研究者はいかに社会で生きていくか?キャリアディスカバリーフォーラムで見つける、研究者の未来の仕事

「研究者の本分、それは今までに事例のないものを創ること」

学問追究の果てに直面するポスドク問題をはじめ、アカデミアは一握りの栄光と無数の学徒たちの不安で構成されている。しかしいま、そうした社会とアカデミアの関係性は徐々に変わりはじめている。

成功モデルを模倣していればよかった時代は終わり、課題の絶えない今日。新たな道しるべを模索する企業をはじめ、研究者の活躍の場は今や研究室にとどまらない。
相応しい居場所はないかと探すのではなく、今考えていることから未来の仕事を創ることはできないだろうか。

6月30日、日本科学未来館で開催されるキャリアディスカバリーフォーラム(以下、CDF)。CDFは、採用のみを目的とした企業説明会ではない。多様な分野の博士課程学生やポスドクと企業が一堂に会して「未来のキャリア」について語り合う場である。一つの定まったゴールはなく、参加者がCDFに見出す答えは様々だ。

研究者集団を自負する主催の株式会社リバネスから、運営・企画を担う若手社員2名にCDFに懸ける想いを聴いた。冒頭は、そんな彼らの言葉の欠片である。


齊藤 想聖(さいとう そうせい)さん
株式会社リバネス人材開発事業部
慶應義塾大学大学院薬学研究科修了。かつて起業を志すも挫折。「一人では何もできない」という経験を糧に、キャリアディスカバリーフォーラム運営事務局にて企画・運営の舵を取る。
専門分野:病態生理学、分子生物学


江川 伊織(えがわ いおり)さん
株式会社リバネス 人材開発事業部
東京大学大学院総合文化研究科修了。CDFでは、サイエンスブリッジコミュニケーターのトレーニング生として学生・ポスドクと企業の橋渡し役を務める。
専門分野:性格心理学、異常心理学

アカデミアと企業の架け橋にーーCDF開催の経緯と原体験

齋藤氏(以下、齋藤):CDF開催の経緯は、「科学技術の発展と地球貢献を実現する」というリバネスの理念にも通底するのですが、アカデミアにいる学生って「社会が怖い」という感覚に陥っていることが多いんです。ですから、まずは研究室と社会の間にある障壁をなくそうというのがミッションですね。

「企業説明会」って聞いたら、なんかもう警戒するじゃないですか。「スーツ買わないと……」「質問されたらどうしよう……」とか。CDFはそうじゃない、と。「まずは今やってること、興味のあることを話しに来てくれればいいんだ」というスタンスです。

 

——ちょっと意外です。参加学生のモチベーションとしては、「絶対就職を決めてやろう!」というガツガツした層がターゲットなのかと思っていました。

齋藤:ガツガツしている層って、極端に言えば就活や就職を自分でなんとかできてしまうんですよ。でも頑張ってもうまくいかない層が確かにいて、そういう層こそ引き上げていかないといけないと考えています。

 

——なるほど。ある領域を極める反面、致命的に不器用な面がある人も研究室には少なからずいますよね。学生やポスドク層への配慮が感じられます。

齋藤:そうですね。というのも、元々リバネスは修士・博士過程の学生15人で創業した会社で、今お話ししている「社会に出るのが怖いアカデミア層」というのは、実はかつての私たちの姿でもあるんです。
一歩を踏み出せないためにくすぶっているタイプって実は結構いて、特に日本は文化の特性上、そういう人が多いのではないかと考えています。その最初の一歩を踏み出す決意をしてもらえれば、事前面談から参加者と企業の接点を築けるよう、私たちが最大限サポートします。

 

——CDFは「双方向発信型」というコンセプトを掲げていますよね。これまでの企業説明会のような、「一方通行の説明とそれを受動的に聞く学生」という関係性を打破したいという強い想いと目的意識が伺えます。

齋藤:研究者がそうであるように、私たちも事例のないことをやるんです。誰もトライしていないという点が非常に重要。だって私たちがやらなければ、それが世の中で実現されないことになるので。既存のシステムで上手く回っている仕組みであれば、それは応援側に回ります。そんなパイオニア精神がリバネスの特徴です。ビジネスのことがわからなくて苦労したことも少なくありませんが、研究者集団としての自負は企画や意思決定の際に強く出ますね。

0から1を。時代が研究者を求めているーー産学連携の難題を超えて

——そもそもポスドクや研究者が社会に参加しにくいのは、何が原因なのでしょうか?

江川氏(以下、江川):研究者の使命って、基本的に「世界初を生み出す」っていうところにあるはずなんです。自分の課題や疑問に対して仮説を立てて、それを検証して世界で初めての研究成果を世の中に出す。そう考えると、既に完成されている仕事や環境に、0から1への創造を求められる人たちを適応させようとしている現状はミスマッチであると考えられます。

多くの研究者にとって、自身の専門性を活かせる場を見つけることが社会に参加する上で大きなハードルとなっています。

だからこそ、CDFでは研究者の専門性と、その背景にある夢や情熱に光を当てて、企業も研究室にいる学生を正しく理解してもらえるよう企画しています。研究者による専門性と夢の表明と、企業のチャレンジの説明を同じ場で実現することで、これまで生まれることのなかったまったく新しい未来の仕事ができるはずだというのが、リバネスがCDFに設定している仮説でもあります。

 

——組織の目指す理想がそのままCDFに反映されていますね!ここ数年は産学の共同研究件数も右肩上がりとなっていますが、ごく最近まで産学連携がうまくいかなかったのはなぜでしょうか?

齋藤:これまでは成果を数値に変換できるものや、成果に寄与する効率性や貢献度といった定性的なものだけが評価され、それ以外は切り捨てるという空気が支配的でした。そのため、大量生産・大量消費の時代において、新たな技術の開発をはじめとした0から1を生む研究者の活躍がそこまで求められていなかったのだと思います。

しかし、現在では景気が停滞して、既存のPDCAサイクルが回らなくなっています。どの企業でも根本的な打開策が切望されるようになりました。そもそもの産業構造は崩れ、以前の成功モデルも成立しなくなっています。ならば、この時代に合うように何か新しい産業構造を生み出さないといけない、と。

 

——そこで注目したのが研究者なんですね。

齋藤:はい。絶対に必要なのは、企業と研究者の双方の歩み寄りです。研究者はコミュニケーションを怠らずにディスカッションの場に出ること。企業も「研究者は扱いにくいから」と敬遠するのではなくて、共存する方法を模索する。研究者という立場でも、企業に就職する上では社会との関わりなくして生きられません。逆に、企業にとっても研究者と協働できないことによる機会損失は是が非でも避けたいところです。

「見つけてもらう」がすべての始まりーーコミュニケーターとパッションを灯す

——とはいえ、就活に抵抗のある学生やポスドクの方々にとって、その場で初対面する企業から発言を求められるというのは、ハードルが高くはないでしょうか?

江川:たしかにそれは課題のひとつです。ですからCDFでは、参加者が発言しやすい環境を作るために、イベントを通してサイエンスブリッジコミュニケーター(以下、コミュニケーター)がサポートします。200名の参加者に対して、コミュニケーターはだいたい30人ほど。学生やポスドクら参加者と企業の話し合いの場を有益なものにできるよう調整する役回りです。

齋藤:当日、参加者に『実現したい世界』というテーマで各自プレゼンテーションをしてもらうのですが、自分一人で用意してくることは簡単ではありません。そこで、コミュニケーターが事前面談と当日のトレーニングワークショップで専門性や研究テーマはもちろん、本人がイメージしているこれからの生き方や今の生活など、一見関係のないような部分まで聞いていきます。一人で準備していたら気づけないような点に光を当てることで、プレゼンテーションへのヒントが得られることが多いんです。

 

——事前面談でコミュニケーターは聞き手に徹するという形でしょうか?

齋藤:最初はヒアリングですが、その後ディスカッションもします。やりたいこと、参加動機はちゃんと聞くようにしていて、そこから私たちで、「この参加者の専門性・性格なら、あの企業と引き合わせたら面白くなりそうだ」という仮説を立てます。その人が本当に実現したいことやアピールしたいことは何なのかを確かめるために、声を生で聴くように徹底しています。面談でプレゼンテーションの計画を進めながら盛り上がって、どうワクワクした状態で当日を迎えられるかが見えたところで面談は終了です。

私たちもかつて、自分たちの専門分野について専門知識を持たない相手に対して「正しく伝える」ことに本当に苦労した分、今悩んでいるアカデミアの方々を全力でサポートしたいという想いがあります。

 

——お二人をはじめ、各コミュニケーターにとってもコミットの大きなプロジェクトなのですね。当日のプログラムについて工夫された点を教えてください。

江川:特に工夫したのはタイムスケジュールですね。当日、参加者に最高のパフォーマンスを発揮してもらうため、企業と対面する前に研究者が自身の研究やビジョンをわかりやすく、かつ魅力的に伝えられる力を身につけるためのトレーニングワークショップを組み込んでいます。
今年は例えば、越境研究所による「なぜ私達はわかり合えないのか? 研究者のコミュニケーションを枠組みで捉える」というトレーニングワークショップを組み込んでいます。

このワークショップでは、企業と対面した際、どんなポイントを意識すれば、プレゼンテーションやディスカッションで自分の専門性やビジョンを相手にわかりやすく伝えられるかをレクチャーします。

研究者は自分のことをPRするようにと言われると、とにかく自分の研究内容や専門性をアピールするのに終始してしまいがちです。しかし、企業と研究者がそうした「目に見える部分」だけで互いを評価しようとしても、その場での研究発表だけでは十分に理解し合うことが難しい。専門性が異なっても、目指すビジョンの方向性が近ければ、これまでにない異分野の連携を生める可能性がありますし、それが研究者の新しいキャリアにも繋がります。そのためには、研究者は研究内容だけでなく、その人自身のパッションや人となりも発信することが大切です。

未来の仕事のタネを蒔くーー「今すぐ」を期待しないリバネスの哲学

——CDF2018で成し遂げたいことや目標は具体的に設定されていますか?

齋藤:CDFは就活イベントではないので、結果的に何人の学生がインターンや就職に結びついたか、という数値目標は置いていません。そこを目標にしてしまうと、本当ならアカデミアに残った方が良い人の場合にも、無理に就職へと誘導してしまうなんてことも起きかねないですよね。リバネスでは、そういった判断はしないようにしています。
インターンや就職はあくまで出口の一つとしてしか考えていません。イベントに参加して「自分は起業しよう!」「やはりアカデミアに残るのが最良の選択」という意志決定をしてもらえるのもとても嬉しいです。

わたしたちが問題視しているのは、研究熱心な学生やポスドクが「社会のことがよくわからないからアカデミアに残る」という消極的な意思決定をしてしまうこと。自分の研究を生かすあらゆる可能性を知った上で納得感を持ってそれぞれが一歩を踏み出してくれたらいいなと思っています。

江川:そうですね。異分野の企業とのディスカッションを推奨しているのもそういうところで、「自分は化学系だから製薬だけ行こう」ではなく、化学系のようにその分野の多くの研究者が目指す業界がはっきりしている分野にこそ、異分野企業との関わりを築いてもらいたいです。
現状に存在しない組み合わせだからこそ、学生の専門性と企業のチャレンジがうまく調和すればオンリーワンの活躍ができるんです。そういう気づきと出会いがたくさん起こると思います。

 

——これだけ規模の大きなイベントを実施するにも関わらず、数値目標を設けず、学生と企業の充実した関係性に重点を置いているところにリバネス様のカラーが出ていますね。

齋藤:意気投合した人同士で焼肉に行く!だっていいんですよ(笑)CDF2018には200名ほど参加いただく予定ですが、イベントが終わる頃には、参加者全員の「次に何をするか」が決まっている状態になっている、というとてもシンプルな目標を立てています。

江川:このイベント発で、異分野の人同士の交わりによるシナジーやテクノロジーの交錯で何が起こるのかを見られると思うと楽しみです。CDFで興味を持った分野について、同じ大学内の研究室にお話を聞きに行ってみるとか。

 

——お話を伺っていると、決して関係性の発展を急いでいない印象を受けます。

江川:すぐに結果として現れなくても、それは全く構いません。CDFをきっかけに知り合った研究者と企業が、何かの機会にプロジェクト単位で協力関係を結べるようなことになれば嬉しいですね。「その分野だったらCDFで出会った彼だね」というように。参加者は自分の専門性を発信しておくことで、いざというときに企業や機関に見つけてもらうことができる。なかなか外向けに認知される機会の少ないアカデミアの若手にとっては、かなり大事なことだと思います。

 

<編集後記>

・専門性を持った博士が働ける環境は想像していたよりもあると感じました。(修士課程2年)
・自分の考えていなかった分野でも専門性を活かせる可能性を見出せました。(ポスドク)

 [CDF2017参加者アンケートより]

 

研究室に籠っていると、限定的な人間関係に閉じこもりがちになり、流動性も下がる。その結果、どうしても視野が狭くなりがちだ。自身の専門性を追究しながら、社会と繋がりつづけることは難しい。

大いなる可能性を秘めている研究者やポスドク、学生が、情報不足ゆえに消極的な進路選択をしてしまうことは、企業や社会、日本全体にとっての機会損失だ。CDFはまさに、そうした機会損失を減らすための画期的な取り組みと言えるだろう。

自信を持っていい。今、研究者が求められているということ。選択肢は思ったよりも多様であること。CDFに参加して、未知なる可能性を一緒に確かめてみてはいかがだろうか。

 

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