研究者の情熱を社会にひらく論文解説プラットフォーム「論文ナビ」

「論文ナビ」(https://rnavi.org/)は、論文の紹介や論文の解説記事を投稿できるプラットフォームサービス。有志の研究者たちによって、2018年4月よりスタートした。

同サイトは以下の3つのカテゴリーの記事を提供する。
著者解説:論文著者による研究成果の解説・紹介記事
レビュー:ユーザーが選んだ注目の論文の要点まとめや解説
トピックレビュー:設定したテーマについて、複数の論文に言及しながら分野の近況や歴史を解説する記事

論文ナビの発起人であり、現在も主体となって運営をおこなっているのは、現在JSTさきがけの専任研究員として、東京大学先端科学技術研究センターに籍を置く江崎貴裕さんだ。交通渋滞のネットワーク上輸送や、脳の機能障害ダイナミクスを解明する研究をおこなっている。その傍ら、研究者がアウトリーチをするための新しい場を作るため、論文ナビを立ち上げることにしたという。

論文を接点にして研究と社会を繋げたい

––まず、論文ナビを立ち上げるに至った経緯を教えていただけますか?

「最初に立ち上げを思いついたのは結構最近のことで、今年の2月か3月のことです。メディアを作ることは、自身の研究と直接の繋がりがあるというわけではありません。しかし、論文を書いたときに、一般の人にむけて『自分はこういう研究をやりました』と広めたいという意識は常にありました。

最近はインパクトがある研究成果が出たときに、大学や研究機関がプレスリリースを出すことが多くなりましたが、大学でおこなわれているのはプレスリリースを出すほど一般的な関心が高い研究ばかりではありません。分野に貢献するような『いい仕事をした』と思えるような研究成果が得られたとき、その成果を手軽に解説して、いろいろな人が見てくれる場所がほしかった、という思いが根本にあります。研究者であれば、アウトリーチの場として私と同じようなことを考えたことがある方は多いのではないでしょうか。

一方で、論文ナビの活動はJSTさきがけのプロジェクトと関連する面もあります。いま私が主宰している研究プロジェクトは、「社会と調和した情報基盤技術の構築」という領域に属すものです。そこでは、研究成果を出すことに加えて、『研究を社会にどう役立てるか』ということを重視しています。何をどう作れば人々に使ってもらえて、それによっていかに社会を変えていくことができるのかを、研究者自身が考え実行することが期待されています。

そういった環境の中で刺激を受けるうちに、自分でも日常の研究から外に出て色々なことができるのではないかという気分になってきたんです。そこで、研究者だけでなく一般の人にも読まれて役立つサービスを作ってみようと思い、論文ナビが出来上がりました」

芸術や政治の分野の研究解説も

–– 現在の登録者や執筆者はどのような人々で構成されていますか?

「メインの層は学生やアカデミアの研究者ですが、想像以上に多様なユーザーがいます。解説を書く人が大きな割合を占めることは当初から想定していたのですが、実際にサービスを開始してみると、記事を読むことを目的とした利用者が多かったことは予想外でした。

読者層としては、自分の生活とは全然関係ないけれど科学に関心がある方々が読み物として楽しむケースや、医療従事者やエンジニアの方々が、『仕事に役立てられるかもしれない』という目的で利用するケースもあるようです。幅広い関心のレベルをもった利用者がグラデーションを作っていることがスタートしてみてわかりました。

解説の執筆者側に関して意外だったのは、自然科学系以外の分野からも投稿が多いことです。美術大学の研究者が美術の哲学についての記事を書いたり、政治学の研究についてのまとめを書く人がいたりもします。いわゆる我々理系が論文と聞いて想定する分野以外の論文でもまとめを投稿してくださる方々がいるとわかったことは新鮮でしたね。

さらに意外なところでは、最近では専門性の高い研究を噛み砕いて解説するYoutuberが増えているそうです。そういった方から、『論文ナビで研究解説の動画の投稿ができないか』といった問い合わせがあったのには驚きました」(註:現在では動画による投稿も受け付けている)

–– 運営という視点から一旦離れ、一読み手としての視点からお話を伺います。これまで論文ナビに投稿された研究のなかで、江崎さんが読んで個人的にいちばん面白いと感じた、あるいは印象に残っている記事はありますか?

「読んでいて面白いなと感じるのは、やはり研究内容に対して書き手の溢れ出る情熱が見えることでしょうか。そういった熱量が飛び抜けているという点では、マンボウについての研究解説がいちばん人気があるんですが、私が個人的に面白いと思ったのはハヤブサの狩りについての記事です。ハヤブサがほかの鳥を襲うとき、上から急降下してスピードをつける利点を考察したもので、流体力学の理論やシミュレーションを使った力学的な研究手法にとても興味を惹かれました。

非専門家が研究を知るための窓口にもなるし、私のように専門家が他の分野の研究について読んでもためになるという、幅広い読者層を想定していることは重要なポイントだと思います。さらに、マンボウの記事のような親しみやすい題材を扱った研究解説と、社会との直接的な繋がりが薄くなりがちな基礎寄りの研究解説とが、同じ場所に置かれ、両方が読者の目に留まりやすいというところも重要です」

分野の垣根を越えた新しい連携を

–– これから論文ナビはどのような使われ方が望ましいと考えますか?また、現在のコンテンツのほかにこれから加えたい利用ケースは何かありますか?

「研究者が専門性の高い研究をアウトリーチするためのサポートとして機能できると良いと考えています。たとえば、私は自分の研究についてこれまで4本ほど記事を書いているのですが、自分の個人ウェブサイトにある出版論文リストにこれらの記事へのリンクを貼っています。自分の研究について非専門家に理解してもらうための入り口を、研究者が自ら作るという流れが今後広まっていくことを願います。

また、分野の垣根を越えた新しい交流や研究が生まれることも期待しています。いつか、論文ナビを通して新たな共同研究が始まったら嬉しいですね。理論やデータ分析をメインとした研究をしていると、ある分野で使われている手法が他の分野でも非常に有効であると気づくことがよくあります。分野間の橋渡しとしての側面も今後アピールしていきたいです」

–– サイトを見ると、記事の形式は書く人によってまったく異なっています。投稿のフォーマットを統一しようと考えたことはありますか?

「ある程度フォーマットを決めた方がメディアとしては質がいいのかもしれませんが、あえてそれをしないことで手軽に投稿してもらったり、あるいは逆に非常に凝った記事も書けるようにしました。プログラミングなどの情報を共有するQiitaというサービスがありますが、イメージとしてはああいった形で自由に記述してもらっています」

–– 江崎さんのTwitterなどを拝見していると、論文ナビを通して新しい研究のコミュニティを作るための場所を提供していきたいという思いが伝わってきます。

「これまで繋がることのなかった人々の間で新しい連携を生むために、研究者と一般の人が両方集まってくることが大切ですね。一般の人だけが集まる場所や研究者だけが集まる場所を作ることはこれまでに多くの事例がありますが、専門家と非専門家の両方が集まるところを作るのはとても難しいです。論文ナビを使ってそうした接点が作られていけばいいなと思っています。

その接点から研究をビジネスに変えるような人たちが現れるかもしれないし、共同研究を望む企業の人がサービスを使うこともできるかもしれない。もしくは政策決定に関わる人たちと研究者がお互いに考えを伝え合うような場所になってくると産官学の連携ができてくるのではないかなと思っています。ゆくゆくはそういうことが実現し、研究コミュニティのハブとなれたらいいですね」

論文ナビは様々な新しいニーズに応えうるポテンシャルの高いメディアだ。研究コミュニティをさらにオープンで活気あるものにする可能性を秘めた論文ナビのこれからの発展に期待したい。

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