先生は「上司」じゃない 〜いい研究室の条件とは〜

大学や研究所などのアカデミアは、学生にとって自由に研究できる場所だろうか?

近年、アカデミックハラスメント(以下アカハラ)が話題にのぼり、ハラスメント行為に対するアカデミアの姿勢が議論になっている。例えば、過度の雑務を教員から押し付けられて自分の研究ができない、些細なことで叱責され人格を否定される、などの事例がある。

Lab-Onが実施した独自のアンケートでは、回答者221人のうち45%が「アカハラにあったことがある」「16%がアカハラを目撃したことがある」と答えた。アカデミアが自由に研究できる場所になるためには、アカハラのない「いい研究室」を実現することが不可欠だ。

それではいい研究室を実現するにはどうしたら良いか?そもそもいい研究室とは何か?

今回、研究責任者を目指している現役の修士・博士学生3名で座談会を開催。自身の研究室環境への満足度や、将来研究室を持つことになったときにどんな研究室にしたいかなど、「研究環境」をテーマにディスカッションをおこなった。
本記事ではこの座談会を元に、アカハラを取り巻く環境や、研究室の雰囲気、研究室の運営の仕方についてまとめる。

※アカデミックハラスメント:研究教育に関わる優位な力関係のもとで行われる理不尽な行為(NPOアカデミック・ハラスメントをなくすネットワークの定義による)

アカハラと厳しい指導の違いとは?

ーー 今日はよろしくお願いします。最初の質問ですが、アカハラを受けたり、まわりでアカハラが起こっているのを見たりした経験はがありますか?

Cさん(修士2年、素粒子理論専攻):私自身はアカハラを受けたり、見たりしたことはありませんね……。プレッシャーを掛けられることもなく、恵まれた環境だと思います。

Aさん(修士2年、素粒子理論専攻):自分がアカハラを受けたことはありませんが、知り合いが指導教員に、詳しい説明もなく『学会に行くな』と言われた話を聞いたことがあります。

Bさん(博士1年、素粒子実験専攻):指導教員に厳しい態度を取られたことはありますが、アカハラというほどではないです。

ーー Bさんは厳しい指導を受けた経験があるんですね。「厳しい指導」と「ハラスメント」の違いはなんだと思いますか?

B:信頼関係があるかどうかではないでしょうか。私は指導教員と信頼関係を築けていると感じますし、私の成長を願っての助言だと分かっているため、多少厳しい言い方でもアカハラだとは感じません。

ーー 信頼関係を築くために何か意識したことはありますか?

B:特に意識したというわけではありませんが、指導教員と食事はよく行きますね。自分は食事の席で研究の進め方や悩みについて相談することもあるので。指導教員と話し合える雰囲気が研究室にあるといいんだと思います。言いすぎてしまったことでもフォローできる機会があるというのが理想なんじゃないでしょうか。

ーー たしかに、アカハラの起こりやすさは研究室の雰囲気に関係しそうですね。

研究室の扉、ひらけゴマ

photo by photoAC

ーー指導教員とのコミュニケーションという観点で、研究室の雰囲気や居心地について何か感じたことはありますか?

A:自分の研究室の周りは、分野の近い研究室でまとまっているのですが、階によってずいぶん雰囲気が違っています。私の居室がある階はドアが開いていて、自由にディスカッションできる雰囲気があり、賑やかですね。

一方、他の階ではドアが閉まっていて、ノックしないと先生や先輩に話しかけることができない部屋が多いです。自分は、ドアが開いていた方がオープンな空気を感じられて好きですね。

ーードアが開かれているかは研究室の雰囲気に直結しそうですね。他のお二人の研究室はどうですか?

C:うちは教員の居室はすぐ近くの部屋で、在室時は常にドアが開いています。基本的に、質問などにはいつでも対応してくれます。

B:うちも指導教員の部屋のドアは開いていて、相談しやすい雰囲気です。自分の居室は他のスタッフと一緒なので、いつでも話しかけられます。

ーー皆さんは、自身の研究室を「いい研究室」だと思いますか?

A:コミュニケーションが充実しているため、満足しています。研究室のメンバーでご飯に行くことも多く、他愛のない質問でもに気軽に聞ける雰囲気が一番ありがたいですね。

C:うちもいい研究室だと思います。指導教官も先輩も、面倒見がいいと感じます。指導教員の記入が必要な書類も、依頼するとすぐに用意してくれるのでとても感謝しています。また、研究室には先輩の学生やポスドクが多く所属していて、質問に対応してくれるだけでなく、自主的なゼミを開くこともありますね。

B:サポートが厚いため、自分の研究室は好きですね。例えば、昨年学振※を出したのですが、指導教員が『推薦書を書くから出しなよ』と声をかけてくれたのがきっかけでした。申請書も3回ほど添削してくれて、自分のことを気にかけてくれていると感じましたね。

※学振:日本学術振興会特別研究員への応募

アカデミアはもっと自由でいい

photo by photoAC

ーー最後に、皆さんの将来について伺います。将来、PIとして研究室をどう運営したいですか?

A:自分は研究室がドアが空いているオープンな環境だったので、同じように議論しやすい環境にしたいです。物理的な環境だけでなく、人間関係の面でも学生と対等に話し合える態度や関係を作りたいと思っています。

あとは、ほどよい距離感を保ちたいですね。学生にとって、困ったときには相談できるけれども、干渉しすぎないような教員になりたいです。

C:学生が自由に研究できて、いつでも質問に来られる環境を作りたいです。私は学生にとって勉強・研究しやすい研究室とは質問しやすい研究室だと思っているからです。基本的には自分で自由な発想で研究して、行き詰まったら教員に質問する。その積み重ねができる環境がいい研究室だと思います。

B:自分が研究室を持つようになったら、自由な雰囲気にしたいです。アカデミアってもっと自由な場所だと思うんです。

ーー「アカデミアが自由な場所」とはどういうことでしょうか?

B:自分にとって、研究する上で一番大切なのは「楽しんで研究できること」です。研究を楽しむためには、誰かから押し付けられるのではなく、自分でいろいろ判断できる、選択の自由が与えられることが重要だと思います。

だから、研究が楽しくないときには研究室に行かなくてもいいと思うんですよね。研究室に来てもいい。休んでもいい。オーバードクターしてもいい。辞めてもいい。そういう意味での自由があるのがアカデミアだと思うんです。

A:そういえば、学者を表す英語のscholarの語源は「暇」だと聞いたことがあります。暇で時間があるからこそ、自分のしたいように研究した、という意味合いなのではないでしょうか。強制されて研究するというのは違う気がしますね。

C:そう考えると、例えば進路を妨害したり、転学を認めなかったりするアカハラというのは個人の自由を奪うとともに、アカデミアの自由を奪う行為ということになりますね。

B:指導教員と、お互いに尊敬しあえることが大事なのだと思います。指導教員は会社の上司ではないのだから、何もかも指示に従う必要はないと思うし、教員も学生を研究者の一員として尊重する。上下関係ではない何かがあることが、良い研究室のひとつの条件なんじゃないでしょうか。

今回の座談会で、3人とも「いい研究室とは、指導教員と相談や議論が活発にできる研究室である」と考えていることがわかった。実際にそのような環境で研究している3人は、研究室のメンバーと顔を合わせる機会が多く、食事に行くなどコミュニケーションが充実していて、お互いに信頼関係が築けているという。それでは、教員側は普段コミュニケーションの上で気をつけていることはあるのだろうか?「良い研究室の実現」のためには、学生からの評判が良い研究室を運営している教員にも話を聞く必要がありそうだ。

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