博士課程学生として研究留学に興味がある日本人理系学生が真っ先に考える大学はMIT、 University of Cambridgeのようなアメリカやイギリスにある英語圏の有名大学だろう。筆者もフランスに留学していなければ、アメリカやイギリスへの留学を検討していたと思う。
そこでこの記事では、英米に比べてマイナーなフランスでの研究留学事情について紹介したい。ただし本記事は筆者の経験に基づいたものであり、筆者の主観による意見もあるかと思うがご了承頂きたい。

筆者のバックグラウンド

大阪大学にて学士号(工学)を取得後、東京大学大学院に進学し修士号(学際情報学)を取得。両大学にて、Skypeやブロックチェーン等に利用されるP2P (Peer-to-Peer)ネットワーキングを研究し、その後フランスのロレーヌ地方のナンシーに位置するInriaに拠点を移す。Inriaでは新世代ネットワーキングにおけるセキュリティやプライバシーの研究に従事している。

フランス博士課程学生の研究留学事情

フランスの大学を説明するには、学士・修士課程学生のケースと博士課程学生のケースと2つに区別したほうがわかりやすいだろう。初めに、学士・修士課程学生のケースについて述べるとすると、フランスの大学は、何かを学びたい学生は受け入れるという方針であるため、学士や修士を目指す学生に対して、日本のような*入学試験が無い。また、聞いた話によると、フランス人は自身の出身地方にある大学への進学を好む傾向があるらしく、日本のように上位大学に入るために出身地方に離れるというようなことは少ないのかもしれない。このような状況であるため、いわゆる大学ランキングでは、フランスの大学は上位に位置しておらず、大学ランキングに拘る人は、フランスへの研究留学はおすすめできない。一方、博士課程学生のケースにおいては、興味のある研究プロジェクトに応募し、その研究プロジェクト担当の教員が履歴書やモチベーションレター等をチェックしてその学生を受け入れるかどうか決定する。この点が学士・修士課程学生のケースと博士課程学生のケースで大きく異なる。また、筆者自身もそうだが、与えられた研究プロジェクトを遂行するために、研究自体は大学ではなく、研究所で行う者も多い。ちなみにフランスには、大学以外にもエコールポリテクニークやENSのようなグランゼコールという高等職業教育機関が存在するが、その詳細についてはここでは省く。

*フランスではバカロレアを取得することによって原則としてどの大学にも入学することができる。大学の定員を超えた場合にはバカロレアの成績や居住地などに応じて、入学できる大学が決まる。

日本の研究生活との違い

次に、研究所における研究生活について日本の大学の研究室と比較を行いながら説明したい。通常、学生は研究チームに所属し、そのチームの規模としては10~30人程度のものである。チームは、ヘッド、リサーチエンジニア、ポスドク、博士課程学生等から構成されており、基本的に修士課程学生は在籍していない(インターン学生が短期で在籍する場合はある)。

日本の大学の研究室と比べ、チーム内にスタッフが充実しており、また各スタッフが異なるバックグラウンドを持つため、アイデアがあればすぐにディスカッションできる環境であることは利点であるだろう。また、チーム内のみならず、チーム外の研究者との交流も盛んであるため、異分野との融合も容易である。そして、フランスという国そのものが多様性を受け入れる文化であることから、筆者が所属する研究所は50カ国以上もの海外諸国から来た研究者で構成されている。そのため、研究所内はフランス語より英語を利用する頻度が高い。また日本人の割合は圧倒的に低い(筆者が所属する研究所にはおそらく博士課程日本人学生は筆者のみ)ため、海外で日本人に頼らずサバイバルを行いたい方には良い環境ではないだろうか。勤労時間であるが、朝9時から夕方5時というリズムで活動している研究者が比較的多いイメージである。この理由の一つとして、フランス人は家族との時間を大事にする傾向が強いからだと考えている。そのため、有給休暇の利用も頻繁に行われ、日本人からすればこんなに休んでもよいのかと感じる。しかし、そこは国の研究所であるため、トップカンファレンスへの論文投稿を目指して、日々研究を行っている。上記をまとめると、フランスの研究所は日本の大学の研究室と比べ開放感があり、また仕事とプライベートのバランスを考えて生活を送れる場所である。

フランスの生活について

筆者はパリではなく、パリからTGVで約90分の場所に位置するナンシーという街に住んでいる。観光客も多いが、比較的ローカルな街であるため、レストランやスーパーではフランス語オンリーになってしまう。フランス語を話せなくても買い物だけを行う場合は大きな問題にはならないだろう。しかし水漏れ等の問題があった時、途端にとても困ったことになる。筆者は、フランス語に関しては挨拶や単語程度しか知識がないため、問題が生じるたびにフランス語を話す友人に助けを求めている。つまり、フランスではフランス語を話せる方がベターである。また、写真からわかるようにヨーロッパの建築様式は日本のものと完全に異なるので、日本人にとってはかなり新鮮である。また、ナンシーは*アール・ヌーヴォーの街として知られているため、街にある家そのものが美術品であったりする。

*アール・ヌーヴォー:19世紀末から20世紀初頭にかけ欧米で隆盛を極めた装飾様式

 

まとめ

本記事では、アメリカやイギリスにある英語圏の大学への研究留学情報よりは取得しにくいと考えられるフランスへの研究留学情報を非常に簡単に示した。この情報をきっかけにフランスへの留学者が増えることを望む。