大学の研究で成果を出せる人と出せない人の違いは一体どこから生まれるのでしょうか―?

理系学生の多くは大学院に進学し、各々が選んだテーマに沿った研究に取り組みます。
しかし、その中の全員が大学の数年間で研究成果を出せるわけではありません。短い期間で研究成果を出し、複数の論文を発表したり、学会に参加したりできる学生がいる一方で、惜しくも成果を出すことのできない学生も存在します。

今回は、学部の頃から国際学会に参加し、修士2年次には総長賞を受賞した、東北大学大学院博士課程3年の土内憲一郎さんに地方の大学院で研究成果を出すコツを聞いてきました。

土内憲一郎さん
所属:東北大学大学院農学研究科博士課程3年
研究テーマ:細胞周期制御因子とトランスポゾンの組合せによる高品質なブタiPS細胞の樹立

学部時代から成果を出せた秘訣とは?

ーー土内さんは高校卒業後、東北大学農学部に進まれましたが、農学部を選んだ理由は何ですか?

高校1年の冬に文理選択をしなければならず、その時進路について考えました。もともと考古学と生物学が好きだったのですが、直接的に社会の役に立ち、色々な分野に応用が効きそうな農学部を選択しました。

ーー考古学にも興味があったのですね。農学部に進学された後は何を研究していたのですか?

iPS細胞の導入に用いた外来遺伝子がサイレンシング(不活性化)しているかどうかをモニタリングできる遺伝子ベクターを構築する、という研究をしていました。樹立されるiPS細胞の質は常に一定というわけではなく、分化能や多能性維持において不完全なものも生じます。キメラに寄与できたり生殖細胞を作れるような質の良い細胞の導入遺伝子は高い確率でサイレンシングされていることが分かっています。サイレンシングの調査には多大な作業コストがかかるので、それを簡易化するためのベクターを作る研究を行っていました。

土日の時間を使ったりして実験を繰り返していたら良いデータが取れ、学部4年の11月には国際学会に参加することができました。

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学部時代の卒業論文発表の一部

ーー学部4年の1年間の研究で成果を出せる学生はとても少ない印象ですが、11月に既に国際学会に参加していたのですね!

学部4年の1年間で成果を出せそうな研究を戦略的に選んでいたのです。当たり前のことですが、研究をする理系学生全員が天才なわけではありません。自分も天才ではないと自覚していたので、学部時代から博士までの6年間をかけて、成功するか分からない1つの大きな研究テーマに取り組むのはリスキーだと考えていました。そのため、指導教員と相談して短期間で結果が出やすい研究テーマを吟味しました。

ーーめちゃめちゃ戦略的ですね(笑)。修士号を取得した後、博士過程に進まれたのはどうしてですか?

学部時代に研究成果を出せたことで研究に対しては一定の自信がつきました。また「どうせ取り組むならできるところまでやってみたい!」という持ち前の探究心、さらに海外では非常に評価される博士号が欲しいという気持ちもあいまって、修士・博士と進学していきました。

研究室は、教員から厚い指導を受けられるという観点で学生が2人しかいない研究室を選びました。

ーーこれから研究室を選ぶ理系学生の読者も多いと思います。彼らが自分に合った研究室を選ぶためにアドバイスするとしたら何を伝えますか?

研究生活には「やりがいと人間関係」、この2つが重要です。

私は「研究室選びは最初の就職活動である」と思っています。ジャーナリストの津田大介さんが「仕事にはお金、やりがい、人間関係の3要素があり、それらの2つ以上が揃っていれば幸せに働ける」とおっしゃっていました。ところが理系学生は研究をしてもお金がもらえるわけではありません。よって、研究のやりがいと人間関係を確実に得る必要があります。そのために、研究室を選ぶ学生にはぜひアポを取って教員に話を聞きに行って欲しいと思います。
 

東北大総長賞を取った男のプレゼン作成術

ーー土内さんは2015年に東北大学総長賞を受賞していますが、受賞できた理由は何ですか?

研究内容はもちろんですが、プレゼン能力があったことも理由の1つだと思っています。

とはいっても、始めからプレゼン能力があった訳ではなく、学部時代に作っていた研究発表スライドはむしろ散々な出来でした。その時期は発表を聞く人の気持ちをまったく考えずに資料を作っていたんです。その後、卒論の作成と発表を通して「聞く人の視点で資料を作る」ことの重要性に気付き、それがその後の総長賞にも繋がりました。

学会などに限らず人前で発表する機会を意識的に設けることが大切です。場数を踏んで慣れるのも大事ですが、聞き手のリアクションに触れることで「聞き手の視点で資料を作る」ことが出来るようになりました。

ーー卒論の作成経験がその後の活躍に繋がったんですね。具体的にどのようなスライドを作ればよいのでしょうか?

自分にとっては簡単すぎるくらいの内容のスライドを作ることが大切です。普段研究しているとつい専門的な話をしたくなりますが、前提知識のない人にとって面白いと思えるのはもっと大まかでわかりやすい話です。簡単なスライドでも研究内容に興味を持ってくれた人は後で話しかけてくれますが、スライドが難しすぎると興味すら持ってもらえませんからね。

また、スライドの体裁もとても大事です。「伝わるデザイン|研究発表のユニバーサルデザイン」というwebサイトに書体の選び方からレイアウト、配色まで細かく書いてあるので参考にするとよいでしょう。

研究で1番大切なのは「観察眼」と「自信」

ーー研究で成果を出すために重要なことは何だと思いますか?

まず重要な事は、自分の実験スキルを磨き、自分の技術に自信を持つことだと思います。同じ実験をしていても違う結果が出てきてしまうことは多いですが、自分の技術に自信のない人はそれの原因が自分の技術不足によるものか外部要因かわからず疑心暗鬼になってしまいます。これでは研究は進みません。ですから、まずは徹底的に実験スキルを磨き「自分の技術に自信を持つこと」が重要です。

その上で、毎回の実験結果の少しの変化に気が付く人や、細かい点をなおざりにせず、結果の違いが生まれる原因を調べ続けられる人。そういった細やかな「観察眼」を持っている人は研究で成果を出しやすいです。

ーー最後に博士課程に進学して研究をする魅力を教えてください。

博士号は、これまで世に出てこなかった新しい研究成果を出した人に与えられる学位です。つまり、博士号を持つということは「その人が世界で初めて成し遂げた何かがある」ということなのです。博士課程は学生の延長と捉えられることも多いですが、この事実はもっともっと評価されていいことだと思っています。未知のものにとことん向き合い新しい発見に挑む経験は企業ではなかなか経験できないことですし、博士で研究をすることの1番の醍醐味だと思います。