東松山駅は、都内の池袋駅から東武東上線で小一時間ほど揺られた先にある小さな駅だ。都会の喧騒から離れたその街に、東京ドーム4~5個分の敷地面積を誇るボッシュジャパン東松山工場がある。案内された工場の事務所は戦前に建てられたといい、木製のガラス扉とどっしり構えた古時計が趣を添えている。

ボッシュは自動車用パーツの開発、製造、販売そしてサービスの業務を行うドイツの会社だ。世界150カ国に拠点を持つ、いわゆるグローバルカンパニーである。今回はそんなボッシュジャパンでディーゼルシステム事業をメインに据える東松山工場に訪れ、新卒3年目にして世界を股にかける、理系院卒の林沙也加(はやし さやか)さんに話を聞いた。

 

経済学部の授業で気づいたマネジメントの面白さ

ーー大学院では工学系研究科にご所属と伺いました。具体的にはどのような研究をされていましたか?

名古屋大の工学部に進学し、学部4年次で生物系の研究室に配属されました。大学院進学後は、タンパク質の構造解析をしていました。普通タンパク質の構造解析というと結晶化してX線を照射するというのが一般的な手順ですが、結晶化せずに溶液中のタンパク質を生きたまま構造解析するということをテーマに研究していました。

ーー学部の頃から院へ進学するつもりだったのですか?

いえ、学部の頃は就活も考えていました。実は大学に入る前に別の夢があったのですが、それが叶わなかったので現役で入った人より3年遅れていたんです。なので女性で理系で3年遅れの人が就活市場でどのように扱われるかまず知りたかった。特にやりたいこともなかったので分野問わず色々見て回りました。当時は、今のようにリケジョがもてはやされる時代ではなかったので、真面目な路線で攻めると無理だなと痛感しました。

ーー林さんが就活していた頃は、現在ほどリケジョが歓迎されなかったのでしょうか?

そうですね、昔は「女性を採用しても3年でやめるだろう」という雰囲気がありました。理系でバリバリ働く女性、というイメージは今ほどなかったのでしょう。普通に戦ってもダメだと思ったので、理系としての強みを活かすため、院進して専門の軸を一つ作ろうと決意しました。

ーー大学院では研究一筋、と言った感じだったのでしょうか?

それがそうでもなくて(笑)。総合大学だったので、経済学部の学部生のやってるゼミに参加して組織論やリーダーシップ論も学びました。理系の学生は私しかいませんでしたが、文系の強みである経済・歴史・法制度といった複雑に絡まりあう世界観に触れられたのが面白かったですし、何より自分は研究で手を動かすよりプロジェクトを回すほうが肌に合うという重要な気づきを得られました。そこで2度目の就活の際は、PM(プロジェクトマネジメント)をさせてもらえるような会社を探すことにしました。最近では日本の会社でもPMの採用枠が設けられるようになりましたが、私が就活してた頃はほとんどありませんでした。多くの企業でマネジメントに携わろうとすると、営業やって、各部署回ってと長い下積みが必要ですが、私はそんなのんびりしたくなかったんです(笑)。なのでボッシュでプロジェクトマネージャーの募集を見かけて迷わずにボッシュに決めました。

ーー経験0の状態からマネジメントを学ばれたのですね!具体的にはどのような業務からスタートするのでしょうか?

マネジメントを学ぶプログラムとして、初めの2年は半年ずつ海外の拠点を回って部門を越えて様々な仕事に取り組みました。このプログラムのいい点は何もわかってない時にクリアな目で色んな経験ができて人脈が作れることです。同じような業務内容でもイギリスのお客さんと日本のお客さんでは進め方だったり会話の頻度、取り方が代わってきます。例えば海外は専門家とマネージャーの仕事には明確な線引があって、仕事の分け目がクリアだなと思いました。日本だとみんな役職に限らず手広く業務することも多くて、仕事する上でも文化が違うなと感じました。また、海外では日本以上に「子供のお迎えの日だから早く帰る」という人が男女問わず多いという印象を受けました。

ーー海外の拠点で働く上で苦労はありましたか?

一番の苦労はやはりコミュニケーションですね。高校の頃に1年間アメリカにいたので、基本的な会話は大丈夫だろうと思っていましたが、ノンネイティブの人達が集まるグローバルチームで話すとまったく聞き取れないし通じないということがざらにあります。ただ海外で働いて気がついたことは、ドイツ人も中国人もインド人も、英語を第二外国語としている以上は言葉が通じないもどかしさを共有していることです。自分だけがわからないわけではない、お互いにコミュニケーションを工夫しながら国境を越えて働けるとわかりプロジェクトマネージャーとしての自信に繋がりました。

理系だから女性だからで自分を縛らないで

ーー東松山工場は歴史が深いと伺いました。伝統が感じられると同時に気になるのが働きやすさです。働きやすさに関して何か工夫はされているのでしょうか?

働き方は人によって違っていて当たり前で、時間かけてゆっくりやりたい人もいれば早く帰りたい人もいます。私は早く帰れる日はクラシックバレエのレッスンをしたり、料理をしたりしています。金曜日は基本的に全員定時退社するというルールなので、17時には帰れるのが嬉しいですね。

女性は数としては多くはないですが様々な部署で活躍していますし、最近だと男性でも育休取られる方はいるので男女問わず働きやすいと思います。また、ゆくゆくは海外に駐在したいとも考えていて、自分の希望はきちんと意思表示をすれば汲み取ってもらえる環境にあるのがありがたいですね。

ーー入社されて今年で3年目とのことですが、実際にプロジェクトマネージャーとして働かれてみてどうですか?

結果的に思い描いていたような仕事に就くことができて満足しています。物事を進めていくポジションなので、営業はもちろん技術的な部分もリードしていかないといけません。専門のエンジニアも含め社員が一丸となってプロジェクトを進行させることにやりがいを感じます。

ただ入社したばかりの時は苦労もしました。技術や製品の知識が十分にないうちは、お客さんの話にもついていけなかったり電話口でも聞き取れなかったり、とにかくわからないことだらけでした。一番初めに取り組んだプロジェクトは、あるトラックメーカーさんがASEANの地域に売り出す車両の排ガス量を軽減するために、その車両と弊社製品をどのように組み合わせるべきかを事前調査をするというものでした。その時はどのように進めるかも手探りで、分からない用語が多くて議事録すら満足に取れなくて大変でした。あの頃に比べるとだいぶ慣れてきたように思います(笑)。

ーー理系学生が世界で活躍するためには、どのような心構えが必要でしょうか?

いちばん大事なのは環境適応能力だと思います。専門的な知識とかマネジメントの能力とかって後からでも十分身につけることが可能です。そのため、研究室でやったことを直接活かすことだけを考えるのではなく、いかに新しい環境に適応していけるかが大事になると思います。現在ボッシュは150カ国に拠点があり、希望すれば海外で働くことも可能です。文化や言葉が違えど、地道な研究の中で培われた胆力や論理的思考があれば、異なる文化圏でもその環境に適応しながら自分の強みを発揮できるのではないでしょうか。

ーー文系に比べて少ない理系女子学生に向けて、アドバイスがあれば教えてください。

私は既婚者ですが、学生の頃は結婚するとは思っていませんでしたし仕事以外の将来について真面目に考えることもありませんでした。もし就活するのであれば、就職した先にどんな人生を描きたいのか考え、希望が叶いそうな会社を選ぶことが大事です。あとは、理系だから女性だから、マイノリティだからという思いで自分を縛ってしまわないようにして欲しいです。自分のバックグラウンド以外のところにも仕事は沢山あるので自分のしてきた研究と直線的にはつながらない職種も考えてみるといいと思います。

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