近年、働き方改革の影響もあってか民間企業の労働環境の是正が声高に叫ばれるようになった。一方、アカデミアにおける労働環境、研究環境に注目が集まることは少なく、その実態がつまびらかになることは滅多にない。

そんな中、水無月@アカハラ告発中さんのツイート内容に注目が集まっている。

ここでは水無月@アカハラ告発中さん(以下水無月さん)への取材およびツイートを踏まえ、アカデミックハラスメントのリアルに迫る。

水無月さんのプロフィール

学年・所属は明かしていないが、工学系の研究をしている理系の学生。
昨年末一時的に鬱の症状になり大学に登校できなくなった。現在は休学中だが、他分野のゼミを受けながら復学の準備を進めている。

「休学に関しては、何か大きなきっかけがあったわけではなく、研究室でのストレスが積み重なった結果だと思います。しかし昨年末に(研究室の)教授から別の学生に送られたメールを見て何もかももうどうでもいいと思ってしまったのは確かです。」

水無月さんの学年が幹事を務めた忘年会のセッティングで何かが教授の気に障ったのか、“有志忘年会"と称して水無月さんの学年以外を弾いた忘年会が開かれた。

「Bccで特定の人にだけメールを送る、または送らないということはよくあることで、これはまだ序の口だと思います。」

第一志望の研究室はブラックで有名だった

今の研究室を決める前に複数の研究室を訪問した結果、一番興味が惹かれたのがその研究室だった。今まで受けた授業で面白いと思ったのもその研究室の教授の授業だったという。

「同じ学科内ではその研究室がブラックだということは知られていましたが、指導が厳しいというイメージでした。今思えば青臭い発想かもしれませんが、厳しい環境を乗り越えてこそ一流の研究ができると考えていました。」

研究室に配属される前、もしくは配属された直後はブラック=指導が厳しいという認識だったのだ。

研究室の構成は、水無月さんの学年は全員で5人で他の学年も3-5人程度。*コアタイムの縛りはなく、やりたい人は深夜まで実験をする。どこにでもある普通の研究室のように聞こえるがー。

「押し付けられる実験、学会のスライドづくりが多かったです。期限を設定されて、仮設どおりの結果を出さなければ怒られます。忙しくて出来ないと言っても、企業との共同プロジェクトを勝手に登録され断れない状況を作り出されることもありました」

「また、気に食わない学生がいると、『こいつは出来が悪い』と全員の前で言ったり、Bccで他の学生一人一人に注意喚起と称してメールを回したりしました。また、学生本人にむかって『研究室のみんなお前のことを鬱陶しく思ってる』ということもありました。」

「僕に関しては、『学会に出させてやらない』ということを言われました。」
*コアタイム:研究室に在室しているべき定められた時間。

学歴ロンダリングは許さない

教授からのメールは研究室内のイベントや運営に関わるものだけではない。
メールの文中には、研究室に落ち着きがなく、上級生の下級生への指導が欠けている。人間性、特に研究室、学問、人に対する謙虚さに基づく「仁義」と「縁」の尊重が肝要であること。さらに
「君たちがこの分野で生きようとする限りは、しばらくは僕(教授のこと)の掌の上の人間関係で動く」
ことが書かれている。これに続くメールは以下の通りで、

学部からの移籍は一切許さないという意思のもと、教授からの指導は受けられないことが書かれており、行き先の研究室に当該学生を切り捨てたというメールを送るという趣旨のことが述べてあった。

中にいる時はブラックだとは思わない

水無月さんとの一問一答は以下の通り。

ーー研究室がブラックだなと感じたのはいつですか?

「いつだろうー、、はっきりとは覚えていないですが、休学して2ヶ月ほど立ってからでしょうか。」

ーー休学するまではブラックだと感じていなかったのですか

「研究室にいる時は、厳しいという言葉で自己洗脳にかけるようなことをしてて、研究から離れても暫くの間は自分がついてけなかったということばかり気にかかっていました。」

ーー中にいる他のメンバーも同じように厳しいとの認識なのでしょうか?

「そうですね、他の人も似たような認識だと思います。教授自身が愛のある厳しさだと言っているので。」

ーー相談できる人はいましたか?

「学内のカウンセリングに行ったりしてたが中の人は完全に信頼出来るとは思いませんでした。かつて鬱で休んでいた先輩と、カウンセラーと教授の3人で話した内容を教授がうちの研究室で暴露したりしていたので。教授は『鬱は弱い人がなるものだ、俺にはそういう悩みはない』という持論があり鬱に対する理解はなかったと思います。」

ーー水無月さん以外にも消極的な休学をした先輩が?

「途中でやめた先輩もいれば、大学院進学辞退した学生、休学した先輩もいます。」

なぜ改善されないのか?

改善されない一つの理由としては、大学の自浄作用の低さがあげられる。

たとえばハラスメント相談の多くは守秘義務があり、カウンセラーの情報はもれない。個人を守る上で必要なしくみではある一方、対症療法的な当座凌ぎの解決(というものがあればだが)にしかならない。つまり運営上問題がある組織が淘汰されることはないのだ。

また、告発した際に報復的な措置をされかねないいう恐れもあると水無月さんは言う。

「僕はもうこの分野には見切りをつけ、いまは別の分野の授業やゼミを受けています。なので他の学生ほど及び腰ではありませんが、自分がこうした訴えをおこすことで自分の同期や先輩後輩に何か被害が及ばないかが心配です。学会に出させない、実績をつませない、留年させる、などということをされたらー。そう思うと辛いです。」


ーー最後にハラスメントを受けている学生に向けて、何か伝えたい事があれば

「まずはハラスメントを認知すること、そしてハラスメントが横行する環境からできるだけ早く遠ざかる。また、声を上げた時、報復が全く無いわけではなくて、そういう話は色んな人から聞きました。精神が不安定になった状況で返り討ちにあうことはよくある。とりあえず離れるなり自分の心の平成を保つことは大事だと思います。何があっても死ぬようなことは、絶対あってはなりません。」

いじめを悪ふざけやその場のノリと称するのと同じように、アカデミックハラスメントが厳しい指導、愛情と美化されてはいないだろうかー?今回の事例は、アカハラがブラックという言葉に吸いとられてしまっている気がしてならない。