2018年のノーベル生理学医学賞かも?米国版ノーベル賞はDNA糸巻き「ヒストン」の研究に

ラスカー賞(正式名称: アルバート・ラスカー医学研究賞)は、米国医学界で最高の栄誉とされる賞です。日本人では、過去に利根川進教授や山中伸弥教授なども受賞しており、受賞者の中にはノーベル理学・医学賞も受賞する研究者が多いことから、「米国のノーベル賞」とも呼ばれています。

同賞は基礎医学や臨床医学など、研究のカテゴリー別に4部門で構成されており、1987年に利根川教授が、2009年に山中教授が受賞したのは、「アルバート・ラスカー基礎医学研究賞(Albert Lasker Basic Medical Research Award)」でした。

先日、2018年のラスカー賞が発表され、ロックフェラー大学のDavid Allis教授とカリフォルニア大学ロサンゼルス校のMaichaek Grunstein教授が受賞しました。受賞理由は “For discoveries elucidating how gene expression is influenced by chemical modification of histones—the proteins that package DNA within chromosomes(染色体内部でDNAをパッケージしているタンパク質であるヒストンの化学修飾が遺伝子発現に及ぼす影響を明らかにしたこと)”。

タイトルを聞いただけではわかりにくい内容ですが、これはあらゆる生命活動に関わっている、極めて重要なプロセスです。本記事では、今回受賞を果たした研究内容について、生物の専門知識がなくても理解できるように解説します。

DNAの糸巻きをするヒストン

細胞の中心には直径がおよそ10~20μm(マイクロメートル)の細胞核があり、その中に全長2mほどのDNAが収納されています。身近なもので例えると、直径およそ10cmのソフトボールの中に長さ20kmの極めて細い糸が詰まっているようなものです。

細胞の内部では、DNA上の分子配列を翻訳して生命活動に必要なタンパク質を合成するプロセスが常に稼動しています。そのため、非常に長いDNAというコードをいつでも絡まることなく引き出せるようにしておく必要がありますが、そうした仕組みの一つがヒストンです。

ヒストンは8つのタンパク質分子から構成されている巨大タンパク複合体で、細胞核の中でDNAを巻き取って互いに絡まらないようにする機能を果たしています。DNAは、ヒストンの周囲に巻き付いた構造が数珠つなぎになった状態で細胞核内に格納されています。

https://www.extremetech.com/extreme/213582-new-findings-shed-light-on-fundamental-process-of-dna-repair

 

このヒストンが遺伝子のはたらきに関わっていることを示したのが、冒頭でも紹介したDavid Allis教授とMichael Grunstein教授です。

ヒストンとDNAの不思議な関係

生物の細胞は、DNA上に存在する全ての情報を常に翻訳しているわけではありません。髪の毛の細胞であれば、髪の毛の組織を作り出すために必要なDNA上の領域だけを選択的に翻訳し、必要なタンパク質を合成しています。

実は、この「必要な部分だけ翻訳する」というプロセスにヒストンが深く関係しているのです。DNAを翻訳をするためには、針の穴に裁縫糸を通していくように、DNAというコードを一本ずつ「翻訳機」に通し読み込む必要があります(実際はもっと複雑ですが、イメージとして捉えてください)。

前述した通り、DNAはヒストンに巻き付いた状態で細胞核内に格納されているため、翻訳機に通すには、ヒストンから一旦DNAをほどかなくてはなりません。これまでの多くの研究から、細胞核内では、DNA上の必要な部位のみヒストンへの巻き付きが解除され、翻訳可能となることが明らかになっていました。

しかし、このヒストンへの巻き付きを解除している原理については、長いあいだ明らかになっていませんでした。

秘密はヒストンの「しっぽ」にあった

Grunstein教授とAllis教授は、今回の研究でヒストンの表面で起こる化学変化がDNAの巻き付きを制御していることを証明しました。

ヒストンの表面には「テール(しっぽ)」と呼ばれる突起が存在します。DNAの一部が翻訳されるとき、このテールにメチル基(-CH3)やアセチル基(-COCH3)などの化学基が結合(ヒストン修飾)することで、そのヒストンからDNAがほどかれて翻訳可能になる仕組みだったのです。細胞ごとに異なるDNA上の翻訳領域を選択的にほどくプロセスは、ヒストン上のどのしっぽにどの化学基が結合するかで決まります。

それまでDNAの「糸巻き器」としての役割しか知られていなかったヒストンが、実は遺伝情報の発現制御に深く関わっていることが明らかになり、生命科学の教科書は大きく塗り替えられました。

▼ヒストンへの化学修飾によるDNA巻き付き変化のイメージ。

医学の発展を牽引するラスカー賞

ヒストン修飾が遺伝子発現に直接的な影響を与えていることが解明され、様々な疾患の発症メカニズムが明らかになりました。例えば、歌舞伎症候群やRubinstein-Taybi(ルビンスタイン-テイビ)症候群などの指定難病は、ヒストン修飾が正常に機能しないために発症することがわかっています。また、癌や生活習慣病とヒストン修飾異常との関連についても研究が進められています。

ラスカー賞は、生命現象を理解する上で極めて重要で、かつ医学の進歩に貢献した研究が対象となります。過去の例では、「造血幹細胞の発見」(2005年受賞)がその後の幹細胞移植治療へつながり、成熟した細胞の時間を巻き戻す「体細胞核リプログラミング」(2009年受賞)は、現在では再生医療技術の中核に。今回のヒストンに関する研究成果もまた、様々な難病の治療法開発には欠かせない知見となっています。

近年、生命科学分野では、日進月歩のスピードで重要な研究成果が生み出されています。現代医学の発展史そのものといえるラスカー賞ですが、未来の受賞対象になるような革新的な研究成果が、今後も生み出され続けることに期待したいものです。

 

■参考元

Histone modifications and gene expression

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