気候モデリングの先駆者 眞鍋淑郎博士がクラフォード賞を受賞

トップ画像:Princeton university (https://www.princeton.edu/news/2018/01/19/syukuro-manabe-wins-crafoord-prize-fundamental-contributions-climate-change)より引用

地球科学のノーベル賞

 クラフォード賞とは、ノーベル賞が授賞対象として扱わない天文学・数学・地球科学・生物学のいずれかに属する研究者に贈られる科学賞です。毎年にいずれか一分野が選ばれ、そのなかで特に優れた功績を上げた研究者が受賞します。
2018年は地球科学分野の年となり、地球の気候システムにおける大気微量ガスの役割の理解への貢献が評価されたことで、プリンストン大の真鍋淑郎博士とマサチューセッツ工科大のスーザン・ソロモン博士が受賞しました。

(詳細はこちら http://www.crafoordprize.se/press_release/the-crafoord-prize-in-geosciences-2018 )

温暖化予測の立役者 眞鍋博士の功績

 眞鍋博士は温室効果ガスの変動に対して、大気と海洋の果たす役割を解明するためにコンピューターを用いた数値計算を積極的に導入しました。その結果、これまで実験的にデータを採ることが難しかった地球温暖化の予測の進歩に大きく貢献をしたと言えます。
 氏は1958年に東京大学で博士号を取得した後に渡米。その後およそ40年にわたって、既存の数値計算モデルをこれまで適用されてこなかった気候変動の予測に用いる手法を研究しました。気候変動という長い時間スケールの現象の予測が成立するようになったのは、大気の数値計算モデルと海洋のモデルを結合させ、双方の相互作用を含む変動を実験的に扱うことのできる数値計算モデルが世界で初めて開発されたことによります。

経験則から数値計算へ―気象予測の進化の過程―

 1950年代、フォン・ノイマンが構想したアメリカ海洋大気庁・地球流体研究所では、大気物理の方程式を数値的に計算することによる天気予報に成功しました。この試みの画期的な点は「気象予測の再現性」にありました。それまで短期的な気象現象の予測は人間の勘と経験則に基づいていましたが、数値計算による手法にシフトしたことで、より大規模なデータを使って物理的な再現性の高い予測が行えるようになりました。
 この数値計算モデルをより時間スケールの長い気候変動という現象の予測に使うために、大気の方程式の他に陸地と海洋の物理を取り込んだ数値モデルを作る必要がありました(図)。これを大気海洋結合モデルと呼びます。
 1960年代に、眞鍋博士は同研究所で同僚のカーク・ブライアンとともにモデルの開発に取り組みます。当時はモデルを動かす計算機の性能も現在とは比べ物にならないほど低く、20年以上にわたる試行錯誤の末、1980年代の終わり頃にようやく気候予測に適用できる精度の大気海洋結合モデルが出来上がりました。

海が引き起こす温暖化の「遅れ」

 眞鍋博士が気候変動を予測するために行ったのは、大気海洋結合モデルを用いた仮想的な地球でのシミュレーション実験です。数値計算モデルの中で再現された地球が十分リアリスティックであることで、温室効果ガスの濃度を増やすなどの現実大気で実験することができない状況を再現できるのです。
 1989年に行われた最初期の温暖化予測研究は、温室効果ガスを1年に1%ずつ増加させ、70年かけて濃度を2倍にする状況を想定したシミュレーション実験でした。その結果、とくに北半球で緯度が高くなるほど温暖化の傾向が強く現れるという結果が得られました。海洋は温室効果ガスを塩(えん)のかたちで吸うという特性を持ちます。さらに南極大陸の周りを取り囲む海では大規模な循環による海水のかき混ぜが起こっています。これらの理由により、海の占める面積が大きい南半球では温暖化の進行が緩やかであることがわかりました。この予測が定性的に正しかったことはその後の観測から確かめられています。

海を渡った地球物理学者たちの貢献

 1958年、眞鍋博士がアメリカに渡ったのと同時期に渡英した海洋学者がいます。長崎海洋気象台に所属した海洋学者の石黒鎮雄博士です。石黒博士は、アナログ計算機を用いた海洋のシミュレーション研究を行うためにイギリスに移住し、北海の高波を予測する研究で評価されています。
またカリフォルニア大ロサンゼルス校で大気モデリングに多大な貢献をした気象学者の荒川昭夫博士、地震学の金森博雄博士など、1950年代から1960年代にかけて日本から地球物理学の研究者が数多く海を渡り、各分野の研究を進展させる潮流があったようです。
 こうした研究者たちは、コンピューターによるシミュレーションを利用して、地球科学で扱われる自然現象を予測・解明する基礎を築きました。直接データを採ることが難しいこの分野において、数値計算はいまや観測や実験と並んで重要であると認められています。今回の眞鍋博士の受賞は、日本出身の研究者がシミュレーション手法の前進に貢献したことが評価された一例と言えるでしょう。

 

参考文献
Stouffer, R. J.,  and Manabe, S., Assessing temperature pattern projections made in 1989. Nature Climate Change, 7, 163–165, doi:10.1038/nclimate3224, 2017
https://www.nature.com/articles/nclimate3224?WT.feed_name=subjects_social-sciences
笹川平和財団海洋政策研究所 特別講演会「地球温暖化と海洋」 開催報告
https://www.spf.org/opri-j/news/docs/dr_manabe_lectures.pdf

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