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研究室運営は試行錯誤の連続 稲見昌彦先生に聞くラボマネジメントのあれこれ

大学院に進学する際、あるいは研究員や助手として雇用先を探す際、まず考えるのは自分がやりたい研究ができるかどうかだろう。ただし、判断の材料は他にもある。

「学部は好きなアイドルに憧れるように、研究室は恋人を選ぶように、就職や博士進学は結婚相手を選ぶように」

こう語るのは、東京大学先端科学技術研究センターの稲見昌彦教授。研究テーマ以上にラボとの相性が大事だと強調する。

企業や組織によって異なるワークルールがあるように、研究室によって研究の進め方や研究室運営の方針は様々だ。とりわけ、PI(研究室の主宰者)を目指す学生やポスドクが所属研究室を選ぶ際、研究対象に対する興味やラボの業績に加え、運営方針を知ることも大切になる。

稲見・檜山研究室 運営方針 (2019年度上版)
https://note.mu/drinami/n/nbb29c0db43e2

研究室の運営方針を自身のnoteに公表し大きな反響を呼んだ稲見先生に、研究室・ゼミ運営を進める上での心構え、これまでの苦労や失敗談についてについて話を聞いた。

通り一遍ではないラボの運営

ーー研究室では日々、多くのプロジェクトや作業が同時進行していることと思います。事務的な作業、院生の指導、コミュニケーションその他どのように時間配分されていますか?

まずはラボとしてマネジメントに関してスタッフやリサーチアシスタント(RA)の学生と議論する時間と、研究に関して全メンバーが議論する時間を週に一回ずつ持っており、通常はその2つでコミュニケーションしています。その2つのミーティング(以下mtg)で議論しきれないようなこと、中長期的なマネジメントに関することなどは月に一回程度時間をとって話し合いをしています。それとは別に、全体mtgで話せないような個別の研究生活の話は、月に一度1on1ミーティングを行っています。

一方で研究室の中でもプロジェクトがたくさんあります。大きいものだと、例えばJST(国立研究開発法人 科学技術振興機構)のERATOプロジェクト。学外の研究室や海外の研究機関とも合同で進めないといけないので、研究室内mtgとは別にERATOのマネジメントに関するmtgと研究のmtgを持っています。他にもプロジェクトはたくさんあって、それぞれのプロジェクトごとにもmtgがあり、私が参加しないmtgは担当するRAやスタッフから状況を間接的にキャッチアップしています。その他にも研究ビジョンや運営方針について時間かけて話し合うために、スタッフ合宿を年に2回、研究室の合宿は年に1回行っています。

ーーこうした進め方は、他の研究室のやり方を踏襲したのでしょうか?

もちろん、色々と参考にしたりはすることはありますが、結局は研究室も生き物なんです。スタッフの数と専門分野、学生の数や興味、プロジェクトの数や予算額によって研究室の雰囲気や運営方針は大きく変わってきましたし、今後も変化することでしょう。これまで、PIとして電通大と慶應大の研究室を立ちあげてきたので、3つ目の東大ではかつてはポスドクや助手として学生を指導していた経験もあり、流石に手慣れたかなと思っていました。しかし簡単に過去のやり方を踏襲できるわけではなく、私が助手だった頃とは学生の気質も、そして私自身も変化しており、結局は目の前の学生とスタッフの顔を見ながら、限られたリソースの中で試行錯誤するしかなかったですね。ERATOのプロジェクトが始まり急激に研究規模が拡大したということも、大変ありがたいお話しではあるのですが想定外でした。毎度のことではありますが、研究室立ち上げ時のスタッフや学生には多くの苦労をかけてしまったと思っています。ラボの構築と自身の研究と二足の草鞋で頑張ってくれたスタッフ、学生達には本当に感謝しています。

ーーラボの運営をする上で、どういったツールを導入されていますか?

時間のかからないコミュニケーションは、チームコミュニケーションツールのslackとメールで行っています。また、東大はGoogleのツールが大学のアカウントで使えるのでGoogle documentやGoogle driveを使ったり、あとファイルを共有するためにdropboxも使っています。情報をまとめる際は研究室内のwikiやscrapboxを使っています。また、遠隔ミーティングツールのZoomを活用しています。研究室が駒場と本郷に別れていることもありますが、学外の方や海外に滞在中の学生との打ち合わせにフル活用しています。また私が出張先からミーティングに参加するための生命線にもなっています。

なのでフロー型の情報はslack、ストックしたい情報は、メールに加えて各種グーグルドキュメントや共有ストレージを使っています。学生が見てるかどうかはわかりませんが、対外的にはTwitterやFacebookでざっくりした考えや近況を話してます。

ーーTwitterやnoteを使った発信やイベントに登壇するなど、アウトリーチ活動として研究室外との交流も積極的に持たれている印象があります。

そうですね。今までのアウトリーチの一つの課題として、研究者が上流にいて、下流の一般の方に知見を伝えるという認識があったのではないかと考えています。たとえば最先端の成果を多くの方々に伝わるようにわかりやすく説明しましょう、というのがかつてはアウトリーチと考えられていました。しかし今ではそうした一方通行のコミュニケーションでなく、双方向的なコミュニケーションの重要性が認識されるようになってきました。そのため、研究についてわかりやすく説明するだけでなく、研究室の外にいらっしゃる様々なバックグラウンドの方の意見をオンライン・オフラインでお伺いしながら研究にフィードバックするように心がけています。御用聞きというわけではなくて、多様な意見をもらうことで自分たちにはなかった視点を得られて、新しいアイデアにつながるのです。それが結果的にアウトリーチと見られる活動になっているのかなと思います。

また、研究費は国と企業の方からの予算で賄っているので、どちらにせよ説明責任があると思っています。そのためにも従来型の学会で発表して論文ですと言う形だけではなく、高校生や学生の保護者の方にも講演会やイベント、メディアなどを通して目的や意義を説明することも大切だと思っています。

ーーラボを運営する上で気をつけていることはなんでしょうか?

たくさんありますが、学生にはよく「進捗がないときにこそラボに来るように」と伝えています。進捗がないと報告するのが恥ずかしいから来ない、となると、負のスパイラルに陥ってしまい、お互いにとって不幸です。また、学生1人の進捗がないから共同研究が全く進まない、といった運営体制もとっていないので、ミーティングがあるから来なさい、ということではなく困ったときには頼ってもらいたいです。そして困ったときに研究室の仲間に気軽に聞ける雰囲気にしたいと思っています。

ーー気負ったりとかやましく思ったりせず気軽に来て相談してと?

研究は大変なことももちろんたくさんありますが、研究する営み、この世に無いものを創ること、成果を発表したとき聴衆の驚きや笑顔を見ること自体が楽しいと思えるようになってもらえると嬉しいです。一方で、全ての学生が将来大学や研究所に残って研究者になってほしいとも思っていません。最新の知見を学び、最先端のオリジナルな結果を出すという研究に対する姿勢やマインドは社会に出ても使えると思いますし、企業で活躍している卒業生たちとのコラボもすでにいくつか行っています。

ーー1on1をされているとのお話ですが、主な目的はなんでしょうか?

いちばんの目的はお互いの顔をみることですね。それぞれの研究の進捗だけではなく、研究以外のところで困っていないかどうか。たとえば実家で何かあったとか、失恋してパフォーマンスが下がってしまうとか、人間なのでそういうことがあって当たり前なんですよね。プライベートを管理したいわけでは全くなく、ただ何も原因がわからず来なくなったりすると私も周りも不安になってしまうので、直接会うことで深刻な状況になる前に、顔色を見たり話を聞いたりということを大事にしています。また、学生から見ると思い付きのように見えることも多い、私からの指示や行動の背景を説明する機会でもあると思っています。

ーー学生を指導するのが得意な先生もいれば、苦手な先生もいらっしゃると思います。指導することも面白さや、難しさについて教えて下さい。

100%自信を持って得意です、と言える先生はいないんじゃないでしょうか?学校という組織のいいところであり悪いところでもあるのですが、人と人が向き合う以上合う合わないは必ず出てくると思うので、学生にとっては話せる対象が複数あるといいなと思います。私自身は学生と話すのが好きなのですが、学生とは立場が違うので自分のふとした言葉が何かプレッシャーになったりしてないかと不安に思うこともあります。PIになる前は、研究室の先輩というかお兄さん的な距離感で接していたのですが、講師になってからは学生とのほどよい距離感を掴むのが難しく、試行錯誤の毎日です。ただ、常に周囲を二十歳前後の学生に囲まれ、学生のフレッシュな目を通して世の中を眺め、共に考えることができる大学という環境は、未来の開拓する研究者にとって大きな魅力だと思います。

ーー運営をする上での悩みがあればお聞かせください。

PIって学生からはディレクターのように見えることが多いかと思いますが、実際はプロデューサ業も大切な役割で、そのためあちこち飛び回る機会も多いです。国や企業から研究費をいただくと、その分責任も抱えることになるのできっちり予算を詰めて人員を配置してというのが必要になります。

そうした際に、研究開発を実践することで学びを得るという目的で来ている大学院学生にどこまで責任と権限を持ってやってもらうかはよく悩みます。もちろん最終的な責任は教員が取るのですが。現状は学生自身の成長に繋がるはずという考えでやっていて適宜RA費も払っています。ただ、学生自身の背景も様々なので、妥当なバランスをどう設定すればよいか難しかったり。一方で、外部からの研究費がないと学生さんが学会発表に行きたいとしても旅費や参加費を出してあげられないとか、ポスドクの雇用の継続もできないということもあります。研究費が途切れる恐怖とプレッシャーは、予算規模にかかわらず私も含め多くのPIが感じていると思います。国からの研究費のほとんどは競争的で、単年度制かつ研究期間内にきっちり使い切る必要があり、当然貯金することはできません。つまり常に自転車操業のようなものです。かつて立て続けに競争的資金の審査に落ち、国際会議での発表を大幅に絞り、事情を汲んだ研究員たちが一人、二人と研究室を去っていったとき、身を切られるような思いをするとともに、自らの無力を感じアカデミアを去ろうと思ったこともあります。よって研究資金がとぎれないようにどこまで共同研究プロジェクトを行うべきか、予算規模と学生やスタッフの負担のバランスを考えるのが難しいですね。

ーー電通大、慶應大でのPIを経て現在東大で研究室を持たれていますが、それぞれの違いはどういった点にありますか?

慶應の研究室運営で良かったなと思うのは、企業との共同研究のやりかたを教えてもらえたところだと思います。今はそうでもありませんが、昔は私立大学ってなかな国の予算がもらえなくて、理工系は企業との共同研究でやっていくしかなかったそうです。だから、生命線である共同研究費の算定にはこだわりがあった。一方で私の周囲の国立の工学系の先生方は、研究費の基本は科研費とか国の資金で、企業とはお付き合い程度でやる方が多かった印象がありました。

ーー私立の目からみたらダンピングしてるように見えてしまうと。

企業の立場からすると同じ成果が得られるなら安ければ安いほうがいいに決まってます。しかし、今後大学も企業からの外部資金を含めてやっていかないと研究の継続性が担保できないときに、不当に安い研究費で請け負うと大学における研究の社会的価値をさげてしまいます。慶應に着任した当初は、研究員や大学院生の雇用を考えて自分の研究プロジェクトの値段を適切に設定したくても言い出しづらかったのですが、色んな先生方に背中を押してもらったおかげで研究費の算定のし方や企業とのコレボレーションのやり方を学びました。そして大学の同僚だけでなく企業の方々からも育てて頂いたと思っています。きちんと研究費をいただくと、企業さんもお付き合いとしての片手間の研究ではなく、職位の高い方の決済の下、きっちりプロジェクト化してお金と人を投資していただけるので、お互い本気のコラボができ、両者にとっていい結果になることも身を持って実感しました。企業側の同意さえ得られれば繰り越しが可能な企業との研究費は、国からの研究費が途絶えたときのセイフティーネットでもあります。

ーー工数を考えて値段付けをされるのでしょうか?

工数というよりも、若手の研究者やRA、事務スタッフを雇用し研究活動を行うために必要な費用を基に算出してます。研究室でサポートしてくれるメンバーが自由に研究できて生活できるようにしないと、プロジェクトが増えても先細りになってうので。もちろん上手くいくことばかりではないですが。

ーーどういった経緯で企業との共同研究が始まるのでしょうか

慶應に着任した当初は、伝手を頼りに企業に営業に行ったりすることも多かったですが、幸い今は企業の側から「こんなことがしたい」と問い合わせを頂くことが多いです。ただし、具体的な研究テーマはお互いにメリットが出るよう企業の方と議論しつつ決めています。大学はあくまで教育研究機関ですので、企業からの一方的な受託開発を受けることは難しいです。卒業して3年もしない学生が、上司を説得して共同研究プロジェクトを持ってきてくれたこともありましたね。頼もしいなと思いました(笑)。

巨人の肩に乗れても巨人にはなれない

ーーここまで稲見先生の研究室運営に関してお聞きしてきましたが、大学や研究機関が抱える課題についてもお聞かせください。

高校生や学部生から見て幸せそうに見える先生や大学院生がネットに少ないのは問題だなと思っています。昔はIT系の会社がブラックな印象がありましたが、今はPFN(Preferred Networks)など優秀な人材が正当に評価されて、高い給料をもらえていると明るい話題にはなってますよね。一方で、今のアカデミアはSNSを見ている学生からするとブラックにしか見えないんじゃないかと思います。よってアカデミアでの待遇を様々なアプローチで改善してゆく必要はあります。そのためにはアカデミアの価値を社会にきちんと伝えることが大切です。

ーーアカデミアに進むことに生活やキャリア上の不安を持つ学生は多いですね。

国や企業からの外部資金があればラボ独自のRA経費は払えるので、それをまずは現状の学術振興会の特別研究員(学振)と遜色ないくらいにはしたいと思います。実は僕も博士の頃もその後のPDも学振全落ちでアルバイトをやりつつ食いつないでいたので、今の学生には僕と同じような苦労をさせないように努めたいと思っています。学振の給与も高いか低いかは議論があって、ただ給与をあげたところで原資が固定されてる場合、受給される学生の数が減ってしまうのでトレードオフですよね。国の制度を変えるよう働きかけたいとは思うのですが、やはり時間がかります。まずは自分が直接関わる組織で外部資金を使いながら上手くやっていきたいです。そして企業と連携しつつ、多様なキャリアパスを構築できればと思っています。

私自身、研究の魅力や面白さは学会やメディアを通して積極的に発信しているつもりです。ただ、今回は普段あまり公ではしないような失敗や苦労の話をさせてもらいました。日本のアカデミアには問題点や大変なことも沢山あります。しかしシニアな研究者の方々も自分たちさえ逃げ切れれば良いとは決して思っておらず、何とか次世代にきちんとバトンを渡せるようそれぞれの立場で試行錯誤しているということ、そして、アカデミアには苦労を上回り人生を豊かにする魅力も沢山あることを、研究者を目指す学生さんたちにはぜひ知って欲しいと思っています。

ーー最後に、研究で生きていきたい学生に一言お願いします。

東大に限った話ではないかもしれませんが学生さんは流行りの分野に進みたがります。しかし、いま流行っている分野というのはレッドオーシャンで、ピークを超えて終わり始めてる分野でもあります。

学問を深めることは、「巨人の肩に乗る」と例えられますが、遠くを見通すために肩に乗るわけで自分が巨人そのものになれるわけではありません。見通しがよくなったときに次にどういう分野に取り組むかは常に考えたほうがいいと思います。高度な専門性を持つ研究者こそ、分野は違うけど面白い人と話したり、専門書以外の本を読むなどしながら、現在取り組んでいる分野に冬の時代がきたとしても、寒さに耐えつつ新たな分野を開拓できるようなベンチャーマインドを養う必要があると思います。私が駆け出しの研究者の頃言われたことですが、新たな分野を立ち上げ世界に広げることこそが第一人者になる秘訣です。現在流行っている研究領域のスター研究者達は、実は誰もが見向きもしなかった頃に分野を立ち上げ、そんなの研究ではないとか周囲に言われてきた中で仲間を集めフロンティアを開拓した方々だったりするわけです。

ここで重要になるのは、心が動くことを研究対象にすることです。流行ってるから、という外的な理由で研究を行うことは研究者自らが選択と集中をしていることになってしまいます。研究の多様性を担保するためにも、心の内側のエンジンに耳を傾け、その価値を社会に説明できるようになってほしいですね。そして時には辛いことがあっても、楽しそうな背中を後進にそして世界に見せて欲しいと思います。

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