
2017年も終盤にさしかかって寒くなり、温かいお鍋が食べたくなったりあたたかいセーターを着たくなるような気候になってきましたね。
この季節、セーターを着て過ごしていると、みなさんも一度はこんな経験をしたことがあるのではないでしょうか?
…バチッ!!
そう、冬場の厄介者、静電気です。
今のように気温が低く乾燥している時期、服の繊維がこすれることで生じた電気は空気中へと放電されにくく体に溜まっていきます。
その溜まった電気が金属のような電気を流しやすい何かを触ろうと近づいたときに、一気に流れ出して放電し、火花が出ます。これが静電気です。
このような経験から、「服がこすれると電気が生まれる」という認識は多くの人がもっているのではないかと思います。
しかし最近では、静電気のような微弱な電気ではなく、着るだけで「発電」できる繊維が開発されているのです。
その繊維の名前は「ツイストロン (twistron)」。テキサス大学ダラス校の研究チームが新しく開発した、カーボンナノチューブを撚り合わせた撚り糸をコイル状にした繊維です。
(参考:http://science.sciencemag.org/content/357/6353/773 )
このツイストロンは引き伸ばしたり押しつぶしたりすると発電する圧電素子という素材で、伸展性や伝導性、それに加え強度や柔軟性も備えています。こうした特性を活かし、ツイストロンを服にして着用するだけで、なんと着用者の「呼吸」から発電する技術が今まさに実用化されようとしています。
同校のRay Baughman氏の述べるところによれば、ツイストロンが伸展した際の発電効率はこれまで開発された他の可織繊維と比較して100倍以上にもなります。ツイストロンを用いて編んだシャツは呼吸から低電力のデバイスを動かすには十分実用にあたうるレベルの電気を生成できるとのことです。
「着ているだけで電気が起こせるシャツ」という少年心を躍らせるような革新的なツイストロンですが、ツイストロンを構成する「カーボンナノチューブ」とはそもそもどのようなものなのでしょうか?
そもそもカーボンナノチューブって?
カーボンナノチューブとはその名の通り、炭素原子だけで構成された円筒状の物質で、直径は1nm (10億分の1m) ほど、長さは大体その1000倍以上という細長い形状をしています。グラファイトのシートに炭素原子をハチの巣のように並べ、下図中央のようにチューブ状に丸めることでこのような形態をとります。
図 グラファイトのシートと巻き方
また、カーボンナノチューブはその特徴的な形状と構造から、様々な優れた性質を持ちます。
例えば、
☆ダイヤモンドと同等の引っ張りへの強さ
☆銅の1000倍の電流密度
☆銅の10倍の熱伝導率
などがあります。しかし、これらは応用例のほんの一部分です。
現在はまだ実用化するための研究段階にありますが、カーボンナノチューブ材料が普及したら世界はどのように変わるのでしょうか?
カーボンナノチューブのある未来
例えば、カーボンナノチューブで作ったロープはその強度は今あるどの繊維よりも強く、建築物への補強材として用いれば震度8の地震だろうと倒壊しない建物が、自動車に使用すればもし事故を起こしても壊れず今までのどんな自動車より軽いものが実現できるかもしれません。
また、「細さ」という特性を活かして、現在主流となっているシリコンより、数十倍緻密な配線を組むことができると考えられています。もし本当に実現したら、従来の10分の1~100分の1の低電力かつ100倍以上の高速で作動する高性能コンピュータの誕生も不可能ではないのです。
まとめ
世界中の化学技術は「できないことをできるようにするため」「今あるものをもっとよくするため」に日々進化しています。私たちの生活にカーボンナノチューブが活用されるようになれば、きっと思いがけない場面で今よりもずっと素晴らしい未来になるでしょう。「あんなものがあったらなぁ」
「こんなことができたらなぁ」
「これもうちょっとよくなったらなぁ」
今思っているそれ、もしかしたらもう少しでできるようになっているかもしれませんよ!カーボンナノチューブの力で!