7月6日、衆議院第二議員会館にて「河野太郎が大学の研究費を考える」チャンネル生放送が配信された。出演者は河野太郎衆議院議員と、一橋大学経済学研究科講師(当時)の川口康平氏、京都大学産学連携本部客員准教授の瀧本哲史氏の3人。今年5月に東京大学本郷キャンパスで開催された五月祭イベント「河野太郎の大学の悩み聞きます」に引続き、研究現場が抱える課題について熱論が交わされた。本記事では当日の現場レポートを前後編でお伝えする。

<前編>
・間接経費はピンはねされる?研究予算はどう使われているのか
・研究者は論文を出している?中央値が0の分野も…
・悪いのは競争的資金なのか?

<後編>
・事務方の評価体制は作れるか
・大学の戦略は誰が作る?
・おわりに

出演者の紹介


河野太郎
自由民主党所属の衆議院議員で、現在は、自由民主党行政改革推進本部長。
 


川口康平
一橋大学経済学研究科講師。給与額を理由に2017年8月から香港技術科学大学ビジネススクール経済学科に移籍する旨をツイートし議論を呼ぶ。


瀧本哲史
東大法学部卒業後、東大法学部助手、マッキンゼーを経て、現在は、エンジェル投資家、京都大学イノベーション・マネージメント・サイエンス研究部門客員准教授。

間接経費はピンはねされる?研究予算はどう使われているのか

河野:これまで私は自民党の行政改革推進本部長、行革担当大臣をやる中で予算をいかにバランスさせるかということに取り組んできました。その経験を考えると、研究の予算をこれ以上増やすというのは、なかなか難しい。
 よくノーベル賞を取った先生方が「基礎研究にお金が回ってない」とおっしゃいますが、これだけ財政赤字の国でそんなに研究予算が増やせるはずがないわけです。
 そうすると、「今の限られた研究費をどう効率的に効果的に使ったらいいの?」ということを考えないといけない。そうしたところ、お二人の先生がたと東大の、あれは五月祭でしたっけ?

瀧本:五月祭ですね、はい。

河野:五月祭でいろんな話をさせて頂いたわけです。今日は、その五月祭のフォローアップみたいなものを兼ねて、やりたいと思います。まず瀧本先生と川口先生に東大の五月祭の後、なんか反応があったかどうか。どうでしょうか?

川口:自分の大学の職員からは、そんなに反応があったわけじゃないんですけれども。東大の職員が勉強している研究会に呼ばれて、意見を聞かれましたね。やっぱり職員サイドとしては、間接経費というのは、大学に入ってくる真水のお金なんだと。今のほかの基盤的経費とかと合わせて使っているし、そう使うことが効率的なんだというのが、基本的な認識なのかなというような案も出ましたね。

河野:東大の五月祭で川口先生から、間接経費についての提案を頂戴いたしました。間接経費の三割の使い道が研究者に全くフィードバックされていないということでしたので、まず文科省にこの三割の間接経費の使い道をきちんと調べて、研究者に報告をしようと。「本来なら、自分のお金にはずなのに、なんか三割ピンハネされてるぞ」と思っている研究者もいるんじゃないかと思います。なかには「三割間接経費です」と言って、大学に入って、大学から研究者に戻っている部分があるんですね。

瀧本:そうですね。

河野:で、その研究者に戻っている部分は、研究者ご自身が分かっているわけですから、調べなくていいだろうと。大学が使っている部分については、まず間接経費の使途を大学の本部に調べてもらい文科省のほうに報告を戻してもらうことになっています。

川口:ちなみに、どれくらい細かく調べるようにお願いしています?あんまり細かいと、他のお金とまとまって使われているので、大学側でも調べるのが難しいと思います。

河野:間接経費をこういうふうに使っていいですという17項目が出ているので、どれにあたっているかを調べてもらうと。あの17項目って、項目の大小がバラバラなのでギャップがあるのかなという気がしますが、とりあえずどれにあたるかというのを調べてもうということにます。

研究者は論文を出している?中央値が0の分野も…?

河野:それからもう一つ、いま動いているのが、大学の研究者がどれくらいの論文を出しているかという調査です。各分野の先生がたの論文の数を調べてもらって、論文の多い先生、少ない先生の待遇がどうなっているのかをまずきちんと出そうよというところまで来ていて。出した論文がどれだけ国際的な評価のあるジャーナルに載っているんだというのは、今データがないんですね。
 
瀧本:結構、引用回数とかも考えなきゃいけないんですけど、じつは中央値はゼロじゃないかという分野もあるという話で。 

河野:こないだの話ですけど、国立大学の経済学部の先生の出した論文の数を調べると、中央値ゼロ。つまり半分以上の先生は、雑誌に出るような国際的な評価のある雑誌に出るような論文を書いていないという調査がありました。

瀧本:まあ今はジャーナルは、独占というか寡占になっていて、載せるのも買うのもお金次第みたいなのは、結構ありますよね。 

河野:論文の数だけじゃないよという議論は当然あるんですけれども、論文の数があって、それ以外にどういう貢献をしているのというのは、これはまた別で調べないといけないかなと思っているのですが。どうでしょうか?

川口:それぞれの分野の人が、それぞれの人の土地勘を持っているとは思うんですよね。外側からやると結構難しい部分があるのかなとは思う。

河野:日本は、「論文の数が減っている、あるいは論文のクオリティが上がっていない」という話があるのですがそれを「日本は」って言っちゃうと漠然としているので、「それぞれの大学で、分野で、あるいは個人でどうなんですか」というの具体的に見ていって、大学の問題なのか、分野の問題なのか、個人の問題なのかを特定しないと、「論文の数が増えていないよね。論文の数が中国に負けてるよね」と言ってもそこからの先の議論にならないんじゃないかという気がしています。
 
川口:そうですね。たぶん分野をまたぐのは難しいんですよ。だから、まず論文で評価を測りやすい分野で固定し「アウトプットは、これ」っていう分野に限定した上で、インプットとの関係を分析するというのをやるといいと思うんですよね。

たとえば、どれだけの教員とサポートスタッフがいて、お金の付き方が、基盤的経費がこれだけで、競争的経費がこれだけだと、これだけ論文が出ますっていう。いわゆる、僕ら経済学者でいうところの大学の生産関数みたいなものをちゃんと測るというのをやるのが大事だと思うんです。
 
瀧本:一方で、競争的経費を多くしたら予算取るのに時間がかかって、生産性が落ちたみたいな議論になるわけですけど、どっちが本当かって、よく分からないんですよね。いま感覚論でみんな言っていて、国民も「ほんとにお金を使って意味あるの?」とか言っているわけです。データがあって、説明できるようにすれば、「もっとお金を使ったほうがいいんじゃないか」みたいな話しがしやすい

河野:この分野のデータを取ろうと思っていたんですけれども、とにかく言葉の定義が、というか言葉がいっぱいあるんですよね。「文部科学省の予算」というのがあって、「文教および科学振興費」っていう予算のカテゴリーがあって。で、「文教および科学振興費」というのは、「文教関係費」に「科学技術振興費」を足したものですと。


当日配信された「科学技術関係予算」と「文教及び科学振興費」の対応資料

瀧本:もう分からないですね。

河野:ようするに、何がどこに入っているかというのを図に表そうと思っても非常に混乱していて、科学技術振興費があるかと思えば、科学技術振興費があって文教関係費があって、科学技術振興費以外の文科省の科学技術関係予算というのがあってと。

そうすると、「研究費というものを見たときに、研究費が増えているか減っているかというのをどの数字で見たらいいの?」というのが、文科省と財務省と内閣府で言っていることがバラバラだったりして議論ができないし、財務省はこの数字で言うけれども文科省はこっちの数字で言っていますという話なので、少し共通化したほうがいいのかなと。
 それから、もう一つは、人の問題で、たとえば「教員の数」と言ったときにどこまで入るんですか。あるいは、「職員の数」と言ったときに付属病院の看護師さんまで入っている数もあれば、病院を全部抜いているものもあれば、というのがあるので。

川口:あと任期付き、任期なしですね。
 
瀧本:そうそう。そうですね。

河野:任期付き、任期なし。それから正規、非正規。

瀧本:そう。特任とのプロジェクト単位でやったら、いろいろもうゴッチャゴチャですよね。

河野:本当はそういう細かくデータを取った上で議論しなきゃいけないはずなんだけど、じつはデータないよねというので、いろいろと調べてみると、国立大学の教員の数は、教授が平成元年16000人だったのが、平成28年は21000人になっています」って。「この5000人はどこから来たの?」って。あるいは、「助教授、准教授、平成元年14000人だったのが、いま18000人で、4000人増えてます」っていうと、これだけ数が増えて研究費予算があんまり増えなければ、一人当たりの額は当然小さくなるんじゃないのかなという議論もありますし。もともと教授の平均年齢、平成元年54.7歳だったのがジリジリと上がって、平成25年には56歳とかですね。助手の平均年齢は、平成元年36.4歳だったのが平成25年には43.1歳。
 
で、予算はそんなに増えていないと、当然一人当たりの額は減るよねと。18歳人口はずいぶん減ってるけど、定員は増えているんで、国公私立全部足すとそうなるのかもしれませんけど、国立大学だけでこれだけ増えているというのは正直びっくりししました。

瀧本:定年延長とかもありましたからね。

川口:なんか数字と実感と合わないのがたぶん大学。不思議なのが、最初、大学教員をサポートする教員が減りました。だから事務が大変になりましたという話があるので、職員の大学教員に対する比率が減っているのかなと思って調べたら、それ見ると増えているはずなんですよ。これ、たぶん実態としては、数は増えているんだけれども任期付きが増えているから、色んな仕事ができる人がいなくて、実質的に減っているように感じるのか。そういう、なんか統計に見えにくいかたちの変化が起こっているっぽいんですよね。

予算のほうも、そうで。基盤的経費足す競争的経費は微増しているはずなのに、なぜか大学サイドとしては減っていると思っていると。

悪いのは競争的資金なのか?

河野:苦しいとか、減ってるっていう議論になると思いますよね。たとえば予算でいうと、運営費交付金は圧縮され、競争的経費がガーッと増えていますと。政府の中で話をすると、それは勝ち組と負け組が出ているのであって、負け組は「大変だ」と言うけれども、じつは勝ち組は何も言っていませんと。「競争的資金を減らして運営費交付金をきちっと元へ戻したらどう?」っていう議論もあるんですけど、そうすると、勝ち組からは文句が出ます。運営費交付金を手厚くするのがいいのか、競争的資金をもっとバンバン増やしていったほうがいいのか。そこは、議論が分かれるんじゃないかなと思うんですが。

川口:何か問題が起こっているのは確かなんですけれども、はたして予算の中の競争的な部分が増えたことが問題なのか、別のことが問題なのかということが、分からないと思う。つまり、基盤的経費から競争的経費というのは、一つは、非競争的な資金配分から競争的な資金配分への変化でもあるんですけれども。もう一個別の側面として、ルールに基づく資金配分から、なんか事前評価、事後評価に基づく裁量的な資金配分への変化という側面もあって、裁量的になったという部分が問題なだけかもしれないですよね。

河野:なるほど。その「裁量的」というのは、具体的に言うと?

川口:つまり、競争的経費の中に競争的な研究費の部分と、競争的な行政とか教育用の経費があるんですけれども。まず競争的な研究費のほうは、ピアレビューというのがありますよね。申請書を書いて、チェックしてもらって、配分します。僕が思うに、研究費のほうは、まだピアレビューという文化があるのでうまく回っているんだと思うんですよ。でもそうじゃなくて、システム改革経費といわれるような、文科省が大学にこういう改革をやってほしい予算つけますとなる場合って、ピアレビューの文化がある場所じゃないので、審査員たちにそういう職能がないかもしれない。目的も一致していないかもしれないって。で、評価基準も分からないってかたちになると、大学側がそれに申請するために多大なマネジメントリソースを使って、ポンチ絵を書くわけですよね。そこで、もしかしたら、もソースの無駄遣いが起こっているんじゃないかと考えているんですが。

文科省が天下りにくるとかっていうのも、その文脈だと思うんですよ。文科省が何を考えているか分からないから、人を呼んでどういう意見を持っているのかを聞きたい。こうやって、ポストをあげることもリソースの無駄遣いの一種だと思うんです。

瀧本:要は、昔行の行政裁量って問題があったじゃないですか。なんで天下りが起こるかっていうと、行政がなんだかよく分からない理由で決めていると。それを読み解くためには、OBがいて調整してもらわないと。それをやめて、ルールによる行政って、流れが変わっていったわけですが、なぜか大学のことにおいては、まだ行政裁量みたいなのが強くて、なんかよく謎の絵を書いて、審査するほうもあまり基準がはっきりしないし、出すほうもよく分からないから、謎の調整が必要になる。研究費、ピアレビューがあるからいいって話していましたけど、結構あやしいところもあって、ぶっちゃけ、書類を書くのがうまい人って、やっぱりいるんですよね。そうすると、書類書くのがうまい人は通ってしまって、そんなに予算をつけなくてもいいのについちゃったり、書類書くのがへたで真面目に研究しているから、逆に予算が落ちないみたいなこともあって。
 
それは、もっと明確なルールがあって、審査とかに時間がかけないで、行政をもっとシンプルにしたほうが、本当はいいって、たぶんあると思うんですね。

川口:しかも、いま運営費交付金のほうも、若干、競争的になっているんですよね。なんか、こういうふうにKPIを設定して、こういうふうな経営改善をしたら効率化係数みたいなのを掛けて、1%減らすところを0.7%の減で済ませるようなかたちでやっているんですよ。それだったら、もう競争的に裁量的に配分してやる経費のほうも全部一回運営費交付金に戻して、かつその中で効率化係数を掛けてルールベースで配分するほうが、分かりやすいのではないかといま仮説としては持っているんです。仮説であって検証できていないので、本当にそれが正しいかどうかも、まだ分からないんですけれども。

瀧本:僕も立場があるので、ちょっと表現は抑えますけど。若い人は、結構プロパーでやる気がある人を最近採っているんですけど、昔は文科省という役所の外郭団体職員みたいな感覚の人が多いので、中堅以上の人でいい人っていうのはすごく少ないですし、ぶっちゃけ、職員さんの待遇ってそんなに良くないですからいい人って採れないですよね。じゃあ、文科省から来てもらえばいいかっていうと、そうでもないと思うので。

大学経営って、結構難しくて、アメリカでは結構高給で引き抜いたりするんですよね。プロボストといって、COOみたいな役職があるんです。大学どこも許可しようとか言っていますけど、すごい高給で雇われるし、そういう人はその後大統領官邸に入ったりするような人を引き抜くわけですけど、まあ、大学に来てくれるかなっていう意味じゃ、ちょっと難しいかな。

河野:それはやっぱり給料が?

瀧本:給料もあると思いますね。給料も一部ありますし、権限が違うんです。やっぱりそんなに来ても、みんなの調整とかに忙しくて、なんかやりたいことできないしみたいな。

川口:学長とか、オーストラリアは給料二億円ぐらいです。カナダで5000万から一億、二億ぐらい払わないといい学長というのは採れないですね。あと、学長みたいな大学経営プロパーな人を作りあげていくトラックと、彼らがステップアップしていく市場というのが、日本はないんですよ。海外では大学で研究を40歳ぐらいまでバリバリやった後、経営トラックに行って専門の大学の経営者ですというかたちがある。

河野:研究トラックで行く人と教育に行く人と、大学経営に行く人と、本来ならもうちょっと別れてそれぞれプロになっていかなきゃいけないっていう。

川口:そうですね。日本だと嫌々やっているっていうのがあると思う。

瀧本:嫌々。そう。懲役二年みたいな感じですよね。

川口:そう。懲役二年。

<後編>に続く