つくば市は真の「科学のまち」になれるのか? 毛塚副市長と考える、つくば市の今とこれから

国内最大の学術都市である、茨城県・つくば市。23万人の人口のうち1万6000人が研究者、8000人が博士号を持っており、「石を投げれば博士に当たる」ということわざまであります。そんな科学の街つくば市ですが、実は「市民が科学の恩恵を受けられていない」、「科学技術が産業に結びついていない」という課題もあるといいます。そこで今回Lab-On編集部は、2017年4月に史上最年少の26歳で副市長に就任した毛塚幹人(けづか みきと)さんに、つくば市の取り組みとこれからについて話を聞きました。また、元々は財務省の役人だったという毛塚さんのキャリアについても伺いました。

市民が科学の恩恵を感じられる、真の「科学のまち」へ

 

ーーつくば市にはどのような課題があるのでしょうか?

第一に、「科学のまち」なのに市民が科学の恩恵を受けられていないことですね。8月に実施した市民意識調査では、過半数のつくば市民が「科学のまちであることの恩恵を感じない」と回答しました。つくば市は研究学術都市として、社会技術を使っていくというそもそもの役割があるはずなのですが、理想と現実にギャップがある状態です。

――解決のためにどのような取り組みをされていますか?

研究機関と市の連携を積極的に進めています。その一環として、今年度から「つくばSociety5.0社会実装トライアル支援事業」というものを始めました。IoTやAI、ビッグデータなどを利用した、つくば市の課題を解決するための研究を募集して、市で実証実験をするという事業です。10月に最終審査を行ない、21件の応募の中から5件の取り組みを採択しました。

――どのような研究が選ばれたのですか?

例えば、発達障害を持つ子どもと教員にブレスレット型のデバイスを付けてもらうことで、学校でのコミュニケーションを支援する、筑波大の研究を採択しました。そのデバイスを付けていれば、体育の授業中に、子どもが一人で遠くに行ってしまっても、先生に振動で知らせてくれるんです。すでに、実験に協力してもらう学校との打ち合わせは進んでおり、今年度中には実証実験を終わらせて本格展開につなげていこうと考えています。

――すごいスピード感ですね!

俊敏さは大事にしていて、民間と行政との間にある技術的なタイムラグを埋める取り組みも行っています。例えば、RPA(ロボティック・プロセス・オートメーション)の導入。これは、人間が手作業でやってきた仕事をロボットに代行させて業務の効率化を図る技術で、日本の民間企業では導入され始めています。行政では前例がありませんでしたが、つくば市は全国で初めて導入を決めました。まずは、税金の申告書の処理手続きなどを自動化していく予定です。仕事量が減るので働き方改革につながりますし、政策立案などより付加価値の高い仕事に、職員が時間を割けるようになるというメリットがあります。

新しい科学技術を産業につなぐ

 

――実証実験や科学技術の導入で、市民と科学の距離は縮まりそうですね。他にはどのような課題がありますか?

つくば市でできた科学技術の成果が、産業に結びついていないという課題もあります。解決の鍵となるのが、小規模な新しいビジネスを指す「スタートアップ」です。スタートアップを後押しするために、駅付近にインキュベーション施設を作る計画が進んでいます。集まって作業ができる場を提供したり、研究者や経営者、投資家たちのマッチングが出来る施設にして、スタートアップへの敷居を低くしたいと考えています。再来年度には完成予定です。

――商業施設の相次ぐ撤退による、駅前の空洞化も指摘されていますね。

つくば市は「科学のまち」である以前に、研究者や市民の方々にとって「住みよいまち」でなければなりません。中心市街地の空洞化は、まちが魅力的でなくなる・住みづらくなる、という意味で大きな問題です。西武撤退後の建物は別の会社が所有しているので難しさはあるのですが、市としてやれることを検討しています。

つくば市を引っ張るCEOとCOO

――新しいことをどんどん取り入れていくつくば市の姿勢は、市のトップが変わったことによる変化なのでしょうか?

昨年11月に就任した、五十嵐市長の力が大きいと思います。まず市長は筑波大学出身で、筑波大との信頼関係や人脈があります。また市長自身が博士号を持っており、起業も経験している。そのため研究者や起業家といった連携相手と、近いマインドで動けるという強みがありますね。

――毛塚副市長ご自身にはどのような強みがあると考えていますか?

どんな面白いアイデアも、行政でやるからには行政の制度に位置付けられないと意味がなくなってしまいます。そういうときに、外部の言葉を行政の言葉に翻訳する、コミュニケーター的な役割が僕にはあると思っています。もともとつくば市に来る前は財務省にいたこともあり、行政を専門にやってきたことが生かされていますね。イメージとしては、市長がCEO(最高経営責任者)として理想を語る。僕がCOO(最高執行責任者)として実行していく、という感じです。

――国政から市政に移った時にギャップはありませんでしたか?

市役所に来て最初に困ったのは、地域の人たちをよく知らないことでした。なので、休日に地域のお祭りに出かけたりして地域の人と関わり、実際に彼らが何に困っているとか、どういう解決手段があるのかを探るようにしています。財務省では基本的に現場との接点がないので、これは大きな変化でしたね。

――筑波大生と関わる機会もありますか?

意識的に関わるようにしています。年齢も近いですしね。例えば、大学の近くにあるコワーキングスペースに顔を出したり、筑波大生が多く参加する起業イベントに行ったり。つくば市としてイベントをやるときも、筑波大生によく声を掛けています。学生に、市政への関心を持ってもらうきっかけにもなります。

財務省から26歳でつくば市副市長へ

――毛塚さんご自身のキャリアについてもお聞かせください。どういった経緯で財務省から市政に移ったのですか?

大学時代に五十嵐さんの市長選の手伝いをしたことがあったんです。その時は落選してしまったのですが、昨年11月の市長選で五十嵐さんが当選した時に、また一緒にやろうよと声を掛けていただきました。


選挙インターンで学生チームのリーダーとして指揮をとっていた頃の毛塚さん

――どのような思いでつくばに来られたのですか?

僕は人生において、社会全体における「役割分担」を考えて行動しており、周りの仲間とはあえて違う道に行くのが面白いと思っているんです。財務省での仕事は大好きでした。仲間も家族みたいで、彼らとずっと人生を過ごしていくことも十分あり得ました。でも誰かが外にでた方が、仲間にとっても面白いことができるんじゃないかと思ったんです。国レベルではできないことも、市なら早く実行できますからね。

――面白い人生観ですね!

「役割分担」は昔から意識していました。僕、高校生の時は理系だったんです。理系の仲間とも仲が良かったんですが、理系の世界を文系の言葉に翻訳する人がいた方が、仲間にとっても世の中にとってもためになると思ったんですよね。それで、3年生の時に文転しました。先ほど、外部の世界と行政をつなぐコミュニケーターをやっているという話をしましたが、当時も文系と理系をつなぐコミュニケーターとして価値を出したいと考えたんです。

――現在も、理系と文系の世界のつなぐ取り組みはされているのですか?

筑波大や研究所が開催しているシンポジウムに顔を出したり、研究者の人たちと飲んだりもしますよ。どの研究機関にどんな人がいて、どんな研究をやっているのかを、個人の顔ベースで知っていく努力をしています。一緒に色々な仕事をやっていこうと思ったら、トップ同士はもちろん、トップ以外の人間同士でも個人的な人間関係を築く必要がありますからね。

――最後に、理系学生にメッセージがあったらお願いします。

一生のうちに一人でできることって、そんなに多くありません。でも文理を超えた仲間と協力ができれば、やれることは大きく広がります。僕みたいに役割分担を考えて、周りとはあえて逆の道を行くのも面白いと思いますよ。スタンダードなキャリアだけが全てではありませんから。一人で全部やろうとしないで、仲間がいるんだってことを意識してほしいですね。

(取材:添島 香苗、久野 美菜子 文:添島 香苗)

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