再生可能エネルギー(以下、「再エネ」)の導入がまだまだ普及していない日本。太陽光や風力などの自然エネルギーは沢山存在するのに、それらを電力としてうまく活用できていないのはなぜなのでしょうか。デジタルグリッド株式会社の阿部力也会長はその理由を、「再エネはやんちゃ坊主なんです。きちんと管理する仕組みが必要です」と話します。

再エネを「きちんと管理する」システムとして注目を集めているのが、阿部会長が開発する技術「デジタルグリッド」。インタビュー後半では、再エネの導入に際して何が障壁になるのか、「デジタルグリッド」がこの問題をどう解決するのかをたっぷり伺いました。

前編はこちら
電気が無限に使える未来を創る 再エネ普及の鍵「デジタルグリッド」とは(前編)

 

阿部力也(あべ・りきや)

1953年福島県生まれ。1977年東京大学工学部電子工学科卒、電源開発株式会社入社。2001年に九州大学博士(工学)取得。米国電力研究所派遣研究員、JPOWER上席研究員、東京大学特任教授などを経て、2017年に現デジタルグリッド株式会社を設立。現在、代表取締役会長・最高技術責任者を務める。

 

デジタルグリッドで電力の市場が生まれる

——前半の最後では、再エネの活用が地方を大きく変える可能性があると伺いました。現在、普及にあたってどのようなことが課題とされているのでしょうか?

再エネは出力量の調整が難しいため周波数が管理しづらく、安定した供給が難しいという点です。通常、電線で各地に送られる電力は周波数が一定に管理されています。周波数が不安定になると、電気を使う機器に不具合が生じたり、停電の原因となったりするためです。

一方、太陽光や風力発電もエネルギー供給が気象条件に左右され、出力量の人工的な調整が難しいという面があります。そのため、太陽光や風が強すぎて需要を上回る量の電力が一気に電線に流れ込み、周波数が上昇しすぎてしまう恐れがあるんです。

 

——そうした問題は、今後どう解決できると考えますか?

再エネがある程度増えても、必要量の電力だけを電線に流し続けることができれば、電線に負荷を与えずに済みます。この、電力の需給バランスの維持に役立つのが、僕たちが開発するデジタルグリッド技術です。

デジタルグリッドが提供するサービスは、主に「電力の識別」と「電力の融通」の二つ。使用する装置は、「デジタルグリッドルーター(DGR)」と「デジタルグリッドコントローラー(DGC)」の二種類です。

左:デジタルグリッドルーター(DGR)、右:デジタルグリッドコントローラー(DGC)

 

まず「電力の融通」について説明します。太陽光パネルがある家庭で、DGRを設置したとしましょう。DGRでは、電力の売り手と買い手で、電力を「いつ」「いくらで」「どれくらい」売買するのかというやりとりが、決済を含めて自動でおこなえます。あらかじめ需給をマッチングしてから電力を取引するため、電線への過剰な負荷を抑えられるんです。

電力の売買には、「いつ作られたものなのか」といった「電力の識別」が必要で、これもDGRで可能です。発電された電力はインターネットを介し、出力元、電力の量、発電された時間などの情報がブロックチェーン上で管理されます。目に見えない電力に色をつけ、識別できるようになるという訳です。

また、DGCは電力の購入に特化した装置です。DGRを接続した太陽光パネルで作られた電力を識別し、決済できます。電力の販売はできませんが、DGRよりも小型で低コストなので、DGRよりも早い普及が見込めます。

このシステムによって、電力の買い手は少しでも安い電力を買ったり、ふるさとで作られた電力を買ったりと、個々人が買いたい電力を自由に選べるように。売り手側も、価格で競争したり、電力に付加価値をつけたりして電力を販売することが可能となるのです。

 

——電力の市場が生まれるわけですね。

そうですね。現在、世界では小口取引のニーズが多様化しています。Amazonは、販売機会の少ない商品も幅広く扱って全体の売り上げを大きくする、ロングテール戦略で成長しました。僕たちは、同じようなことを電力でやろうとしています。その上では、ブロックチェーンの活用が不可欠です。

電力供給にブロックチェーンを使う新発想

——電力とブロックチェーンというユニークな組み合わせは、どのような発想から生まれたのですか?

デジタルグリッドの製品を開発した当初、セキュリティの確保が大きな壁でした。例えば取引データが改ざんされて、電力の代金が契約通りに支払われない、などということが起こってはなりませんよね。ただ、小口の取引でセキュリティを確保しようとするとコストが見合わない。困っていた頃に、ブロックチェーンが世間でブームになり始めて。調べてみて「これだ」と思い、導入を決めました。

ブロックチェーンの導入でデータの改ざんがほぼ不可能になり、同時にコストも抑えられて製品化が現実的になりました。そこで、2017年10月にデジタルグリッド株式会社を設立し、11月には特任教授を務めていた東大を退職しました。

私たちの生活が変わるのはいつから?

——現在、デジタルグリッドの社会実装実験も進められているそうですね。

2017年度に、さいたま市の浦和美園で社会実装プロジェクトを開始しました。イオンモールと一般家庭5軒に太陽光発電とDGRを、ミニストップ5軒にDGCを設置する計画です。家庭の太陽光パネルで作りすぎた電力を商業施設に送るなど、各家庭や施設間で電力の融通がおこなえるようにします。現在は、DGRなどの装置の開発や試験をしている段階で、2019年4月から実際に装置を稼働させる予定です。

——期待が高まりますね。実際に、デジタルグリッドで私たちの生活が変わるのはいつ頃になる予定でしょうか?

2019年の10月頃から、電力の売買をサポートする事業などを開始する予定です。ただ、焦らずじっくり取り組んでいくつもりです。電力は人類の生活基盤で、影響力が大きいですからね。エネルギーは、人類の生活に革命を起こす最後の聖域だと思っています。みなさんが僕らくらいの歳になる頃には、見たこともない世界が広がっているはずですよ。

実際、いま世界中で再エネが注目されています。例えば、14年に「RE100」という国際イニシアティブが発足しました。「RE100」は「Renewable Energy 100%」の頭文字を取ったもので、事業活動の100%を再エネで調達することを目指す企業が加盟します。米アップルやスイスのネスレなど、153社(18年10月末時点)が名を連ねていて、日本からはアスクル、積水ハウス、イオンなど11社(同)が加盟しています。こうした国際的な動きに取り残されてはなりません。

 

——本日は貴重なお話をありがとうございました。

電気が「自然の恵み」になる未来

電気が、太陽光や風など自然の恵みと同じレベルで、当たり前に享受できるものになる。そんな未来が、阿部先生の目には映っていました。社会での実装に向けて着実に歩を進めている「デジタルグリッド」。私たちの生活が実際に変わる日が、今から待ち遠しいです。

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