via/NASA,SDO

巨大なL字と太陽観測機

近年の大きな科学イベントとして記憶に新しいのが、『LIGO(ライゴ)』と呼ばれる、アメリカのレーザー干渉計型重力波検出器を用いた重力波の観測だ。ブラックホールの合体や中性子星合体によって生じて宇宙を伝わってくる重力波を探知し、アインシュタインが約100年前に存在を予測した重力波を初めて直接観測した。2017年のノーベル物理学賞に輝くほどの大きな業績で、重力波を検出できるようになったことで、これまでわからなかった宇宙の側面を知ることが出来る可能性がある。

130年前のLIGO

 LIGOとは、4kmの長さのチューブが直角に2本、端のほうで交わるL字型の形状をしている施設。それぞれのチューブにはレーザー光が通っている。チューブが交差する部分にはレーザー発射装置が置かれ、4km先には正確にセットされた鏡が配置されている。レーザーの光は鏡に反射して発射位置まで戻り、そこでもう1本のレーザー光と交差する。

 交差した部分では、光の波の重なりはモアレパターンのような縞模様(干渉縞)として見ることができる。レーザー光は波長・位相が揃った光なので、レーザーの発射装置と鏡、交差する部分の位置が変わらなければ干渉縞はパターンは変化しない。

 この干渉縞の計測によって重力波が検出できるのは、重力によって空間が歪み、延び縮みするという相対性理論の原理から来ている。光は空間を直進する性質を持つが、その空間自体が重力によって歪められた場合、交差する2本のレーザー光それぞれの波が変化し、干渉縞の変化として捉えることできるわけだ。

 LIGOにおいて干渉縞を検出している部分は、「マイケルソン・モーリーの実験」で有名なマイケルソン干渉計である。

 マイケルソン・モーリーの実験とは、1877年にアルバート・マイケルソンとエドワード・モーリーによって行なわれた実験で、LIGO同様にL字型の実験装置を用い、原理的にもほぼ同様だ。

 この実験は光と空間の性質を探ろうとする歴史の中で重要なマイルストーンにあたるもの。当時、空間を伝わる光は真空を満たす媒体「エーテル」の波だと考えられていたが、エーテルそのものを検出することはできなかった。そこで、エーテルの中を地球や太陽系が動いているのであれば、地球自転の向きによってL字型の光路を通る光の速さも変わり、干渉計を使うことで“エーテルの流れ”を検出できると考えた。しかし理論的に導かれるような干渉縞のずれは計測されず、この“本来想定した結果が得られなかった実験”はエーテル理論に終止符を打つことになる。

アルバート・マイケルソンはこの業績によりノーベル物理学賞を受賞しているが、なによりこの失敗した実験が光速度の不変性に繋がり、相対性理論の礎となったのは科学史において重要なターニングポイントだ。いずれもノーベル賞となったLIGOとマイケルソン・モーリーの実験、130年の年月を隔てていても基本的に同一の実験が新しい科学を開いたと言える。

※LIGOの概要

 https://www.ligo.caltech.edu/page/about

※マイケルソン・モーリーの実験(Wikipedia)

https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%9E%E3%82%A4%E3%82%B1%E3%83%AB%E3%82%BD%E3%83%B3%E3%83%BB%E3%83%A2%E3%83%BC%E3%83%AA%E3%83%BC%E3%81%AE%E5%AE%9F%E9%A8%93

太陽の中年太り

 さらにその一方、もうひとつ重力と相対性理論に関する研究で、奇妙な過去との繋がりを見ることができるニュースも。

 NASAは1月19日、水星の動きを追跡することによって惑星の軌道変化を測定したと発表した。太陽系内の惑星の軌道が拡大している様子が、“太陽も中年にさしかかって腰回りが伸びてきた”とおもしろおかしく表現されているのだが、実際は太陽の重さが増えたわけではなく、その逆に重量の減少を意味している。

 太陽は核融合によって質量をエネルギーに転換して輝き、また太陽からは大量の粒子が宇宙空間に向けて放出されており、太陽系初期に比べて太陽の質量を1/10程度減っているという。惑星を太陽に引き付ける重力が弱まれば、惑星は次第に遠くに離れることになり、現在も惑星の軌道は徐々に広がっているという(その数値は1年あたり1.5cm/1AUなのだそうだ)。これまでにも太陽の質量損失は理論的に計算はなされていたものの、観測値から求めることができたのは初とのこと。

 これはNASAの水星探査機MESSENGERの位置を詳細に観測して得たデータをもとにMITの研究者が計算したものなのだが、そもそも水星の軌道測定は科学史にも残る大きな出来事。そう、20世紀初頭に水星の*近日点が移動している謎に対し、アインシュタインが一般相対性理論によって説明付けしたことだ。

*近日点:軌道上で太陽に最も近くなる点

 19世紀、外惑星の軌道のずれから当時未発見の海王星の存在が予言された際、水星の近日点がわずかに移動することが発見され、さらに内側に惑星があると考えられてSFファンにとってはおなじみの「バルカン」の名前まで付けられた。近日点の移動は未知の惑星の引力で軌道がずれたわけではなく、太陽の重力場が空間を歪曲していると考えれば計算が合うとアインシュタイン自身が1915年に発表している。

 水星の近日点移動は仮説を証明する間接的な説ではあったものの、その数年後、アーサー・エディントンはアフリカに遠征して皆既日食を観測、太陽の重力場の影響によって起きる星の位置がずれを一般相対性理論の直接的な証拠とした。

 今回、MESSENGERの位置から水星軌道を精密に測定、さらに太陽自体の扁平さの影響、外側にある惑星の影響などを考慮し、太陽質量の変化を計算している。観測結果から得られたこれらの数値自体も一般相対性理論の正しさを証明するものとで、Natureに掲載されている論文”Solar system expansion and strong equivalence principle as seen by the NASA MESSENGER mission”ではタイトルからしてすでに「強い等価原理」の確証が謳われている。

 太陽質量の損失速度やそれが惑星軌道に影響する割合など、恒星や惑星系の進化などへも大きな知見となる今回の発表だが、一般相対性理論が初めて確かめられてからほぼ100年、それも水星と太陽という組み合わせで得られたことは、なかなか素晴らしい偶然の一致ではないだろうか。

 一般相対性理論から100年目の快挙としてLIGOによる重力波の直接的な初観測を讃える声も大きかったが、重力波検出にしてもMESSENGER観測にしても、とくにタイミングを狙ってできることではない。現代物理学・天文学・宇宙物理学など基礎をなす一般相対性理論の100周年に捧げる記念と言えるだろう。


 

NASA:NASA Team Studies Middle-aged Sun by Tracking Motion of Mercury

https://www.nasa.gov/feature/goddard/2018/nasa-team-studies-middle-aged-sun-by-tracking-motion-of-mercury

 

Nature掲載論文:Solar system expansion and strong equivalence principle as seen by the NASA MESSENGER mission

https://www.nature.com/articles/s41467-017-02558-1

doi:10.1038/s41467-017-02558-1