いまだ謎の多いまばたきのメカニズム、理論モデルでタイミングを再現する初の試み

人間の脳のはたらきと密接な関係があると考えられている「まばたき」ですが、その発生メカニズムについては未解明の部分が多く残されています。独ダルムシュタット工科大学の研究グループはこのたび、、環境の変化に応じてヒトが短時間の内にまばたきの頻度を順応させていることを理論的に再現し、それに基づいてまばたきの挙動を予測するモデルを開発したとする研究結果を発表しました。

色々な顔を持つまばたき

人間は、平常時に1分間あたり15回から20回まばたきをしています。長年の研究により、まばたきには「眼球表面を乾燥から防いで清潔に保つ」という生理学的な側面から、脳の活動を定期的に切り替えるために起こるとする神経科学的な側面まで、実に多様な機能があることが明らかになっています。

また、まばたきの頻度は、周囲の環境やその人の精神や行動の状態などによって頻繁に変化しており、認知機能と密接な関係にあります。感情が高ぶっている時や緊張している時にはまばたきの頻度が上がり、リラックスしている時や本を読んでいるときには頻度が下がることは直観的にもイメージしやすいのではないでしょうか。

神経科学の分野でも、まばたきのメカニズムと神経疾患との関係性が注目されています。例えば、脳の中には感動した時や興奮した時にドーパミンと呼ばれる快楽物質を分泌するための神経回路(ドーパミン系)がありますが、この部分の働きが不十分になると、パーキンソン病など様々な神経疾患の発症原因になります。最近では、そうしたドーパミン系のはたらきを評価するために、まばたきの頻度が機能指標として使えないかという研究もなされています。

暗闇とのトレードオフ

実に多彩な一面を持つまばたきですが、大きなデメリットもあります。それは、まばたきの間は視界が閉ざされるということです。

1回のまばたきが起こる時間は0.1秒から0.15秒程度、前後の感覚の遮断・再開も含めると、およそ0.3秒ほどは何も見えていない状態になります。日常的にはあまり意識するレベルではありませんが、例えば、車で事故が起きた際などではどうでしょう。脳が事故を感知してからブレーキを踏む動作を始めるまでの反応時間は0.3秒前後ということですから、タイミングによっては生死に影響を与える可能性もあります。

このように周囲の状況や置かれた環境によっては、まばたきの頻度を制限した方がリスクを抑えられる場合があります。しかし、人間はそうした場面でまばたきを自覚的にコントロールすることはできません。。脳がその時々の状況に応じて、自動的に調整をしています。

では、もし、状況に応じたまばたきの挙動をモデル化することができればどうでしょうか。これまで解明されていない脳とまばたきとの関係についてより深い知見を得られる可能性があるほか、すでに自動車で使われ始めているドライバーの覚醒度検知技術などにも応用できるかもしれません。

まばたき頻度のモデル化に成功

今回、独ダルムシュタット工科大学の研究グループは、コンピューターを使った実験により、まばたきの頻度を理論的に再現するモデルを構築することに成功しました。

実験では、被験者にコンピューターのモニターを見せ、短時間表示される映像が見えたらスイッチを押すように指示しました。この時、映像が表示されるタイミングは研究者が設定した論理パターンに従って制御されていますが、被験者にはその具体的な内容については教えられません。

実験の結果、映像の表示間隔パターンを様々に変化させた場合でも、研究者が設定した表示パターンに短時間で順応していることが明らかになりました。被験者はあたかもタイミングを分かっているかのように、表示される直前でまばたきの頻度を無意識的に減少させたのです。さらに、この表示パターンと被験者の反応を比較分析することで作られた理論モデルを用いることで、実験時の被験者のまばたきの挙動をコンピューター上で再現することが出来たとのことです。

論文の第一著者であるDavid Hoppe氏は、「このモデルは、視力やまばたきの頻度など、被験者ごとの生理学的なパラメーターを含んでいるため、連続するまばたきの間の時間を予測することも可能だ」と語っています。また、まばたきのインターバル時間は大きく4つのグループに分類されることが1920年代から知られていたものの、そのようなグループが形成される要因と原理傾向は今回の研究によって初めて明らかになったとHoope氏は述べています。

日常的に何気なくしているまばたきにも、実は多くの科学的要素を含んでいることを感じさせる研究ですが、ふとしたタイミングに自分のまばたきの頻度を意識してみると、何か面白い発見があるかもしれません。

【参考】

Strategy in the blink of an eye
https://www.sciencedaily.com/releases/2018/02/180215110039.htm

Humans quickly learn to blink strategically in response to environmental task demands
http://www.pnas.org/content/early/2018/02/13/1714220115

脳の情報処理とまばたきの関係を見る
https://www.brh.co.jp/seimeishi/journal/082/research_2.html

まばたきはコミュニケーション
https://langint.pri.kyoto-u.ac.jp/ai/ja/k/140.html

Eye blink rate predicts reward decisions in adolescents
http://onlinelibrary.wiley.com/doi/10.1111/desc.12412/abstract

Spontaneous eye blink rate as predictor of dopamine-related cognitive function
https://www.sciencedirect.com/science/article/pii/S0149763416302846

Measurement of spontaneous blinks in patients with Parkinson's disease using a new high-speed blink analysis system.
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/28870569

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