幼い頃からSFの世界観に憧れ、夢見た世界を実現すべく奮闘する人がいる。人工培養肉の開発を行う「Shojinmeat Project」のチームを率いる羽生雄毅(はにゅう ゆうき)さん。チームをマネッジする傍ら、自らも「純肉」の培養に日夜取り組み、将来は火星での大規模な人工培養肉プラントの建設を目指す。今回Lab-Onは、世界が注目するバイオハッカーに話を聞いた。【連載①】(文・取材=久野美菜子、写真=野口真梨乃)

食肉が抱える課題

何を隠そう、私は肉が大好きだ。
魚を食べない日はあっても、肉を全く食べない日は少ない。

たとえばカレーやラーメン、チャーハンを食べて「あ〜肉食べたなぁ」と実感することはなくても、多かれ少なかれ肉が入っていたり動物性の油脂がふんだんに使われている。意識するしないに関わらず、多くの読者にとっても肉は身近な食べ物のはずだ。

先日、数年ぶりにあった高校生の従姉妹が*ビーガンになっていた。オーストラリアの高校に通う彼女は、授業で家畜の屠殺シーンを見て以来肉が食べれなくなったそうだ。


*ビーガン:純粋菜食主義者。肉だけでなく、卵や乳製品も摂らない。

あんなに焼肉好きだった従姉妹が、野菜とケチャップしかのっていないピザ(チーズもNGらしい!)をもしゃもしゃと頬張るのを見て心底驚いたが、彼女いわくオーストラリアではビーガンはさほど珍しいわけではなく、大豆ミートや豆乳チーズなど植物性タンパク質由来の食品も充実しているらしい。

そういえば都内でもちらほらビーガン向けのお店を見かけるようになり、昨今の食や生活スタイルの多様化に伴い肉を食べない食生活も徐々に浸透しつつあるようだ。しかしそれは先進国に限った話で、世界人口が増加の一途をたどる今、食肉の需要は増している。

食肉を巡る問題はさまざまあるが、まず畜産物の生産に多くの飼料が必要であることがあげられる。たとえば図1. を見ると、肉1㎏をつくるためにその倍以上の穀物が使われている。

図1. 畜産物1kgの生産に要する穀物量 (農林水産省より)


また、大量に使われるのは飼料だけではない。肉を作るには水も沢山必要だ。例えば、1kg のトウモロコシを生産するには灌漑用水として1,800 リットルの水が必要になるが、牛はこうした穀物を大量に消費しながら育つため、牛肉1kg を生産するには、その約20,000 倍もの水が必要だという。(参考:環境省HP)

さらには2050年には世界人口は90億を突破すると言われている今、限られた資源を用いて食肉を安定的に供給することは困難なものとなりそうだ。そう考えると、食肉以外のタンパク源の需要は、資源や文化的側面、さらに個人の信条といった意味合いでもどんどん拡大していくだろう。

肉は培養できる!?

食べることが好きな私は、このテーマに対しかねてから関心を寄せてきたが、そんな折、ニコニコ動画に投稿された「培養肉作って食べてみた!」という1本の動画に衝撃を受けた。

動画の詳しい内容は見て頂くほうが早いので割愛するが、筋芽細胞を自家製培養液で培養し、筋肉細胞でできた肉を調理するというものだ。この動画内で培養肉を開発するのは有志団体「Shojinmeat Project」だ。2014年に研究者、バイオハッカー、学生、イラストレーターらが集まってスタートしたという。

手づくり感溢れる動画は、お世辞にも大規模な研究所で資金を投入されている様子は感じ取れない。一体どのような団体がどのような思いで培養肉をつくっているのだろうか?

4月某日、わたしは本郷三丁目のビルの1フロアにあるLabCafeで「Shojinmeat Project」代表の羽生雄毅(はにゅう ゆうき)氏から話をきくことが出来た。

「僕たちは純肉って呼んでますけど、いわゆる人工培養肉に興味を持ったのは、僕個人のSF趣味ですね。特定のSF小説が好きとかそういうのじゃなくて、ただただSFの世界観が好きなんです。人工培養肉ってアイデア自体はありふれたもので昔っからあるものです。それこそ僕が7,8歳の頃から想像したりはしてました」

確かに、「人工培養肉」という言葉を聞いて思い浮かんだのはSF漫画の1コマだ。昭和25-29年にかけて漫画少年で連載されていた手塚治虫の「ジャングル大帝」内での人造肉をつくるシーンや、楳図かずおの「14歳」の主人公チキン・ジョージも鶏肉製造工場で培養された。


ジャングル大帝レオ第三巻p83,84より

目指すは火星での純肉培養

しかしSFはフィクション(虚構)と名指しされるほどには現実離れしたもので、やすやすと生み出されるものではないはずだ。そんな疑問を知ってか知らずか、羽生氏の言葉は続く。「将来的には火星に大規模なプラントを立てて人工培養肉を地球の外でも開発できるようにしたいと思っています」


Shojinmeat Project 公式HPより

試験管内での培養肉に加え、火星での大規模培養肉施設とは、いきなり大風呂敷を広げられたようで正直とまどいを隠せない。素人考えでは随分飛躍した感があるし、そもそもなぜ火星をターゲットにしたのだろうか。

「いや、現実的に考えて火星はちょうどいいんですよ。技術的にも距離的にもちょうどいい。火星に牧場をつくるわけにはいきませんから、肉を食べようと思ったらプラントを建てるしかないんじゃないですかね。」

なるほど、確かに家畜を平均気温-50度の火星で飼育することはまず不可能だろう。しかしSFの世界を現実化して火星に食料工場を建てたところで、利用価値がなければ無用の長物ではないのだろうか?

「まぁ僕自身火星にプラントを建てるというのはかなり先の話かなと思っていました。しかしNASAのエンジニアと話したら、宇宙食の消費期限が2年程度なのだと言うことを聞かされました。だから火星への有人探査計画の時点で既に食料生産の需要があって、もうすぐにでも欲しいんだ、との話をされました」

“人間が想像できることは、人間が必ず実現できる” はフランスの作家ジュール・ヴェルヌの言葉だが、もはや想像の領域を越えて現実的に需要があるとは、、!私は自分のイマジネーションの足りなさを恥じずにはいられなかった。

ところで、目の前にいる羽生雄毅氏は一体どのような経歴を歩んできたのだろうか?
これについては次回詳しく掘り下げよう。

<つづく>