Seeds Conference 2017 に登壇する佐久間洋司さん(撮影:刀塚浩介)

人工知能の研究と聞くと、知能や感情を持った機械やロボットをつくるための基礎研究や開発を想像する人が多いのではないだろうか?知能を持った機械の台頭は、社会を便利にする一方、人間を置き去りにしてしまうのではないかという漠たる不安も同時に生じさせる。人工知能に関する様々な言説が飛び交ういま、人の情動的共感を促進するツールとして人工知能の研究をしているのが佐久間洋司(さくまひろし)さんだ。大学1年次から研究生として知能ロボット学研究室の石黒浩教授に師事し、人工知能研究会 / AIRを立ち上げた佐久間さんに、留学先のトロントで感じたことや人工知能を通じて実現したい世界について語ってもらった。
 


佐久間洋司(さくまひろし)

東京都立小石川中等教育学校を卒業し2015年に大阪大学へ進学。同年9月から知能ロボット学研究室で研究生として石黒浩教授の指導のもと研究に取り組む。2015年12月には次世代を担う学生自ら人工知能研究・応用を促進することを目指し「人工知能研究会 / AIR」を設立、日本最大級の AI コミュニティに成長させる。人間の共感を促進する機械や技術に特に興味があり、争いのない世界に貢献することを目標としている。カナダ・トロント大学で約1年間の交換留学を経験し、Panasonic Silicon Valley Lab で半年間のインターンにも従事。人工知能学会誌の学生編集委員なども務める。

 

ーー1年生の頃から石黒浩研究室の研究生として指導を受けているということですが、どのような経緯で現在の研究環境に至ったのでしょうか。

小さい頃から石黒先生の研究やその考え方についてテレビや本を通じて知っていたので、ぜひ石黒研究室に入って先生のもとで研究に取り組みたいと思って大阪大学へ進学しました。高校までは東京だったので関西の大学に進学するのは珍しかったですし、目先の偏差値や周りの友人の進路が気になることもありましたが、結果として阪大に進学することで早い段階からこの分野に携われたことには本当に感謝しています。

石黒先生に会うまでには家庭用ロボットを開発しているスタートアップの自然言語処理グループなどでインターンをしていて、その後には大阪大学の産学連携本部から予算をいただいて、ロボット対話システムのための深層学習というテーマで、Twitter から収集したツイートの組を対話に見立てて学習させて、そこから会話の種を探すようなシステムの開発に取り組みました。

それらの経験や産学連携本部の先生方からのご縁もあって石黒先生に会う機会をいただき、自分の将来取り組んでみたいことなどをお話ししたところ、面倒を見ていただけることになりました。石黒研究室はロボットの研究室ではありますが、先生の研究は常に中心が人の側にあると感じますし、その研究のポリシーをはじめ想像していた通りの理想的な環境だと感じています。

 

ーー人工知能研究会を立ち上げた経緯や活動の内容について教えてください。

もともとは大阪大学人工知能研究会として、現在は株式会社エクサインテリジェンスの CTO を務めている浅谷学嗣さんらとともに学部1年生のときに立ち上げた会でした。人工知能の各分野から先生方を招いて開催する講演会や、運営メンバーの大学院生が学部生に実践的な講義を行う深層学習チュートリアルなどを半年間ほど続けていく中で、学内外から多くの方に参加いただくこととなりました。

その後、次世代を担う学生自らが次世代の人工知能研究・ 応用を推進していくことを目標に「人工知能研究会 / AIR(エアー)」と名前を変え、深層学習などの特定のテーマに限らず人工知能について幅広く知り、学ぶための機会を大阪と東京を中心に提供しています。全国で累計1500名以上の方にご参加いただきました。

本研究会の活動では次世代の人工知能研究と応用に焦点を当てて、学生と若手研究者自らが人工知能を学び、議論して、探求する場を作り出すこと、そして、社会全体に広く人工知能の可能性を正しく伝えるための啓蒙活動を進めることで、将来の日本に貢献することを目指しています。

 

ーートロント大学や Panasonic Silicon Valley Lab を留学先に選んだ理由や現地での活動について教えてください。

深層学習と呼ばれる技術から始まった世界的な人工知能ブームの中で、日本は研究と応用の両方で遅れているとも言われています。学生としてはやはり海外に出向いて学んでくるのが早いのではないかと思い、深層学習の発祥の地であるトロント大学で理論を、世界中から研究者と投資が集まるシリコンバレーで深層学習の産業応用を学ぼうと考えて留学しました。

トロント大学には深層学習の父と呼ばれる Geoffrey Hinton 教授がおり、この分野の研究と教育の両面で世界で最も進んだ地域の一つとされています。トロント大学の先進的な教育はもちろんですが、世界中から最前線を走る研究者を招いて開催される機械学習グループのミーティングやセミナーでは様々な先生とお話をするチャンスがありました。

また、Panasonic Silicon Valley Lab でのインターンに関連して、スタンフォード大学の人工知能研究センターなどの研究機関やその他の企業を訪問することもでき、北米の人工知能研究者やエンジニアとコネクションを得ることもできました。これらの経験の一部は人工知能学会誌などを通じてご紹介しているのでぜひご覧いただけたらと思います。

 

*学生フォーラム Richard Zemel 教授インタビュー「深層学習の今・トロント大学のこれまでとこれから

 

ーー日本とトロントで研究や教育はどのように異なっていましたか。

今の機械学習という分野の盛り上がりは少し特殊だとは思いますが、トロントという場所に世界からたくさんの研究者が集まり、自由に議論できる環境があることはとても魅力的でした。例えばトロントにある人工知能の研究所である Vector Institute の Richard Zemel 所長が開催していた Machine Learning Advances and Applications Seminar では、北米の研究者を登壇者として招いて、トロントの100名以上の研究者やエンジニアが隔週で集まって情報交換や議論をしていました。そういったコミュニティとしての成熟度はもちろん、予算や企業からの支援による充実した研究環境も日本とは異なりました。

研究環境や情報の速さといった違いもさることながら、個人的に一番勉強になったと思うことは、多くの人がしっかりとしたビジョンを持って研究に取り組んでいるということでした。どうしても日本でも人工知能は一つのブームのようになっているので、人工知能の研究をしたい、深層学習を応用したら何ができるだろうか、という視点から多くの方が参入しているように思います。しかし、トロントで活躍している人たちは「盛り上がっているから深層学習をやりたい」ということではなく、人の知能とは何かについて理解したいというようなビジョンが先立っていて、その過程でそれらの研究をすることになったわけで、深層学習ありきではなくビジョンありきという、信念を持つことの重要性を感じました。

 

ーー佐久間さんのビジョンは感情をもって人に共感するような人工知能やロボットが作りたいということでしょうか。

よく誤解されるのですが、個人的には機械やロボットといったものに感情を持たせるということに興味があるわけではなく、機械によって人の共感を促進することができるかということにとても興味があります。石黒先生の「意識」というお言葉を借りれば、人の意識に外発的に影響を与えることができるのかというテーマがとても面白いと思っています。

情動的な対立に始まる争いは絶えませんが、それには他者への思いやりのような、情動的共感が足りていない部分があるのではないかと思っています。それは例えば幼少期からの道徳教育などによって補われていくことが期待されていましたが、やはり完全ではありませんでした。だからと言って脳に電極を刺して他者の気持ちを無理やり推し量らせることが良いかというと、少なくとも直感的にはそうは思いません。

 

人が人へ教える情動的共感や思いやりの大切さ、逆に SF 映画に見るような極端にコントロールされた脳による他者への共感、それらの間に位置すべき技術があるのではないかと考えています。曖昧な表現になりますが、機械によって私たちがもう少し優しくなることができたなら、人の情動的共感を促進するような技術を創ることができたら素晴らしいと思っています。

その過程で人工知能はあくまでツールとして、共感を促進して世界から争いをなくす、というビジョンのもとで非常に有用な手段として要所で使っていくことができると思っていますし、それらの理論や応用を北米の素晴らしい環境で学ぶことができたのは幸いでした。しかしながら、深層学習自体が目的になるということはなく、あくまで人の情動的共感を促進するような技術を創るという自分のビジョンや軸のようなものを忘れずにいようと思っています。

わたしの好きな画家であるアルフォンス・ミュシャのハーモニーという絵画には、愛と理性の調和をもたらすのは叡智のみであるという意味が込められているといいます。そのような世界に調和をもたらす叡智の一助に自分もなれたらと願っています。

トビタテ!留学JAPAN日本代表プログラム 第3回留学成果報告会では林文部科学大臣から優秀賞を授与されるトビタテ!留学JAPAN日本代表プログラム 第3回留学成果報告会では林文部科学大臣から優秀賞を授与された
 

<参考URL>

人工知能研究会 / AIR 公式ウェブサイト

日本の AI 元気な若手の動き「人工知能研究会 / AIR」