三菱重工業&JAXA、新衛星が担うミッションとは

三菱重工業株式会社(以下、MHI)および宇宙航空研究開発機構(以下、JAXA)は平成29年12月23日10時26分22秒(JST)に、気候変動観測衛星「しきさい」と超低高度衛星技術試験機「つばめ」の2基の衛星を搭載したH-IIAロケット37号機を打ち上げた。翌日(12月24日)、JAXAは姿勢制御系や通信機能などの基礎動作について、両衛星ともに正常であることを発表している。ここでは「つばめ」と「しきさい」が担う役割について簡単に紹介する。

JAXAホームページより( http://www.jaxa.jp/press/2017/12/20171224_shikisai_tsubame_j.html )

●気候変動観測衛星「しきさい」(GCOM-C)

「しきさい」は、地球の気候変動の観測の為に打ち上げられた衛星である。地球全体に渡って高解像度の地表面情報を取得できるのが特徴だ。海上でのプランクトンの発生や地上の植生把握、また大気のエアロゾル(大気に浮遊するチリやホコリなど)による日傘効果*について詳細なデータの取得が可能である。特に「植物による二酸化炭素の吸収能力」と「エアロゾルによる日傘効果」が気候変動全体に与える影響について、定量的評価とシステムの解明が期待されている。

*エアロゾルが太陽光の一部を反射することで地球に流入する熱エネルギーが減少する効果のこと

「しきさい」の観測イメージ( http://www.satnavi.jaxa.jp/project/gcom_c1/ より)

 

●超低高度衛星技術試験機「つばめ」(SLATS)

多くの観測衛星の軌道高度は600~800km程度であるが、「つばめ」はその半分程度の高度300km付近の軌道を周回する試験衛星である。高度を低く取ることによって、従来のセンサを用いたとしても、より高い解像度で地球を観測できるというメリットがあり、計測機器のコストカットに繋がる。しかし従来の軌道高度と比較すると、超低高度域では大気密度が1000倍程度に増大するため、周回時に衛星に掛かる大気抵抗も比例して増大する。「つばめ」ではこれを解決するため、燃費効率の高いイオンエンジン**を採用しており、軌道高度の安定を図っている。「つばめ」の運用が成功すれば、今後の超低高度衛星の開発が大きく進み、観測衛星の低コスト化に繋がることだろう。

**イオン化したアルゴンやキセノンを放出することで、反作用によって推力を得るエンジン。燃焼を伴わないため、酸素が希薄な状況下で使用可能である。

「つばめ」のコンセプト( http://www.satnavi.jaxa.jp/project/slats/ より)

 

●観測データの利用

これらの衛星から得られたデータは地球温暖化など、地球環境変化の仕組みの把握に利用される。雲や海流の動きから地球全体の熱循環のシステムを明らかにし、困難とされているエルニーニョ現象***などの大規模気候変動の予測にも役立つ。また、気候シミュレーションの検証用のデータとしての利用も考えられる。気候シミュレーションは実験が不可能な為、このような生の観測データは非常に貴重である。精緻なデータが積み重なることで、将来は完全な天候予測も可能になるかもしれない。

***太平洋赤道域から南米沿岸に掛けての海水温度が1年程度上昇・保持される現象。地球全体の気候システムに影響を与える

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