「ブロックチェーン」という言葉、最近よく耳にしませんか?ブロックチェーンは、仮想通貨の取引データをネットワーク上で管理する技術のこと。最大の特徴は、データを複数のコンピュータで分散して管理する点で、このことから「分散型取引台帳」とも呼ばれます。

データの改ざんをしづらいために不正が起こりづらい、低コストでシステムダウンが起きにくいといったメリットがあり、「ビットコイン」など仮想通貨の中核となる技術として知られています。しかし、ブロックチェーンには、仮想通貨に限らずあらゆる分野で活用できる可能性が秘められているのです。実際に電力や人事評価、投票などにおいて、社会実装も始まっています。

そんなブロックチェーンの可能性を体験できるイベント「ブロックチェーンがつくる、あたらしい未来」が、9月8日(土)にコミュニティスペースのEDGEofで開催されました。今回はそのイベントより、各業界の最先端でブロックチェーンの実装実験を進めている方々を招いたパネルディスカッションの様子をお伝えします。

登壇者(敬称略)

モデレーター:福田峰之
元内閣府副大臣、現多摩大学客員教授。内閣府副大臣在任中は、ブロックチェーンをはじめとしたフィンテック分野や水素エネルギーなどの再生可能エネルギー分野で政策立案を担当。

 


曽根秀晶
ランサーズ取締役 執行役員
2015年11月より取締役に就任。経営戦略の立案、新規事業の推進、パートナーとの提携、M&Aや投資を主に担当。

 


市ノ澤充
株式会社VOTE FOR代表取締役
政策シンクタンク、国会議員秘書などを経て、2017年3月株式会社VOTEFORを設立、代表取締役に就任。政治と選挙のプラットフォーム「政治山」の運営と、インターネット投票の研究と推進を行う。


本間善實
日本デジタルマネー協会 代表理事
富士通株式会社、米国富士通研究所などを経て、2014年1月日本デジタルマネー協会を設立、代表理事に就任。16年1月株式会社ブロックチェーンハブを共同創業、取締役CMOに就任。


増渕大輔
日本マイクロソフト株式会社 エバンジェリスト
2015年、日本マイクロソフト・スタートアップ支援担当技術エバンジェリストに就任。ハッカソン、アイディアソンイベントのサポートや、シード・アーリーステージのスタートアップ企業への技術支援実績多数。

人物評価にブロックチェーンを活用 フリーランスの働き方を支える

事例報告1・曽根秀晶氏(ランサーズ取締役 執行役員)
クラウドソーシングのプラットフォームの運営をメインに、フリーランスの支援事業をおこなうランサーズ株式会社。同社は6月、個人のスキルのシェアサービスを提供するbeepnow OÜ(ビープナウ)と連携し、ブロックチェーンを活用した個人評価システムの開発を開始すると発表した。個人のスキルやランサーズ内での仕事の実績・評価などによる指標「タレントスコア」をベースにした、「ランサー生活圏」の構築を目指す。

フリーランス人口は、国内で拡大傾向にある。同社が2月に実施した「フリーランス実態調査」では、フリーランスの経済規模が2015年以降で初めて推計20兆円を突破。また、フリーランス人口は15年に913万人だったのに対して18年は1119万人と、大きく増加している。

一方で、フリーランスという働き方には、信用力の担保や金銭面の安定といった課題が生じる。これらを受けランサー生活圏では、タレントスコアに応じて融資や住宅、教育などを支援。多様な働き方の選択ができる環境づくりを目指す。タレントスコアをつける際に、今回提携したビープナウがもつブロックチェーン技術を個人認証などに利用することで、信頼性の高い査定の実現と評価経済のモデル構築につなげる。

福田 ブロックチェーンを活用することで、個人の価値を複数の要素で評価できるようになる、というお話でした。これまでにない取り組みで、インパクトがありますね。

 

増渕 フリーランス人口が増加していく時代では、その個人がどのような実績を残したかを複数の要素で評価し、共有する仕組みが必要になってくると思います。

ランサーズの取り組みは、ランサーズ内でフリーランスとして働く方を評価する際に、個人のスキルやランサーズ内での実績、それに対する評価など複数の要素を加味してタレントスコアをつけるというもの。数値化された指標なので、他の人とも共有しやすくなりますね。個人的には、この人物評価システムをオープンにし、ランサーズ以外のプラットフォームでも使えるようになるともっと良いのかなと思います。

 

福田 評価って、プラスの場合はいいんですけど、結果的にマイナスになってしまうこともありますよね。そういうとき、再起を期すにはどうすれば良いのでしょうね?

 

曽根 例えば、支払い能力など資産にかかわる信用を一度失ってしまうと、再起が難しいことがありますよね。しかし、仕事の実績に対する評価は違います。例えばあるプロジェクトがうまくいかなかったからといって、その実績だけを見て足切りにする世界は望ましくない。たまたま周囲の環境が良くなかっただけかもしれないし、次のプロジェクトはうまくいく可能性だってある。そうした可能性も含めて評価できる仕組みがあれば、個人の再起にもつながると思います。

また、その人を誰が評価しているのかで、信用度には大きな差が生まれます。信用力のある人に評価されている人は、市場で信用をされやすい。こうしたリファラルな世界は間違いなくあるでしょうね。

 

福田 例えば僕がビジネスを始めようと思ったときに、「俺を信頼してよ、ちゃんとやるからさ」と主張しても誰も信じてくれない。自分がどんな人物であるかを対外的に証明するのは難しい。だからこそ、今お話があったような数値的な実績と可視化される評判がセットになっている仕組みには、大きな意味があると思います。

まとめとして、ブロックチェーンは人物評価にこれからどう貢献していくのか、理想を含めてお話ください。

 

曽根 人物評価は二階建構造で良いと思っています。一階は、履歴書のようなベーシックな部分。そして二階は、この人だから応援したいとか、この人なら信頼できる、といった周囲の人からの個人的な評価の部分です。一階部分は汎用性が高いパブリックチェーン(取引の承認のプロセスに誰でも参加可能なブロックチェーン)、二階部分は個別性が高いコンソーシアムチェーンやプライベートチェーン(取引の承認ができる権限が一部の参加者にのみ与えられたブロックチェーン)に適合しやすいと考えています。

日本ではベーシックな部分での虚偽情報が多くないので、一階部分での減点主義での信用担保の必要性はそれほど高くないでしょう。二階部分の、加点主義での信用力強化がより重要です。そのうえで、今回のような事業提携が重要だと考えています。

ネット投票の実証実験をつくば市で実施。ブロックチェーンを個人認証に活用

事例報告2・市ノ澤充氏(株式会社VOTE FOR代表取締役)
8月、茨城県つくば市でブロックチェーン技術とマイナンバーカードを活用したインターネット投票が国内で初めて実施された。この投票は、企業や研究所が提案した実証実験の中から、市が実施する事業を選ぶコンテストの最終審査で行われ、つくば市役所に設置した2台のタブレットで投票を受付。マイナンバーカードを持つ人なら誰でも参加でき、期日前投票を含め計5日の投票期間中、119人が投票した。

このコンテストでは、投票内容をブロックチェーン技術で処理し、3台のサーバーで分散管理したことで、高い非改ざん性を実現。マイナンバーカードに内蔵しているICチップと署名用パスワードを用いたことで、短時間での正確な個人認証にも成功した。
課題は、保有率の低いマイナンバーカードを認証に使っていること。市ノ澤氏は「今後、別の認証手段も検討したい」と述べた。

 

増渕 ネット投票の実現に向けて、実証実験を進められているのは素晴らしいと思います。似たような仕組みは、選挙以外でも使えそうですね。例えば小さい規模でやるならば、町内会のアンケートとか。汎用性の高さに面白さを感じました。

 

曽根 手軽かつ便利なので、ネット投票がもっとさまざまな分野に広がっていくといいな、と個人的には思います。なぜネット投票技術の開発に取り組もうと思われたのでしょうか?

 

市ノ澤 一つには、投票機会の平等を実現したいという思いがあります。例えば、海外に住んでいて、投票権のある日本人は100万人くらいいる。このうち、在外選挙(外国に在留している有権者が国政選挙に投票すること)で票を投じる日本人はたったの2%程度なんです。

投票率がここまで低い背景には、在外選挙人名簿登録の手間が煩雑であること、投票用紙の輸送に時間がかかる関係で投票期間が短くなることなどが挙げられます。日本では期日前投票の期間は10日以上あるのに対し、海外では地域によってわずか2〜3日という場合も。投票機会はまったく平等ではありません。ネット投票が実現すれば、自宅のPCやスマホから投票でき、こうした不平等を理論上解消できるはずです。

 

福田 そうした背景があって、ネット投票の実現を考えたときに、投票内容の改ざん防止や秘匿性を確保する手段としてブロックチェーンが使えるのではないか、という話なんですね。

曽根 お話を聞いて思ったのですが、必ず1票を1人の候補者に入れなければいけないのでしょうか?技術の開発をより進めれば、2人からどうしても選べないときに0.5票ずつ入れるようなことは可能なのでしょうか。

 

市ノ澤 それは僕も考えていました。技術的には簡単に実現できると思います。投票の重み付けには、他にも色々なバリエーションが考えられます。例えば子どもが一人いる両親に対して、未来の子どもの分の票として1.5票ずつ与えることも、技術的にはシンプルで、簡単に実現可能です。そうした可能性があるのはネット投票のメリットの一つだと思います。

また、意外なメリットを挙げると、ネット投票が実現すれば、LGBTの人もこれまでよりずっと投票がしやすくなるのではないかと考えています。

投票所に入場する際、係員が投票者の名前と性別と年齢を確認するという作業があります。このとき、記載された性別と見た目にギャップがあった場合、口頭でやりとりをしたり、別室に呼ばれて確認されたりすることも。望まぬカミングアウトをさせられることに苦痛を感じた当事者が「もう二度と投票所に行かない」ということも実際ありました。マイナンバーカードで認証して、PCやスマホで投票できるようになれば、そのような思いはせずに済む。より多くの人々の投票権を活かすためにも、ぜひ早急に実現したいです。

仮想通貨にとどまらない、ブロックチェーンの持つ可能性を見た

ブロックチェーンは、それまでインターネット上では難しかった、データの信頼性の担保を可能にしました。その結果、個人の能力評価や投票といった、高い信頼性が必要とされる行為がインターネット上で可能になり、認証のために割かれていた労力の削減や、サービスの利便性向上に繋がりうるということが、今回のディスカッションで示されました。

私自身、取材前まで「ブロックチェーン=仮想通貨」という認識しかありませんでした。しかし、ブロックチェーンが身の回りのさまざまな課題解決に役立つこと、社会への実装が既に進められていることを知り、個々の課題解決から社会に大きなインパクトを与えられる可能性の奥深さを感じる取材になりました。今後もブロックチェーンの社会への活用を注視し、可能な限り読者の皆様にもお伝えしていきたいと思います。

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