5月21日、東京大学の五月祭で日本政策創造基盤・東京瀧本ゼミ主催イベント「河野太郎の大学の悩み聞きます」が開催された。河野太郎衆議院議員と瀧本哲史京大客員准教授、そして現役研究者が「研究環境を改善するためにいま大学に必要なことは何か」を大学研究の「現場」で議論した様子をお届けする。(取材:神野拓哉・久野美菜子)

登壇者およびゲスト研究者の紹介

<登壇者>


河野太郎
自由民主党所属の衆議院議員で、現在は、自由民主党行政改革推進本部長。国家公安委員会委員長、内閣府特命担当大臣、自由民主党幹事長代理、法務副大臣、衆議院決算行政監視委員長・外務委員長等を歴任。
昨年末、大学の研究費について言及し、話題に。


瀧本哲史
東大法学部卒業後、東大法学部助手、マッキンゼーを経て、現在は、エンジェル投資家、京都大学イノベーション・マネージメント・サイエンス研究部門客員准教授。
主著『武器としての決断思考』

<ゲスト研究者>

川口康平
一橋大学経済学研究科講師。給与額を理由に2017年8月から香港技術科学大学ビジネススクール経済学科に移籍する旨をツイートし議論を呼ぶ。

藤原幸一
京都大学大学院情報学研究科助教。データ解析技術・システム工学・ソフトウェア工学を用いて実社会問題にアプローチする。リアルタイムてんかん発作兆候監視アルゴリズムを開発し注目を浴びる。

なぜ「ネ申(かみ)エクセル問題」に斬り込んだのか?

瀧本:そのそも河野さんはなぜ大学の問題に着目されたんでしょうか?

河野:自民党で行革推進本部長を引き受けました。そうこうするうちにある日メールが一通来ました。

「科研費の申請に罫線だか枠線だかがあって邪魔なんです。なんとかしてください」と。

ゴミ箱に入れようかと思ったんですけど、なんだかわからなかったのでとっておいて、あるとき文科省に「科研費申請書の罫線ってなに?」ときいたら学術振興会の担当者と一緒に来てくれました。それで「多分これのことだと思います」とファイルを見せてくれたんですが、私は「手書きなら罫線が必要だけどExcelに罫線がなんで必要なの?なくしたらどうなの?」と言ったら「では、なくします」ということになって。ついでに「枠線ってなに?ページレイアウトしてあるなら枠線はいらないでしょ?」と言ったら「では、これもなくします」ということになり、その経緯を公表したらその日からメールが大量に来るようになりました。

その中の一つが「*神エクセル」で、「1マスに一文字ずつなんて、馬鹿じゃないの?」と言ってこれも廃止させるようにしました。

*神エクセル:独自の罫線や複雑な書式を多用しており、データとしての再利用が困難で現場の生産性を下げるようなエクセルファイルのこと

他にも「アマゾンで買えば1日で届く本も生協で注文しなければならないし、頼んで3ヶ月後に『その本はありません』という連絡が来た」といった理不尽な経理上の要求があると聞いて、それについて文科省に聞いたら、文科省がしていることではないという。大学のおかしなローカルルールなんですよね。そこでさらにローカルルールをネットで募集したら、メールボックスを開くのが怖いくらいの膨大な量のメールが来ました。最終的にはすべての大学が文科省に対して「ローカルルールはやめます」と言っている状況まで来ました。

瀧本:昔から役所は非効率というイメージがありますが、実際に「もう20世紀じゃないんですよ!」と言いたくなるようなことがたくさんある。たとえば東工大の、学会出張に本当に行ったことを証明するために参加しているところの写真を撮ってこいというものとか。ひとつひとつ対応していてもきりがないので、今回の対談では全国の研究者の方々から要望を募集しました。

現役研究者からの提案

瀧本:まずは一橋大の川口康平先生です。今回は研究者の方々にアンケート調査をしていただきました。

川口:今日は「研究の生産性向上のための間接経費の公平な利用について」というテーマで報告します。

*間接経費:直接経費に対して一定比率で手当され、競争的資金による研究の実施に伴う研究機関の管理等に必要な経費として、被配分機関が使用する経費。競争的資金をより効率的に利用するために平成13年に導入された。(参考:内閣府HP

実態はどうか調べるために200名以上の研究者にアンケートを取りました。「間接経費が競争的資金をより効果的に使用するために活用されているか」という質問に対して、否定的な回答が45%で肯定的な回答の16.4%を大きく上回っています。さらに「間接経費によって研究環境が改善しているか」という質問に対しても58%が否定的な回答をしており、「研究者の所属部局の環境が改善しているか」という質問も、45.5%が否定的な回答をしている。

このように間接経費がうまく使われていないのですが、実際に何に使われているかを調べるためには経費の使用経路が公開されている必要がある。制度としては公表することになっているのですが、実態としてはそうはなっていません。平成25年度の総務省の調査では、多くの大学で研究者に対して間接経費の使途を周知していませんでした。さらに周知している大学でも、文書にして公開しているのはその半数程度。そのほかは教授会で口頭で説明したり、問われれば答えるということになっていたりしています。今回のアンケートでも、間接経費の使途の透明性が確保されているかという質問に対して45.8%が否定的に答えています。

ということでここで提案する要望は

  1. 間接経費の執行にあたっては、従来不分明であった「競争的資金を獲得した研究者の研究開発環境の改善」と「研究機関全体の機能の向上に活用する」経費を厳格に区別した上で、前者に一定以上の比重を置くこと。

  2. 「競争的資金を獲得した研究者の研究開発環境の改善」においては研究者の研究時間確保のための使途を明示的に認めること。

  3. 間接経費の使途について定めた取扱要領・マニュアル・方針等を公表又は配布・ 周知する。「競争的資金に係る間接経費執行実績報告書」を公表又は配布・周知する。

となります。そもそもなぜ研究者のための経費が所属機関のために使われているかというと、大学の運営交付金が削減される中で、競争的教育経費が不具合を起こしているため研究のための経費が教育目的に使われて研究者のメリットになっていないということがあります。そのため最終的には競争的教育経費の機能不全を改善する必要があります。

河野:間接経費は17の項目に使って良いというのはみなさんご存知でしょうか。それを見ると施設整備や大型計算機の維持など、本来の目的と関係のないものまで含まれています。報告によれば総額519億円の43%が「その他」の使途となっており、間接経費が具体的に何に使われているかを文科省が算出するところから始めています。これが下からの変化です。

そして上からは文科省から国立大学法人への現役出向、これをやめない限りはこういう問題は解決できないんじゃないかと思っていますので、働きかけていきます。この中に国立大学の研究者の方がいましたら、ぜひ声を上げていきましょう。

瀧本:間接経費の使途が半分近く「その他」に入れられていて、何に使われているか文科省に聞いてもボワーっとした返答しか返ってこない。だいたい会社の決算でも、「その他」が多いところって怪しい会社なんですよね。言えないものは全部「その他」へ入れてしまうんです。こういうのは証拠を集めないといけないんです。先ほどの大学への出向の話でも、何人出向しているかちゃんと聞かないと教えてくれないんですよね。聞かれなかったら答えなかったんですというような対応をします。そうした証拠を集めていくやり方を河野先生はずっとやっていらっしゃって、evidence based policyというんですけど、医療でちゃんとした証拠を基に治療を進めるように、政策も証拠を集めてやっていくべきだという考え方で、感情論に流されずデータを集めていく河野さんはいわば研究者に近いようなやり方をされています。

大学教員の待遇格差

河野:大学教員の待遇の問題に最初に触れたのは、だいぶ前に海外へ出て行かれた経済学部の先生に呼ばれて、今年も経済学のトップレベルの研究者が香港の大学に引き抜かれた、流出を止めたいが止まらないという話をしたときです。なぜ海外へ出て行ってしまうのかというと、まず給料が2倍、3倍と違う。そして雑用から解放されるからですね。

ウォール街の給与水準の変化が経済学の大学教員にまで波及して諸外国では給料が上がったんですが、日本だけは頑として上げなかったという話なんです。これに対しいくつかやったことの一つは、大学教員を本当に正しく評価しようというものです。国内の代表的な大学の経済学部で、常勤の講師以上がどれくらい国際的なジャーナルに論文を出しているのかという調査があって、見ると中間値がゼロ、つまり半分の人は一本も論文を出していない状況でした。

そういう人たちがテニュア(終身在職権)を持っているという状況は何かおかしいんじゃないの?と思って経済学部に限らず大学教授がどれだけ論文を出しているか調べろ、と半年近く文科省に迫っているんですが、向こうはなかなか反応がなく逃げ回っています。

もう一つ、大学教員の給料をちゃんと公開しろ、と言ったら文科省は「いや、それは個人情報ですので…」と逃げるんですが、国会議員だって給料を公開しているし評価にしたがって給料が決まるべき研究者の実情を公開することで「あの人がこんなにもらっているんだから私の方が高いはずだ」と思って流出した研究者が海外から戻ってきてくれるようなことが起こり得るんじゃないかと思っています。その前段階として名前は伏せて、大学ごとに教員の論文数と給料を出してみろ、と言っています。まずは経済学部から研究者の給料がその人の評価に見合ったものにしていくつもりです。

これは相当な痛みを伴ってやらないと変わらない問題だと思っています。テニュアをもって終身雇用のように研究をしなくなってしまった研究者に対して、研究しないのなら教育のトラックに移ってもらうなり給料を下げるなりする、理科系であれば研究室を取り上げてしまうというようなことをやっていかなければいけません。そうしてできたお金を若手の優秀な人に回していく。待遇が評価に見合ったものにしていかないと日本の研究は進んでいかないと思うのでそれは果たして今の文科省の体制でできるのかというとおそらく変革が必要なので、今日いらっしゃる研究者の方の中でこうしよう、という案があれば承ります。

瀧本:ここ20年くらいで職業別にどれがいちばん給料が下がったかという調査をしたことがあるんですけど、一番下がったのは自動車組立工でした。昔は職人の手でやっていたものが今は自動化が進んでいるので、30~40%くらい下がったんです。

では一番下がっていないのは何か調べてみると、ベスト5に大学教授があって、非常に安定した職業です。それに対して成果が出ていれば何の問題もないんですけど、「どうかな?」という感じです。今は若手の研究者の方がすごく業績があって、それでもなかなか就職がないと。それに対して昔テニュアを取った人が研究していないのに何もチェックされていない状況が顕著です。どれだけ研究時間を取れているかというアンケートでも、いちばん研究しなければいない若手が研究に時間を回せていない。一方で上の方の人たちは研究時間はあまり減っていないが、研究成果は「…」という感じです。これは明らかに資金配分としておかしいですよね。会場から何か質問ありますか?

参加者:文科省の役人はなぜ現状の調査から逃げるのでしょうか?

河野:文科省から大学に出向した人たちに、ちゃんと人事評価などができて待遇に反映できる人がいないのでしょう。それが出来る人を大学に送ることは、文科省としては決してプラスなことではないようです。大学の事務方に現役出向した文科省出勤者に研究者の評価や待遇改善をやる気がなく、文科省と大学上層部とが一体になって事なかれ主義に流れているように思います。

人事評価をちゃんとできる人をいろんなところから引き抜いてきて大学に入れることが必要だと思います。

川口:研究者の業績から待遇を決めようとするときに、そもそも国立大学の研究者って労働契約書をもらって条件の交渉をしてということがないんですよ。それで働き始めて大学に行くと辞令書っていうのをもらってそこで給料を知らされる。待遇改善以前に交渉する基盤がないんです。ですのでまずはちゃんとオファーレターを出すとか労働契約書をやり取りしたりする必要があります。

河野:最近いろんな方から、大学から内定と言われたけれど口頭でしか言われていない、そして実際に行ってみたら口頭で言われていた額と全然違うという声を聞きます。私は個人的な問題は対応できませんが、そのこと自体は大問題だと思って、文科省に大学教員の内定の時にどれだけ書面で通知しているか調べるよう求めています。おそらく現状では契約の時に「研究時間はこれだけ取れます」と言えないんじゃないでしょうか。雑用がきたら先生に仕事が振られる状態ですから。まずはこれを変えて、労働条件を書面で明記し、その研究時間を確保するために事務職を雇うといったことができるようにするのことが必要です。

瀧本:役所の皆さんもかわいそうだと思います。データを出せ、と言われても若手がそういった調査に割く時間的リソースはないと思います。司法試験に受かった人たちが深夜にコピー取りしているような状況ですから。藤原先生いかがですか?

藤原:待遇の基準になる評価がどうなされているのかさっぱりわからないですね。給料やボーナスを決めるための評価は一応示されるんですが、根拠がわからない。企業であれば上司からフィードバックがあってじゃあこうしよう、という話になるんですが。大学教員は半ば個人事業主みたいなものですけど、それでもなんらかのフィードバックがなされるべきだと思います。

運営交付金の減額

藤原:競争的資金については私自身は悪いことだとは思っていなくて、科研費のように研究者同士がピアレビューをして自由なテーマで研究をしていく機会を増やしていくべきだと思います。問題なのは大型研究予算といった国が主導するようなもので本当に成果が出ているのか、そして*PMとよばれるごく少数の人たちに大きな権限とお金をつけていくやり方が科学研究として正しいのかという問題を考えなければいけません。研究はそれぞれの研究者が自分たちのリスクの範囲内で行うべきものなのに、特定の人に何十億というお金をつけた結果、*ImPACT(革新的研究開発推進プログラム)のようなことになっている。
PM:政府主導の大型研究費ImPACTで各プロジェクトに任命され、大胆な予算と裁量権を与えられるマネージャー。プロジェクトマネージャーの略。

ImPACTのようなこと:ImPACTは「政府の科学技術・イノベーション政策の司令塔である総合科学技術・ イノベーション会議が、ハイリスク・ハイインパクトな研究開発を促進し、持続的な発展性のあるイノベーションシステムの実現を目指したプログラム」と説明される大型研究プロジェクト。今年1月、ImPACTの研究チームの一つが、高カカオチョコレート脳活動への影響について「脳の若返り効果の可能性がみえた」と発表するも、対照群を置かないなど実験方法に科学的な裏付けが足りないのではないかという疑問の声が上がった。
本来研究費は広く薄く研究者にお金を配って自由な雰囲気で好きにやらせるようなものでなければいけません。大型研究予算では若手をポスドクとして雇うことが多く、そこで成果を上げればまたどこかに雇われるということはありますが、最初から分野を絞っているのでその研究分野からもれた人たちは最初から日の目を見ないまま終わってしまう可能性が高いです。

ですので競争的研究資金は増やすべきですが、広く薄く自由な研究ができるような環境を取り戻すべきです。

河野:競争的資金は各省が持っているんですが、それらの書類の締め日がいつか、消耗品を買っていいのかなど、ルールを統一しろと3年ほど前に要求したことが私と競争的資金との関わり合いの始まりだった気がします。

一つ思うのは、文科省は「研究開発」としきりにいうんですね。しかし私がフジゼロックスにいた時には「研究と開発は別物である」と非常に厳しく言われました。研究というのは金をつけたからといって成果が出るかはわからないけれどやっていくものです。開発というのはQCT(Quality:品質、Cost:原価、Time:時間)を決めて必ずそれを取りにいくもの。

文科省はその二つをひとくくりにして、それらが別物だという意識がないんだと思います。文科省の説明を聞くと、大型資金の目指すものは「開発」なんです。それを企業とやるなら企業がお金を出せばいいじゃないと思ってしまいますね。高速増殖炉もんじゅや宇宙ステーションなども含めて、大型予算を投入したプロジェクトからどれだけ成果が出て、論文のインパクトファクターはどれだけで、といった評価をしていかなければいけません。
瀧本:私は大学の先生ですが、本業は投資をやっています。ベンチャーキャピタルでベンチャー企業に投資するんですけど、うまくいっている会社はみんなが投資するのでだめなんです。全然注目されていないし、一見大変そうだが、しばらくすると圧倒的な成果が出てみんなが殺到する企業に投資します。

研究も同じようなものだと思っていて、この前ノーベル賞を取った大村先生はみんなが見向きもしない自然の植物から薬を探すといういわば時代遅れの研究をされていました。製薬会社も興味を示さない分野から成功したんです。オートファジーの大隈先生やiPS細胞の山中先生もそうです。みんなが注目しない空白地帯の分野が大化けするので、広く薄くお金をつけるのは投資家の目で見ても必要なことです。

おわりに

瀧本:今回は、研究と教育の現場にいる方々と政治家が直接議論する今までにない場になったと思います。ただこの場で盛り上がって終わりではもったいないので、フォローアップしていきます。さきほど河野さんもおっしゃったように、協力者がいないとデータを取ることも分析することもできません。今後本当に現状を変えようとなった時には参加者の皆さんの協力が必要です。このイベントはこれで終わりですが、成果を出している研究者が評価されるような仕組みに変えていくという流れは今日がスタートです。

河野:日本の教育を変えるのは現場の声だと思っていますので、ぜひみなさん声を上げていきましょう。普遍性のある要望であればそれは責任を持って取り組みます。