「私、博士課程に進学する!」「止めておいたほうがいいかもよ。」「えっ、どうして?」「それはーーーー」

大学の最終教育課程である博士課程。優秀な人材、お金の工面が大変、自由人が多いなどの漠然としたイメージを持つ方も多いでしょう。一方で、博士課程の学生がどのように生活し、どのような困難と向き合いながら研究生活を送っているのか、その実態は知らない方が多いのではないでしょうか?もしあなたが博士課程への道へ進むと言うならば、様々な不安・疑問が浮かび上がるでしょう。ここではそんな疑問にお答えする情報誌を紹介します。その名も「博士世界」!

今回は、博士世界編集部の方々へのインタビューを通じて、雑誌の紹介と共に博士課程のディープな世界に迫ります。(取材:木村桂大、久野美菜子)

 

「博士世界」を読んでみよう

 

情報誌「博士世界」は、博士課程における金銭、生活リズム、恋愛事情などの特集記事を始め、統計に基づく現状、豊富なインタビュー記事が満載の情報誌です。公式サイトにて現在第3号までの電子版利用が可能となっています。

 まず目を引くのが、サブタイトルの「Prisoners’ World(囚人の世界)」。囚人だって!?博士課程の魅力を宣伝する雑誌だと思っていましたが、どうやら私の勘違いのようです。「博士課程について、出来るだけ中立の立場で、ありのままに」伝えることをモットーとしているとのこと。良し悪しを判断するのはあくまで貴方自身。そんなメッセージが伝わってきます。
 
 数あるコンテンツの中でも家計簿、恋愛事情といった特集記事は非常に魅力的です。様々な境遇の学生に対する調査に基づいており、進学を考えている方はモデルケースとして必見のコンテンツです。また、博士号取得率や男女比などの統計データも充実しており、全体のトレンドが分かりやすくまとめられていることも大きな特徴だと言えるでしょう。

 

博士世界第一号より

 

情報誌「博士世界」ができるまで

 

「博士世界」編集長の大上真礼さん


「博士世界」は東大、東工大の博士課程、修士課程に在籍する学生が主体となり2016年12月に第一号である博士世界創刊号が発行されました。今回は「博士世界」編集長の大上真礼さん、編集部員の有子山俊平さん、寺田悠希さん、金沢大学の林直樹准教授に話を聞きました。

ーー発行に至ったきっかけとは?

 

博士学生の中で、想像と現実のギャップからドロップアウトしてしまう方や、絶対数が少ないために共感が得られず困っている方を見てきたことが最初の動機です。このような悩みを少しでも軽減できればいいかなと。また、学外に対しても博士課程とはそもそも何なのか?どういう人々なのか?ということを広く周知出来ればと思い、雑誌という形で活動を始めました。

 

ーー雑誌以外にも案があった?

 

最初は博士課程のイベントを人生ゲーム風すごろくにしても面白いかな、とも考えたんですけど。「投稿論文リジェクトで1回休み」みたいな感じで(笑)。色々なアプローチがある中で最終的には雑誌、という形に落ち着きました。(※リジェクト:不採用通知)
 

ーー雑誌の内容についてはどのように決めましたか?

 

博士課程を考えた場合にまず問題になるのは金銭面での不安だろう、ということで創刊号のテーマはすぐに決まりました。次に時間の使い方、最新号では年齢のことも考えて恋愛・結婚をメインテーマに据えました。全6巻を予定していますが、最終的には本丸となる研究活動に関する特集を組む予定です。

 

ーー博士世界、というタイトルにこめられた意味とは?


博士のコミュニティというものは非常に閉鎖的なものでして、良くも悪くも独特の世界ができあがっているんです。だからこそ実態も伝わりにくい。そのニュアンスが伝わるといいかな、という思いから名付けました。
 

「博士世界」編集部の有子山俊平さん

 

博士課程と向き合い、見えてきたこれからの研究者像

 

ーー「博士世界」を通して伝えたいことは?

 

大学外の方々に対しては「博士」という肩書きに対する認識を正しく持って欲しいという気持ちがあります。過度な期待でもなく、失望でもないというか。このような認識が適切な学生支援を社会全体で考える上で重要になってくると考えています。当事者となる学生・進学希望者に対しては、博士課程の生活の中で起こりうる理不尽さ、独特のつらさ等を含めて、その実態について上手く伝えられるといいですね。何事も「知らないままに」事が進んでしまうことが不幸の原因となりがちです。

 

ーー博士・研究者に対する支援の難しさ・課題について聞かせて下さい

 

 これから、専業の研究者というものは存続できないかもしれません。研究者を支えることが出来る社会というのは、すなわち豊かな社会ということですから。これからの日本は人口が減って行きますから専業研究者を維持することが困難になっていくのではないかと。例えば土日に研究活動をするような”兼業”の研究者が現れてくる時代も来るかもしれない。

 現状では博士学生1人を生み出す為に莫大な税金が投入されています。その専門知識を生かすことのないまま一生を過ごす人がいる、というのはやはり勿体無いですよ。本人も可哀想だし、社会としても大きな損失をしていることになる。退職した後でも気軽に研究者として復帰できるような社会も今後は有り得るのではないでしょうか。
 

「博士世界」編集部の寺田悠希さんと、林直樹准教授(Skype上にて)

 

広がる博士の世界

 

ーー今後の活動について教えて下さい


 「博士世界」を広めること自体が本質だとは考えていないので、博士同士の交流を活性化したり、形はどうあれ多くの人に情報を届けたり、ということが出来るといいですね。各々の専門性を活かして研究手法の相談をしたり、共著者を募るようなサービスというか土台を作ることが出来たら面白いと考えています。博士課程の学生は勿論ですが、学部生や修士学生も巻き込んで情報交換できる場を提供できれば一番嬉しいですね。
 

おわりに

いががだったでしょうか。博士進学を考えている方、身近に博士の知り合いが居る方などはこの「博士世界」、要チェックですよ。あなたの疑問・知りたいことがきっと見つかります。イメージに頼らず、まずは知ること。博士の世界がどのように映るかはあなた次第です。