第2回はこちら

 

  

 

竹見エリはベッドにうつ伏せになり、『Newton』の記事一覧ページを行ったり来たりしていた。

別に何かを読んでいるわけではない。ただ、何かを見つけなくてはならないという気持ちだけでスクロールを繰り返す。しかし何を見つけたいのか、肝心なそれはさっぱりわからなかった。


 

***

 

「インタビューの計画を立てるように」とだけ告げ、山崎先生は教室を去っていった。滞在時間わずか15分。大学の授業ってそんなもの?

 

今日はその後に1コマ授業を受けたけれど、どうにも集中できなかった。来週までにインタビューの計画って、どうしたらいいんだろう。突然「科学について話を聞きにいきたい人」なんて言われても、ぜんぜん想像がつかない。というより、そもそも科学そのものについてそこまで深く関心を持ったことなんてない。科学分野のノーベル賞に日本人が選ばれたときとか、世界初の何かの発見がニュースになったとか、そんなとき以外で「科学」を意識してみたことなんてほとんどないや。

 

どうしよっかな。切っちゃおうか、まだ1回しか受けてないし。だってこの授業、この先1年間同じようなことをやらなきゃいけないわけでしょ?興味のある科学の分野どころか、そもそも何かに興味があるかどうかすらわからないのに、こんな状態で続けていくなんて、ぜったい無理に決まってる。

しかも一緒にいるのが意識高い系女子だけなんて、ダブル・無理だ。ぜーったい途中で嫌になっちゃう。大学に色んな人がいるのは何となくわかってたけど、最初っから性格が合わない人と2人っきりの授業なんてごめんだ。クラスメイトとしてなら良いけど、友だちにはなれなさそうな気がする。

 

と、そこにユイコからメッセージが飛んできた。なんてタイミングだろう。

 

授業後、ユイコは当たり前のようにLINEを開き、ニコニコしながらQRコードの読み取り画面を近づけてきた。

 

「2人だからきっとなんとかなるよ!1年間よろしくね!」

 

このソツなさにもなんかムカついたけど、そこで断れるようなタイプでもないので、愛想笑いをしてなんとなくLINEを交換してしまった。こういうところなんだよなあ、意識高い系の苦手ところ。でもちょっとうらやましい、なんて思わなくもないけど。

 

なんだかすぐに読むのもイヤで、わたしはそのままスマホの電源を切ってベッドに転がった。

 

―こんなに早くめんどくさくなるなんて思わなかった。

 

好きなこととか夢とかやりたいこととか興味とか関心とか、そういうのが誰でもあって当たり前って、どうしてみんな思ってるんだろう。大学に入って何かをしたいとかどうなりたいとか、みんな本当にあるのかな。

 

上級生たちから押し付けられるようにして渡された大量のサークル勧誘のチラシには、むせ返るほど熱気に溢れたメッセージがずらりと並んでいる。「楽しいキャンパスライフを!」とか「熱中できるものに出会える喜びを最高の仲間達と!」とか。大学生活はみんな楽しく過ごして当たり前、みたいな。

たぶん、本当は何かに一所懸命になりたい。でもその「何か」を探すのがすごく下手。「この先も続けられそうなほど好き」ってどうしても思えないし、めんどくさくなっちゃう。

でも理系に来たからには3年生からの専攻選択は避けて通れない。後半2年間は専門に浸らなきゃだし、その専門を極めるためにそれ以外のこともたくさんやらなきゃいけないん、だよね。

―どーして理系選んじゃったんだろう、絶対にミスってる。なんで高3の春に気づかなかったかなあ。やっぱりわたし、なんにも考えてないのかも。

 

つい癖でLINEを開いてしまった。仕方ないのでユイコからのメッセージも開く。

 

『エリイお疲れさま!今日はありがとう♪あのね、去年山崎先生の授業取ってたっていう先輩が見つかったの!一緒に話聞きにいかない?』

 

なんだその人脈力。意識高い系はやっぱり違うな。ありがたいけど、もう初回で脱落しそうなんだよなあ。でもとりあえず、来週もう1回出てみてから決めるか。

 

『お疲れさま。ユイコすごいね笑 一緒に行きまーす』

 

苦手って思ってもなんとなくやっていけちゃうのも、もう18年目だ。たぶんこれからも、きっとそうだ。

 

第4回に続く