた。しかしこれらの確固たる証拠は得られていなかった。

今回の観測では、重力波の観測から中性子星の合体が起きていることが分かった。そこに短時間の強いガンマ線放射が付随していたことで、ショートバーストと中性子星の合体が実際に関連していることが、観測的にハッキリした。 今後の追観測や、より多くの事象の観測により、ガンマ線バーストの物理のより深い理解を得られるだろう。

一般相対論に代わる重力理論の検証

この観測では、一般相対性理論に取って代わろうとする数多くの理論を否定することができた。一般相対論では、重力波は光速と同じ速度で伝搬する。一方で、相対論に代わろうとする重力理論の中には、重力波と光の速度差を予言するものがある。今回の観測で「重力波と光の到達時間差は1.7秒」であることが分かった。波源の距離も分かっているので、重力波と光の速度差に制限がつけられる。

重力波と光の速度が同じ(一般相対論)でも到達に時間差が生まれたのは、ガンマ線が出るまでに時間がかかったから、と自然に説明できる。しかし、重力波と光の速度差が大きくなるような理論では、時間差が1.7秒と短かったことを説明できなくなってしまう。この理屈により、たった一つの合体の観測から、多くの重力理論が否定されることとなった。逆に、この観測は一般相対性理論の正しさを強く支持する結果となったとも言える。

中性子星の内部状態

さて、ここで改めて、先ほど紹介したシミュレーションの動画を見ていただきたい。中性子星が合体の直前、互いの重力で引かれ微妙に伸びているのが分かる。どのくらい伸びるかは、中性子星がどの程度「硬いか/柔らかいか」によって変わる。そして、この伸びの影響も重力波のシグナルに現れる。

従って、重力波を見ることで、中性子星の内部の柔らかさを推し量ることができる。中性子星の内部状態については、従来の観測手段では情報を得るのが難しかった上、理論的にも非常に高密度な物質中の原子核や素粒子の振る舞いから考えていく必要があり、調べるのが困難であった。重力波観測は、今後中性子星の内部について知る強力な手段になるだろう。

宇宙膨張率の測定

天文学の基本法則の一つに「ハッブルの法則」というものがある。(後退速度)  = (膨張率) × (距離) と表され、遠くの天体ほど速い速度で遠ざかっているという法則である。後退速度と距離がわかれば、膨張率が分かる、とも読める。光で天体の観測ができれば、後退速度の推定はできることが多い。しかし天体までの直接の距離を測るのはなかなか難しい。

重力波観測では、その波形をもとに波源までの距離が推定できる。今回のケースでは光での波源の観測も行われているため、膨張率を測定することができた。この膨張率は宇宙物理学の基本的な観測量であり、様々な測定がなされてきたが、複数の観測手段の間で若干のズレがあることが知られている。このズレは単なる誤差なのか、あるいは人類がまだ本質的な何かを見落としているのか。それを探るためにも、こうした新しい手段での膨張率の測定は重要である。ただし今回の観測のみからは強い結論は導けず、今後の観測に期待がかかる。

おわりに

今回の観測により、天文学上の様々な謎が解明に近づき、また重力理論や原子核理論などの研究にとっても重要な情報を得ることができた。重力波は2015年に初めて存在が確認されたばかりであり、これを用いた天文学もまだ始まったばかりである。今後の展開を楽しみにしたい。

参考文献

プレスリリース(LIGO):LIGO and Virgo make first detection of gravitational waves produced by colliding neutron stars

プレスリリース(国立天文台):重力波天体が放つ光を初観測:日本の望遠鏡群が捉えた重元素の誕生の現場 ―重力波を追いかけた天文学者たちは宝物を見つけた―

Abbott et al., 2017, Physical Review Letters GW170817: Observation of Gravitational Waves from a Binary Neutron Star Inspiral

Abbott et al., 2017, Astrophysical Journal  Multi-messenger Observations of a Binary Neutron Star Merger

Image Credit: NASA's Goddard Space Flight Center/CI Lab

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