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生体分子を「発見する」とは?~推理小説的に読み解く分子生物学~

「発見」が発見として認められるには?

ジェームズ・アリソン博士と本庶佑博士は、2018年のノーベル生理学・医学賞を受賞。受賞理由であるがん治療に繋がる免疫機構の解明に関して、アリソン博士はCTLA-4というタンパク質、本庶博士はPD-1というタンパク質を発見しました。これらのタンパク質は、免疫細胞が過剰に働いて正常な細胞を攻撃しないように抑える役割を担っており、「免疫チェックポイント阻害薬」の標的になっています。

ところで、こうした生体内の分子を「発見した」と言うとき、具体的にはどのような研究が行われているのでしょうか?どのような条件を満たせば、その学術領域において「発見」と認められるのでしょうか?

実は生体分子の発見の過程では、推理小説の探偵のように何通りもの証拠が集められ、それらを総合して「この成果によってこの分子が発見された」と判断されています。本記事では、最近Nature姉妹誌に掲載されたある論文の内容を介して、分子生物学における「発見」の要件と作法をご紹介します。

Prologue:TmcALを発見せよ

今回は、酢酸を使ってtRNA分子をアセチル化修飾する酵素「TmcAL」を枯草菌と呼ばれる細菌に発見したという研究事例を基に考えてみましょう。

tRNA分子は、生体内で情報から物質への変換を担う分子です。具体的には、タンパク質の材料となるアミノ酸を遺伝子の塩基配列に対応させて並べ、遺伝情報からタンパク質合成に繋げる役割を担っています。

この変換がうまくいかないと、生命活動は成り立ちません。変換機能を万全にするために、tRNAは骨格となる「リボヌクレオチド」という構造にたくさんの化学修飾が起こった複雑な構造になっています。これらの化学修飾によってtRNA分子自体の構造が安定化し、誤変換が防がれます。

TmcALの研究は、アリソン博士や本庶博士の研究のように医療応用に直結する研究ではありませんが、反応機構の目新しさや解明過程の緻密さ、結果の確かさを評価され、分子生物学領域で非常に権威ある国際誌に掲載されました。

検証① 「遺伝学的な」検証

未知の生体機構を解明するには、その機構を司る分子、すなわち酵素の特定が必須です。この酵素探しは、どのように行われるのでしょうか。

探し方の代表例として「遺伝学的な」検証が挙げられます。生物種間の遺伝子の比較と遺伝子操作から、酵素を探していくという検証方法です。
酵素は遺伝子をもとに作られます。生物の系統が近いほど多くの共通する遺伝子を持ち、遠くなるほど遺伝子の種類も異なります。つまり、未知の機構を備えた生物種だけが持つ遺伝子があれば、その遺伝子から作られる酵素が「犯人」だと予想できるのです。

TmcALの研究では、枯草菌が属する「グラム陽性菌」と呼ばれるグループの複数の細菌でtRNAのアセチル化修飾の有無が調べられ、遺伝子の比較が行われました。その結果、修飾のある細菌が共通して持っていて修飾のない細菌持っていない遺伝子を発見。この遺伝子から作られる酵素は有力な「容疑者」です。

容疑者のもとになる遺伝子が見つかると、次は遺伝子操作によりその遺伝子を削除したり機能を弱めたりした菌を作り、どのような影響が表れるかを調べます。容疑者が研究対象としている生体機構に関わっているのであれば、その遺伝子を失うことで対象の生体機構も失われるはずです。

TmcALの研究でも、容疑者のもとになる遺伝子を失わせた枯草菌では対象の修飾が検出されず、容疑者がこの修飾に関与していることが示されました。

検証②「生化学的な」検証

容疑者の関与が示されても、事件はまだ解決していません。推理小説の場合、犯人は単独犯とは限らず、複数犯かもしれません。容疑者と実行犯は別に存在していることもありえます。生体機構の解明でも似たようなことが考えられ、容疑者の酵素の関与が示されたら、次はこの反応に必要なほかの物質 (基質) は何か、酵素のはたらきが直接的なものであるのか、間接的なものであるのかを調べます。

例えば、この酵素は別の酵素に作用し、修飾の反応を引き起こすよう変化させるという間接的なはたらきを持つ可能性も考えられるのです。酵素の作用を判別するためには、研究対象としている生体機構に必要な物質を人工的に揃えて反応を再現する「生化学的な」検証が行われます。

この検証ではまず、大腸菌などに遺伝子操作で容疑者のもとになる遺伝子を組み込み、大量の容疑者酵素を作ります。そして、その酵素と基質の候補を混ぜ、対象とする反応が起こるか否かを確かめます。

TmcALの研究では、他の機構で見られるアセチル化反応を参考に混ぜる物質を変えながら実験が繰り返され、最終的に容疑者の酵素が酢酸を基質として直接的にアセチル化反応を引き起こしていることがわかりました。
これまでの結果から、容疑者は「犯人」であると判明し、 酵素は「TmcAL」(メチオニンtRNAのシチジンに酢酸を反応させる酵素という意味) と名付けられました。

検証③「構造生物学的な」検証

犯人が特定されたら事件の手口が明かされるように、生体機構の解明においても、酵素がどのようにはたらくのかという問いが設定されます。
酵素は一般的に、反応する部位や基質に比べてとても大きい分子です。そのため、酵素のどの部位がどういう形で基質に作用し、化学反応を起こすのかが検証の的となります。

ここで行われるのが、酵素の構造を見ることではたらき方を突き止める「構造生物学的な」検証です。

この検証では、酵素の構造を見て基質と結びつきやすい部位を予測し、併せて遺伝子操作でその部位を変化させた場合の影響を確かめていきます。TmcALの場合、まず、結晶化させた酵素にX線を当て、結晶を通った後のX線の散らばり具合から構造を算出する「X線結晶構造解析法」によって構造が明らかにされました。そしてこの構造を基に、酵素が機能を発揮するうえで重要となる部位を予想。続いて、その部位の構造を変化させた酵素を作ると、酵素のはたらきは大きく失われていました。こうして、酵素のはたらき方が、分子レベルで証明されました。

検証④ 「生理学的な」検証

最後に明かされるのは「犯行動機」。生体機構の解明でも、なぜその機構が存在するのかが調べられます。これが生体内での存在意義を調べる「生理学的な」検証です。

生体内で化学反応を起こすためには、反応に使われる材料やエネルギーが必要になります。衣服と火を獲得したヒトが体毛を退化させたように、その生物が生き残っていくために必要でない機構は退化するはずです。ある生体機構が存在している以上、その生物種が生き残るために余計なエネルギーを費やしてでも得なければならない利点があるはずで、この利点はその生物種の生存環境や活動様式の特徴に直結するものでもあります。

TmcALについては、この機構がtRNA分子の中でも遺伝子配列に直に接触する部位へのアセチル化修飾であることから、遺伝情報を読み取る際の正確性に関わっているると予想されていました。この予想を基に、TmcALを失わせた枯草菌がタンパク質を合成するプロセスへの影響を検証したところ、この反応機構の存在が、遺伝子上のよく似た塩基配列とアミノ酸の誤った対応を防いでいることが示されました。

Epilogue: 謎は新たな謎を呼ぶ

「誰が」「どうやって」「なぜ」、すべて揃えば晴れて事件解決、大「発見」です。どれか1つでも突き止めれば十分な発見とされますが、一本の論文ですべて揃えたものはその学術領域で非常に高く評価されます。TmcALの発見は、”Nature Chemical Biology”という分子生物学領域で非常に権威ある国際誌に掲載されました。

しかし、解明された謎はまた新たな謎を呼びます。

遺伝情報の読み取りはとても重要なのだから、他の生物種にも同様の機構が存在するのではないか?特に、TmcALを持たない生物種にはまた未知の機構がはたらいているのではないか?熱水域などの極限環境に生きる生物種では想像もつかないような複雑な機構がはたらいているのでは?ヒトでも同様の機構が存在し、何かの病気と関わっているのでは?

謎の解明と発生を繰り返し、人類の知識は果てしなく広がっていきます。

■出典元
酢酸を基質としてRNAをアセチル化する酵素の発見 : ライフサイエンス 新着論文レビュー
谷口貴昭・鈴木 勉
(東京大学大学院工学系研究科 化学生命工学専攻)

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