ぜんそく薬でアルツハイマー治療?米大学がマウスで実証

ある病気を治すために作られた薬が、まったく関係のない病気に効いたという例は珍しくありません。鎮痛剤として開発されたアスピリンは、のちに血栓や骨粗鬆症を予防する効果があることが判明しました。バイアグラも、最初は狭心症の治療が目的でしたが、現在ではED治療薬の代名詞となっています。

そのような「予想外」の効果に新しいケースが生まれるかもしれません。このたび、ぜんそく薬「Zileuton(ジロートン)」を使って、認知症にかかったマウスの治療に成功したという研究結果が発表されました。

なぜ、ぜんそく薬?

アルツハイマーをはじめとする認知症の発症メカニズムは、現在でも全容が解明されていません。ただ、脳内に「アミロイドβ」や「タウタンパク質(以降タウ)」という物質が蓄積していることが解剖結果などから判明しています。そのことから、現在では、これらの物質のいずれか、もしくは両方が原因であるという説が有力です。

先行研究で、タウの蓄積によってアルツハイマーを発症している患者の脳では「ロイコトリエン」の濃度が上昇することが報告されています。ロイコトリエンは、ぜんそくの原因物質でもあり、その働きを阻害するために作られたのがジロートンなどのぜんそく薬です。

そこで研究グループは、ジロートンを使ってロイコトリエンのはたらきを阻害した場合に、アルツハイマーの症状にどのような影響がでるか確かめました。実験では、人間で60歳に相当する高齢マウスで、16週間にわたってジロートンを投与した場合と、何も投与しなかった場合とで比較。

その結果、ジロートンを投薬した個体では、投薬をしていない個体に比べて有意に記憶力や認知能力が向上したと報告しています。さらに、投薬をした個体ではロイコトリエンの量が90%少なく、タウの蓄積も50%少なかったとのことです。

研究を主導したDomenico Praticò氏は、今回の結果を受けて、今後は人間での治験も行っていく予定だと語っています。

先行研究でも同様の成果

ジロートンを使った認知症治療の研究は、これが初めてではありません。Google Scholarで “Alzheimer zileuton” を検索すると、2001年以降の論文が約2000件ヒットします。これらの先行研究でも、ジロートンがマウスやラットの認知症を改善することは報告されていましたが、具体的な作用機序は明らかになっていませんでした。

今回の研究は、ロイコトリエン濃度とタウの蓄積減少、さらに症状の改善をひと繋ぎに実証した初のケースとなります。これは、アルツハイマーの発症にタウが深く関与しているという学説の裏付けという点でも、大きな意味を持つものです。

さらに、ジロートン同様、アルツハイマーをはじめとする認知症の治療に応用されているぜんそく薬に、モンテルカスト(Montelukast)があります。モンテルカストもまた、ロイコトリエンの働きを阻害することでぜんそく症状を抑える薬で、患者の体質や副作用などに応じて使い分けられています。

2015年、モンテルカストを投与した高齢のラットで、脳内の神経炎症が減少したほか、学習能力や記憶力といった認知機能が改善したという論文が発表されました。これはぜんそく薬によって生きた哺乳類の認知症改善を実証した主要論文の一つですが、原因候補であるアミロイドやタウの蓄積とは関連付けられていません。

ジロートンとモンテルカストでは、ターゲットとなる物質が微妙に異なるのですが、ロイコトリエンの働きを阻害するという点では共通しています。今後、研究が進んでモンテルカストの効果とタウ/アミロイド蓄積との関係が明らかになれば、ぜんそく薬を認知症治療に活用する動きが加速するかもしれません。

過度の期待は禁物

一方で、今回の成果はあくまで動物実験の結果であることを忘れてはいけません。残念ながら、ジロートンもモンテルカストも、動物実験では再現的に効果が確かめられていますが、人間での臨床はこれからという段階です。

少なくとも2018年現在、世界中の研究者による膨大な努力にもかかわらず、認知症の根治法は確立されていません。そのことを踏まえて、海外サイトHealthNewsReview.orgでは今回の研究について以下のように述べています。

any discovery — no matter how far from actual clinical use — is often the trigger for premature enthusiasm and hype. News releases and articles therefore must do their utmost to present findings in cautious context, especially when the research described is in laboratory animals.

https://www.healthnewsreview.org/news-release-review/no-an-asthma-drug-tested-in-mice-does-not-bring-new-hope-for-alzheimers-patients-at-least-not-yet/

すでに高い安全性が確認されているジロートンのような薬が人間の認知症にも本当に効果があるとすれば、応用可能性に非常に期待の持てるニュースです。しかし、動物実験はあくまでも動物実験。希望を持ちつつ、現状を冷静にとらえて今後の展開に期待したいところです。続報がでましたら、また紹介します。

 

【参考元】
Learning Impairments, Memory Deficits, and Neuropathology in Aged Tau Transgenic Mice Are Dependent on Leukotrienes Biosynthesis: Role of the cdk5 Kinase Pathway
https://link.springer.com/article/10.1007%2Fs12035-018-1124-7

Researchers reverse cognitive impairments in mice with dementia
https://www.sciencedaily.com/releases/2018/06/180608101905.htm

Dementia-related brain damage reversed in mice using 20-year-old asthma drug
https://newatlas.com/dementia-alzheimers-tau-reversed-mice/55011/

Structural and functional rejuvenation of the aged brain by an approved anti-asthmatic drug
https://www.nature.com/articles/ncomms9466

脳の糸くずのない未来
https://www.u-tokyo.ac.jp/ja/utokyo-research/feature-stories/aiming-for-a-future-without-tangles/index.html

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