『science.ai』に高まる期待:次世代の「Nature」を作るのはあなた?〜LabTech海外事例最前線〜

論文誌を作るのはひと苦労だ。すべてに時間と手間がかかり、ときには何年もかかることも。しかし、ついに研究者がA4用紙の束から解放されるのだ! 自分だけのジャーナルを作れる新サービス『science.ai』に期待が高まっている。

「出版は1年後」。その時間、もったいなくない?

研究者の生活の核をなすのは「いかに論文を出版し、多くの人に見てもらうか」だ。たとえ素晴らしいアイディアでも、頭の中にしかないうちは、残念ながら業績にならない。

そのため、適切なジャーナルを探し、応募し、晴れて採用された場合はコメントにのっとって修正を繰り返すことになるわけだが、これがとにかく時間がかかる。国内のジャーナルで最短半年、海外のジャーナルだと、数年かかることもまれではないのだ。

業績の数が必要な若手が、長い間待ち続けるのはつらい。待っている間に、関連する内容の論文が出てしまい、最新のアイディアではなくなってしまうこともある。

一方、編集者の方も「できれば編集作業には関わりたくないなあ」というのが本音だろう。何人もの執筆者にリマインドを送り、メールで原稿を集めて査読者に送る。体裁を整え出版社とやり取りをし、やっと論文誌の形になる……。手間がかかる上、ミスが許されず神経を使う仕事だ。「そんなことをしている暇があったら、自分の論文を書きたい」と思ってしまうのも当然のことだろう。

過重な出版コストによって生まれる課題は、個人の問題にはとどまらない。一本の論文にかけるエネルギーが大きくなりすぎると「なるべく完璧なものを出さなければ」となってしまい、萌芽的な段階のアイディアが発表しづらくなってしまう。しかし本来、萌芽的な段階でこそ、多くの人からのコメントが必要なはず。論文投稿・編集にかけるコストが高すぎる状況は、学術界全体に停滞をもたらすのだ。

さあ、紙とメールを放棄しよう

既存の論文誌編集を振り返ってみると、このようなフローを踏んでいたのではないだろうか。まずは投稿者が編集者に原稿をメールで送る。原稿を受け取った編集者は、査読者にメールで原稿を送り、コメントをメールで投稿者に知らせる。投稿者はメールで修正した原稿を送り……とにかく「メール」「メール」である。

最近になって、データの受け渡しにDropboxを使ったり、やりとりにSlackを使ったりする団体も増えてきたものの、複数のサービスを併用する状況になってしまい「かえって煩雑」という感想を耳にすることもある。

『science.ai』(サイエンス・エーアイ)は、そんな煩雑なワークフローを一元管理し、編集に関する手間を徹底的に削減してくれるWebサービスである。

残念なことに現在は「限定公開」なので、招待を送られたユーザしか登録することができない。しかし、編集に基本的な機能はすべて揃っていると考えていいだろう。投稿者はファイルをアップロードするだけでよく、編集者はリマインド等の通知を自動化することができる。もちろん、コメントも『science.ai』上で書き込めるほか、ピアレビューの方式も自由に決定することができる。

シングルブラインド(著者の名前はオープン、査読者の名前は秘匿しての査読)、ダブルブラインド(著者・査読者ともに秘匿)、オープン(すべて公開)などの方式が用意されているため、採用する方式を選ぶだけでOK。自動的に名前の公開/非公開が設定され、査読者に送信してくれる。いちいち手元のリストと突き合わせ、名前を漏洩させないように注意しながらメールを送る必要はない。

そのほか、豊富なAPIやスタイルフォーマットも提供されているので、著者は内容だけに力を注ぐことができ、編集者はワークフローを一括設定することができる。作成した論文誌はレスポンシブデザインに完全対応しており、モバイルファースト時代に合っている。そのうえ、ドキュメントのWebコンテンツへの自動変換、SEO対策なども行ってくれる。なんとも至れり尽くせりのWebサービスである。

参考資料をフルカラーで見てもらえるのは、文化研究を行っている人にはありがたい仕様だろう。動画も埋め込めるので、生物を扱う研究者にもおすすめできる。

テクノロジーが開く、多様なキャリアへの扉

以上『science.ai』がいかに期待できるサービスであるかについて概観した。これだけでも、「今すぐ手元の編集作業をこれで行いたい!」とうずうずしている方がいるのではないだろうか。

出版コストの削減は、多くの研究者の雑務に関わる時間を減らし、研究クオリティを上げてくれる。しかし、私はそれ以外にも「いいこと」がたくさんあると考えている。具体的に2点を指摘したい。

まず1点目としては、「同人誌」をこれで出せる、という点だ。

一般にマンガや小説類で有名なコミックマーケット(コミケ)には、案外アカデミックな展示物が多い……というのは知る人ぞ知る事実である。こういった同人誌は「ニッチすぎる自分の趣味を徹底的に追求したもの」「『硬そう』な学術誌には載せてもらえないかもしれない面白ネタ」「萌芽的なアイディア」「学際的なネタ」を扱っており、読んでいて刺激的なものも多くなっている。

それならば自分も、と考えてはみるのだが、少数部しか発行されない冊子のコストは意外とかさむし、売れなかった場合、出版費用がペイできない上に在庫を抱えるはめになる。製作作業に関しても、DTPの知識がない人にはハードルが高く感じるだろう。

science.ai』を使えば、同人誌(非公式な論文誌)をより自由に出版できる。日本の研究界によく指摘される「共同研究の少なさ」「ディスカッションの機会のなさ」についても、ラフな同人誌をきっかけに増える可能性があり、メリットだといえる。

2点目としては、フリーの研究者、在野の研究者の活躍機会が増えるということだ。現状、比較的掲載されやすいジャーナルとしては大学紀要などが挙げられるが、言うまでもなく、その大学に所属していなければ掲載の権利はもらえない。したがってこういった研究者は、ハードルの高いジャーナルに応募し続けるか、個人サイトでPDFを配布するなどの方法をとってきた。

しかし、『science.ai』ならば、自分ひとりさえその気になれば勝手に論文誌を作ってしまえる。もちろん、自分ひとりの論文誌なので知名度はゼロだが、少なくとも個人サイトに載せるよりは露出機会が増えるだろう。SEO対策などの充実がここで効いてくる。

多様なキャリアの研究者が活躍できるようになれば、学術全体の発展に寄与するはずだし、企業所属の研究者たちが論文誌を作成することで、大学と交流・連携をする可能性も出てくるだろう。産学連携の可能性もひらかれるのである。

まとめ

論文の投稿から査読、公開までを一元管理できるWebサービス『science.ai』。これからの研究界は、パラレルキャリアが推奨され、産学連携がますます求められていくだろう。このサービスは研究者の手間を削減するだけでなく、研究の露出機会を増やし、交流を活発にしてくれるなどの効果も予想される。「ついにメールの山とオサラバ!」と考えると、今から待ちきれない思いだ。

LabTech海外事例最前線

研究の未来をデザインするメディアLab-Onは、研究を加速させる様々なLabTechを紹介する連載「LabTech海外事例最前線」をはじめました。毎月新しい調査を報告していきますのでお楽しみに。

連載「LabTech海外事例最前線」
1.『science.ai』に高まる期待:次世代の「Nature」を作るのはあなた?
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