『大学研究室とオープンイノベーション』をテーマにしたイベントが、eiiconと株式会社POLの共催で11月16日に開かれました。本イベントでは、現役の東京大学准教授、大学発ベンチャー経営者とPOL代表の加茂倫明が登壇し、産学連携についてのトークセッションが繰り広げられました。難しいと言われる大学研究室と企業の提携の実態とは?

登壇者紹介

株式会社カワノラボ 代表取締役 河野誠氏
近畿大学化学科、近畿大学総合理工学研究科化学専攻を経て、 大阪大学大学院理学専攻・渡會研究室にて博士号取得(理学)。 2011年、科学技術振興機構A-STEP若手創業家タイプに 「世界初の微粒子磁化率計の研究開発と製品化」が採択され、3年間の研究助成金を得る。 2014年、京都市ベンチャー目利き委員会Aランク認定。大阪大学特任研究員を退職。 2015年、株式会社カワノラボ創業。2016年、池田市事始め奨励大賞・奨励賞受賞。

株式会社Xenoma 代表取締役CEO 網盛 一郎 氏
1994年富士フイルム(株)入社。写真フィルムが衰退していく中、一貫して新規事業開発に従事し、2012年同社を退職、フリーランスとして大学や企業と新規事業開発を行う傍らで、東京大学大学院情報学環・佐倉統研究室において、「先端技術をどうやって社会価値に結び付けるか」や「人と機械の関係の未来」を研究し、その実践として2014年8月に東京大学大学院工学系研究科・染谷隆夫研究室のJST/ERATO染谷生体調和エレクトロニクスプロジェクトに参画、2015年11月に東大発ベンチャーとしてXenomaを起業。

東京大学大学院情報理工学系研究科 川原圭博准教授
東京大学 大学院情報理工学系研究科准教授。コンピュータネットワーク、ユビキタスを専門とし、 IoT機器をより能動的で自立的なものにする「万有情報網」の実現に向けた研究に取り組んでいる。 研究室での開発技術が発端となり、2014年AgIC株式会社が設立、2015年に株式会社SenSproutが設立。両社の技術アドバイザーを兼任し大学発技術の実用化を推し進めている。

株式会社POL 代表取締役CEO 加茂 倫明氏
現役の理系東大生。高校時代から起業したいと考え始め、その後ベンチャー数社で長期インターンを経験。2016年9月に株式会社POLを創業し、研究者やアカデミアの課題解決に取り組んでいる。現在は『理系のキャリアを革新する研究データベース LabBase』および『研究の未来をデザインするメディア Lab-On』を運営している。

モデレーター

パーソルキャリア株式会社 eiicon事業責任者 中村 亜由子
2008年インテリジェンスに入社。正社員の転職支援領域における営業を経験する。最速で営業マネージャーに昇進、約1000名の転職をサポート、MVP他社内表彰受賞歴多数。2015年育休中にeiiconを単独起案。0to1という社内新規事業制度第1回目で単独&唯一通過。2016年4月に育休から復職後、予算取りに駆け回り7月から本格的に立ち上げを開始。地の利に関係なく地方含めた日本企業のオープンイノベーション実践をアシストするオープンイノベーションのための企業検索プラットフォームeiicon(エイコン)を担う。

eiiconとは?

企業間の連携を促進するために開発されたオープンイノベーションプラットフォームで、パーソルキャリア株式会社(東京都千代田区)が運営しています。約1,800社の企業が登録しており、スタートアップから大企業までなどさまざまな連携相手を探す事が可能です。またeiiconには大学研究室も登録されているため、共同研究のマッチングも探すこともできます。


注目が集まる産学連携、その実情とは?

中村:大学研究室と企業のオープンイノベーションの実態を探っていきたいと思っています。大学研究室と企業の関わり方の実態をお聞かせいただけますか?

川原:大学研究室の技術を活かした技術系ベンチャーは、どちらかというとオープンイノベーションがうまくいかなかったために自分たちで立ち上げてやるケースが多いと思います。本来は企業と共同で進めて実用化に向かうというのが一般的で、大学にとっても楽だと思います。私の研究室の銀インクを活用した研究も、ある材料メーカーさんから『自分たちの技術を活かしたい』というお話があり、我々の研究室が持つ技術と相性が良さそうだったので、共同研究させていただくことになりました。我々が応用研究の論文を書かせていただき公開したところ、とても反響があったので実用化して世の中に広めたいと思ったのですが、材料メーカーさんなので応用指向の最終製品の開発・販売は必ずしも向いているわけではありませんでした。そこを我々がベンチャーを設立してお手伝いさせていただいていて、材料メーカーさんには材料と技術の提供で支えていただいています。

網盛:私たちの会社の場合は、東京大学の研究室からスピンアウトする形での創業です。スピンアウト元の研究室では、企業との共同研究もたくさん行っていましたが、共同研究を行っていた相手方の企業の内部の意思決定によって実用化できないという状況も往々にしてありました。経営陣のうちの一人が「NO」といえば実用化は無しになりますし、企業側でもその製品を作って継続的に売っていくのかというところで、既存事業とのシナジーも関係してきます。企業にとって新しい製品を開発して販売するという意思決定はそう簡単にできないのだと思います。そのようなうまくいかない事例が幾つかありまして、自分たちで創業しようということで、経営人材として声がかかったのが私でした。そして創業したんです。

当事者が考える、産学連携がうまくいかない理由

中村:企業と大学研究者では目的とすることが異なるとの話が出ましたが、共同研究を進める上で、初めのコミュニケーションで条件を打ち合わせするということは難しいのでしょうか?

河野:以前にあるアワードで受賞させていただいた時に、受賞した技術のライセンス利用のお声がけが合ったんですが、技術の使用料を「2万円」という額で提示されました。さらに1年間利用させてほしいとのことでした。企業側もビジネスを行っているんだし、儲けないといけないという事情は分かるんですが、流石に虫の良い話だなと思いましたね。やっぱり企業はいいことしか言わないんですよね。あとから色々と無理な条件を付け加えられたりします。

加茂:僕たちのサービス内容的に、大学研究者と企業の研究開発部門の方のお話を聞く機会が多くあるんですが、うまくいった例はまだ聞いたことがありません。いい例が共有されていないだけかもしれませんが、共同研究にはいろいろと課題が山積みそうだなと感じています。
大学側と企業側の話を聞いていて見えてきた課題として、企業側が何を目的とし、目標として共同研究を実施するかというところが曖昧であるケースが多いなと思います。

河野:企業と研究室の認識合わせが重要かなと思います。共同研究の場合、企業からの研究員の人件費の問題や、1年かけて共同研究しても理解し切ることは難しく、持ち帰って実用化みたいなことも難しいと思います。さらにその企業の中で売るとなると製品化や継続的に売っていくなどになるとまた別のハードルが生じます。大学研究者の目標は自分の研究や技術が世の役に立つことを願っているんですけど、研究や技術の実用化には別の視点からの議論でブラッシュアップできたり競争によって磨かれながら実用化されていくものなので従来の「研究成果」の実用化までのプロセスと違ったりしますね。

共同で研究を進めるために必要な正しい理解とは?

 

網盛:まず企業は、事業化や社会実装はアカデミアの目的ではないことを理解しないといけないかなと思います。また、外部に対してライセンス料が発生するということに対して理解がないというか、当たり前と思われていないと感じます。東京大学のような国立大学であれば大学研究者の人件費は税金ですし、知財は税金から生まれていて特定の企業に帰属するはずはないのですが、そういった権利者についての認識違いが生じていると思います。

川原:研究室ごとに動いているスキームが違うんですよね。研究室の思想や研究内容によって研究員や学生が集まっているので分野が違えば更に違うし、大学ごとによっても違います。社会実装を重要視する風潮も割と最近の話で、大学は歴史的には権力との抗争を通じて「学問の自由」を獲得してきた経緯があるので、すこし前までは(企業の言いなりになりかねない)実用化の話がタブーだった時代がありました。研究室ごとの違いの理解も必要であるし、大学の歴史や各研究者の思想なども理解する必要があると思います。

大学関係者の考える、大学の知の新しい活用方法

網盛:かつては基礎研究、応用研究と言われていましたが、いまはこのような区分けは実質ないと思います。大学が行うような「知の創造」に対し、それを「実装」する実用化のためのプロトタイピングや製品化の部分は別物として存在していて、これは企業の活動なんですね。これは社会学では一般的な認識なんですが、世の人は「共同研究」や「知の社会実装」に対して若干異なった認識を持っているんじゃないかと感じています。大学はあくまで知の創造を行う場所なので、それを社会実装する段階においては、大学から企業へ役割分担したり、大学研究室からスピンアウトするといった方法で切り分ける形がいいのではないかと考えています。別プレーヤーがいればそんなに難しいことではないと思います。

河野:地方では優れた技術を持つ中小企業もたくさんあるんですよね。大学との共同研究は金払いのいい大手企業と行われてきましたが、中小企業とのコラボレーションも新たなイノベーションの機会になると思います。ただ、中小企業は忙しく接点を作る余力がないので大学側は中小企業との接点を持つという姿勢を持つといいと思います。

川原:最近絶滅したもので「飲み会」「接待」というものがあるんですが(会場笑)これまでの研究では、飲み会のようなフランクな場で腹を割って話す中で生まれた新しい研究もありました。今ではコンプライアンスの関係で社会に説明のつかない形での情報共有はなかなか難しくなってしまいました。これまでの飲み会に変わるような、腹を割って交流できるような場があればいいのではないかと思います。

加茂:河野さんのお話にも少しあったように、大学研究室の構成員は大半が学生なので、学生の進路について考えることも大学研究のDNAを繋いでいくことになると考えています。従来の理系学生の就職活動は、狭い選択肢の中で熟考されずに決めてしまうような傾向にありましたが、こういったキャリア選択の課題を解消することも、研究室と企業のつながり方を再考するという意味では近いのではないかと考えています。また、さきほど川原先生のお話にもあった研究者間の交流や、研究者と企業の交流の部分も、産学連携マッチングプラットフォームの成長によって解決していけるのではと思います。

理系と文系のコラボレーションはイノベーションのチャンス!

参加者:理系出身なのですが、現在は文系よりの仕事をしています。いずれは理系の知識を活かして何かしたいと考えているのですが、理系と文系の融合にはどのような形があるとお考えですか。

網盛:最近の大学院では東大の「情報学環・学際情報学府」に近い、学際というものが増えてきています。学際とはどのようなものかというと、文系と理系の分野がひとつにまとめられているような学部です。そこでは学際のなかの研究室が共同でプロトタイピングやアイディアソンを行ったりして知の共有がされていたりします。

川原:大学の中で言うと、理系研究室と文系研究室では組織の構造とか心構えみたいなものが大きく異なっています。理系ですとほとんどの学生が大学院に進学し、研究室に所属しています。理系研究室には人員がたくさんいるので、まるで企業のように組織で研究を行っていたりします。対して文系では、そもそも研究室という単位の意識が弱いですし、なかったりもします。大学院に進む学生も少ないですし、進むとしても教員を目指して学ぶためだったりするので、研究に対する目的や思いが違ったりします。学際情報学府のような理系と文系のコラボレーションは、実際にみんなやろうとしていますし、とても大事ですよね。でも実際にはとても難しいのが現実です。学内にいても分野を超えた研究者とは出会いにくい状況です。

産学連携を促進していくためにどのようなことが必要なのか、当事者である登壇者から生々しい意見が出ました。大学と企業の実情やこれまでの取り組みから見えた課題など、共通して『相互理解の不足』という課題が挙がっていました。産学連携の取り組みが活発になる中で、事例の共有がますます大切になってくるのではないでしょうか。