2018年7月のケースに見る台風の姿と予報

2018年7月に発生した台風12号(JONGDARI)は、日本列島を東から西へ縦断する非常に珍しい進路をとり、近畿・中国地方を中心に非常に強い降水をもたらした。その特徴と、台風の予報がどんな意味を持って発せられるのか見ていこう。

改めて、台風とは何か

熱帯で発生して渦を巻く低気圧を総称して熱帯低気圧と呼ぶが、台風とは熱帯低気圧のうち、北西太平洋(赤道より北で東経180度より西の領域)または南シナ海に存在し、低気圧域内の最大風速がおよそ17 m/s 以上のものを指す。

台風はそれ自体よりもさらに大きなスケールの大気の循環に流されて動き、地球の自転の影響で北へ進む。そのため、東からの風が吹く赤道付近では北西へ進み、偏西風が支配する中・高緯度に達すると北東へ流されるのが典型的な進路とされている。 台風は、暖かい海面から供給された水蒸気が凝結して雲粒になるときに放出される熱をエネルギー源として発達する。緯度が上がるにつれて内部に寒気が流入するようになったり、陸に上がると地表面との摩擦でエネルギーが奪われたりして形を保てなくなる。その結果、温帯低気圧や熱帯低気圧へと変化するのが台風の「消滅」だ。

’18年台風12号の特異な進路

特異な進路をたどった2018年の台風12号JONGDARIは、7月24日に沖ノ鳥島近海で発生。そこから時計回りに日本列島付近を通過していくのが典型的な台風の進路だ。しかし台風12号は反時計回りに進み、三重県に上陸後、日本列島を縦断して西日本に記録的な大雨を降らせることとなった(図1)。

図1 2018年台風12号の発生から消滅までの進路。紫線上の点が各日付での台風の中心位置。

台風の寿命は平均で5.3日だが、台風12号は9.75日にわたって持続した。これは、台風が太平洋上で反時計回りに蛇行する複雑な進路をとったため、海面からエネルギーを供給される時間が長くなったことが原因と考えられる。この反時計回りの大きな蛇行をもたらしたのが、太平洋上空に長期間存在する低気圧性の渦(寒冷渦)だ

上空の偏西風の蛇行が激しくなると、寒気を核とした低気圧性の大きな渦が分離することがある。JONGDARIの場合、台風の発生前に北海道の東の海上で発生していた寒冷渦が、夏の太平洋高気圧の周囲を回るように南下し、台風が発達する頃には関東の南東沖までやってきていた。この寒冷渦と台風が相互作用し合うことで、台風が寒冷渦に引きつけられて周囲を回転するような反時計回りの特異な進路を進んだのだ(図2)。このような二つの渦の相互作用が絡むと予測は非常に難しくなり、不確実性が大きい台風予報となることが多い。

図2 寒冷渦と台風の相互作用。台風12号は寒冷渦の周りの反時計回りの風に流されるようにして特異な進路をたどった。

台風の進路と強度、発生数を決める要因

台風は、その周囲にある高気圧や低気圧、貿易風や偏西風などの影響を受けて進んでいく。そのため、台風の進路を予報するには周囲の大気がどのような配置になっていて、どのような時間変化をするか正しく予測する必要がある。

また、前述のように台風へのエネルギー供給源となる海面の状況も、台風の強さや進路を左右する。太平洋の赤道付近で海面水温が高くなるエルニーニョ現象が起こっている間は、台風の発生数が平常時より少なく、発生位置は南東にずれる傾向がある。いっぽうで太平洋の赤道付近で海面水温が低くなるラニーニャ現象が起こっている間は、台風の発生位置が平常時に比べて西にずれる傾向があることが知られている[1]

さらに、地球温暖化が台風の発生状況に何らかの影響を及ぼしている可能性も考えられている。
1970年代から現在にかけて台風の発生数は増加しているが、それが人類の活動による温暖化の影響を受けての変化であるかどうかは、研究者のあいだでも結論が出ていない。今後の気候変動を想定した予測研究からは、温暖化すると北西太平洋では台風の発生数は減るものの、強い熱帯低気圧は増えると予測されている。しかし、台風がどの程度強まるかといった定量的な議論に足るシミュレーションには至っておらず、不確実な点が多い[2]

台風の予報と不確実性

台風の進路や強さを完全に予測することはできないが、予測の確実性を上げるために取り入れられているのが、アンサンブル予報という手法だ。

数値予報モデルを用いた気象予測の結果に含まれる現実大気との誤差は、予報モデルが完全でないことのほかに、予報の初期値に含まれる誤差が拡大することに由来している。

大気の流れや水蒸気による熱の変換が複雑に絡み合う過程を対象とするシミュレーションは、初期値がわずかでも異なると、時間の経過とともにその差が拡大するカオス的な性質が強い。そのため予報すべき時刻が先になるほど最終的に得られる結果は大きく異なる。実際に発表される台風の進路の予報円が時間とともに広くなっているのはこのためだ。

この性質を利用して、スタート時刻での物理量に意図的にばらつきを持たせた多数の初期値データの組を用意する。それらの初期値を用いた多数のシミュレーションの間で平均やばらつきの程度といった統計的な性質を利用して、最も起こりやすい現象を予報するのがアンサンブル予報だ(図3)。現在、気象庁では5日先までの台風の進路予測にアンサンブル予報を用いており、誤差は年々減少する傾向にある[3]

図3 アンサンブル予報の概念図。初期値に含まれるわずかなばらつきが拡大することで、台風は一つ一つのシミュレーションで異なる進路をたどる(紫線)。青線は全てのシミュレーションの平均の進路を示す。

台風12号は日本列島に大きな災害をもたらしたが、発生直後はどこへ進むかはっきりとしない状況で進路の予報は不確実性の高いものであった。この例に見るように、台風の強さや進路を長い期間にわたって予測する技術はいまだ確立されていない。アンサンブル予報をはじめとする数値気象予報の手法は、大気物理の研究を通して少しずつ改良され、予報精度の向上に貢献している。

[1] Chia, H. H., and C. F. Ropelewski, 2002: The interannual variability in the genesis location of tropical cyclones in the northwest Pacific. J. Climate, 15, 2934–2944, doi:10.1175/ 1520-0442(2002)015,2934:TIVITG.2.0.CO;2
[2] http://www.data.jma.go.jp/cpdinfo/ipcc/ar5/ipcc_ar5_wg1_ts_jpn.pdf
[3] https://www.jma.go.jp/jma/kishou/know/whitep/1-3-8.html

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