集え若きAI人材!インキュベーションスペース『KERNEL』メンバーが語るキャリア

 AI人材のインキュベーターである株式会社ディープコア(以下ディープコア)が手がけるインキュベーションスペース「KERNEL HONGO(カーネル本郷)。将来AI技術で世界を牽引する人材を育て、スタートアップの支援基盤となるべく、コワーキングスペースや計算資源、メンタリング、さらには食事まで、包括的なサポートをメンバー向けに提供している。前回の記事では、ディープコアの仁木勝雅代表取締役社長とエヌビディア の大崎真孝日本代表 兼 米国本社副社長が抱く、若いAI人材への熱い期待を紹介した。

 

 今回は選抜をくぐり抜けKERNELのメンバーとなった4名に、AI技術で切り開く未来のビジョンについて語ってもらった。一人一人が全く異なる経歴、研究テーマを持つメンバー達。彼らはどのような思いでKERNELへと参加し、何を成し遂げようとしているのか。今を輝く若き才能たちの実状をレポートする。

*今回のインタビューは英語で行い、編集部で翻訳しています。

 

KERNELメンバー(敬称略)

荒川陸(あらかわ・りく)

東京大学工学部計数工学科4年。専門は機械学習・強化学習・Human Robot Interaction。人間とロボットとの共生、相互のコミュニケーションに焦点を当て、ロボットの知識獲得プロセスの研究に従事。産業へのAI技術の応用を目指す。

 

モハメッド・バトラン

東京大学大学院修士2年。土木工学を専攻。東京大学生産技術研究所・柴崎研究室にて衛星写真から自動で地図を生成する研究を進める。

 

 

高橋秀徳(たかはし・ひでのり)

自治医科大学の眼科医であり、准教授として研究を進める立場でもある。糖尿病網膜症のAI診断を開発中。現在では診断だけでなく治療プロセスにもAIを活用する手法を探る。

 

 

井上瑛未里(いのうえ・えみり)

東京大学工学部精密工学科4年。信号処理を軸足に置きつつ、ディープラーニングも用いて環境音認識の研究を行なっている。
*座談会にはオンラインで参加していただきました。

 

 

根本紘志(ねもと・ひろし)

東京大学学際情報学府修士2年。学部時代は法学部で教育行政を学ぶ。 現在は学習評価・創造性に関する研究を行いながら、学習・イノベーションのためのチーム運営・コミュニティ運営に携わっている。今回はファシリテーターを務めた。

扱うテーマは十人十色。集いしAI人材たち

根本 本日はお集まりいただきありがとうございます。早速ですが、皆さんの研究テーマ、そしてKERNELに参加した理由について聞かせていただけますか?

 

荒川 私は「人間とロボットのインタラクション」をテーマに、AIの強化学習を中心とした研究をしています。強化学習ではAlpha-Goに代表されるように、AIが学習して行動してさらに学習するというサイクルをとります。この学習プロセス自体の仕組みについて理解を深め、人間との関わりの中から自発的に学ぶAIを生み出すことが大きな目標です。

 

根本 「人間とロボットのインタラクション」とは、具体的にはどういうことを指しているのでしょうか。何か学習プロセスに変化をもたらすものなのでしょうか。

 

荒川 現状の機械学習では、学習のためのルールを前もって用意するなど、人間がお膳立てをしないと目標とする機能の学習を行うことはできません。僕が目指すのは、人間が他者との触れ合いや環境の中で自然と知識を習得していくように、ロボットが自力で学習できるアルゴリズムです。

 

井上 ありのままの環境から機械学習を行うことは私も課題と感じます。私は学部のときに受けた信号処理の授業の影響を受け、現在は環境音認識をテーマに研究しています。音声以外の音の認識を実現させたいのですが、ディープラーニングにも得意・不得意があるので、人間のように理解させることはまだまだ壁がありますね。

 

根本 ディープラーニングの得意・不得意とは具体的にどのような機能に表れるのでしょうか?

 

井上 環境音認識に関する研究は、一個一個の音の特徴をどのように抽出するかと、それらの音をどのように識別するかの大きく2つに分けられます。ディープラーニングが得意なのは後者ですね。例えば「おはようございます」と「こんにちは」と「おやすみなさい」という特定の3つのフレーズを識別させるために、ディープラーニングを使って繰り返し学習させるというのは簡単に想像できると思います。

 しかし、すべての音の認識を研究しようとすると、一つ一つの音が「なぜそのように聞こえるか」を考える必要がある。音声ならまだしも、環境音を取り扱うとなると無数の音源が混在しているので特徴を抽出するのが難しい。ここをうまく解決したいですね。

 

根本 まだまだ万能ではないんですね。次にバトランさん、エジプトからの留学生ということですが、日本で研究をするようになったのはどういう経緯からですか?

 

バトラン 元々はカイロの大学で土木工学を学んでいましたが、卒業のタイミングで偶然にもTEDxTalkで現在の指導教官のことを知りました。そのときに彼が話していたのが、都市部で人間の移動、分布をビッグデータ処理によって明らかにするヒューマンモビリティに関する研究です。この現代的な研究テーマに強く惹かれたのがきっかけですかね。現在は機械学習を用いて衛星写真から自動で地図を生成する手法の開発を進めています。

 

根本 写真や映像を用いて都市設計に繋げるのは古典的な土木工学の手法だと思いますが、AI技術の進歩によって大きく変化した、もしくは変化が予想されるものはありますか?

 

バトラン 個人の携帯電話やスマートフォン所持が当たり前になってから、モバイルを情報源とする膨大なビッグデータは、都市設計に大きな寄与をもたらしました。例えば、人々が街中をどのように移動、行動しているのかを明らかにすれば、交通のコントロールや都市の設計に生かすことができる。これを実現するのが今の大きな目標です。

 

根本 ありがとうございます。高橋さんは眼科医として働かれているそうですが、どのような経緯でKERNELに参加されたのでしょうか。

 

高橋 私は、准教授として大学で研究をする立場でもあります。3年ほど前に、ディープラーニングで画像の識別ができると知り、糖尿病網膜症*の診断アルゴリズムを作りました。さらに「診断だけでなく治療のプロセスにもディープラーニングを活かせないものか?」と思い、その手法を探るためにKERNELに参加しました。

*  糖尿病の合併症であり、出血による失明を引き起こす

 

根本 どのような治療プロセスをAIで解決していきたいと考えているのですか?

 

高橋 具体的には、加齢黄斑変性(AMD)**という失明をもたらす網膜の病気に対して、意思決定のアルゴリズムの提案を考えています。AMDには特効薬がありますが、投与の要不要やタイミングを人工知能で判断できたらいいなと。

** 網膜にある黄斑という部分に異常が生じ、ものが歪んで見えるようになる病気

 

根本 従来の画像判定による診断との根本的な違いはどんなところにあるのでしょうか。

 

高橋 例えば「出血が見受けられたら注射する」といった分かりやすい判定基準を設ければ、最低限の治療が行えます。しかし、似ているけれど異なる病気である場合や、症状の進行度の判別がつきにくいケースもあるんです。昔だったら場数や経験を積むしかないと考えられていましたが、今後は医師の感覚をAIで代替できるのではないかと考えています。

AI技術者を育む「最高の環境」とは何か。現状のサポートとこれから

根本 KERNELから提供されるサポートについてはどのように感じていますか?

 

高橋 高速な通信環境の提供と、利用できる計算資源の豊富さは魅力ですね。強力なディープラーニングを実施するとなれば、GPUなどの備えは不可欠ですから。研究室に十分な備えがない人には特にオススメできます。

 

バトラン 立地もいいし、スペース内は静かで雰囲気もいい。さらにそれぞれの研究の特徴に関して本質的な箇所を教えあえるベストな環境です。留学先として日本を選んだこともKERNELメンバーとして参加したことも、最良の選択だったと思います。

 

井上 ディープラーニングを学んでいる人や、起業している人の生の声を聞けるのはとてもありがたいです。自分はいちユーザーで、手法の専門家ではないので。自分と違う意識を持っている人と話ができるのは刺激的ですね。

 

荒川 書籍が多いのがありがたいですね。技術書って自分で買うには結構高いんですよ。あと飲食のサービスが素晴らしいと思いますね。

 

根本 食事!やっぱりそこは大きいですよね。食事の提供が、人々の集う「場」を生み出す側面も少なからずあると思うんです。足を運ぶモチベーションになるし、食事中の何気ない会話から研究のアイデアが生まれたりとか。

 

荒川 あと、メンバー間で論文の輪講会をやるのですが、これが非常に勉強になるんです。なぜここでこの手法を使ったのか?など本質的な議論になります。様々な専門の方々がいるので扱う論文も多種多様ですしね。

 

根本 お互いが先生であり、生徒であるというのは素晴らしいですね。多様なバックグラウンドをもつ人々が集まっているので、マッチングシステムのようなものを作り、お互いの学術的な興味を共有したりする、なんていう取り組みも面白いかもしれませんね。

磨いたAI技術で加速していく未来。メンバー達の将来は?

根本 KERNELでの経験を活かした上での5年、10年後のビジョンはありますか?

 

井上 来年からIT企業で営業職に就く予定です。ただずっとそこで働くイメージはなく、仕事を通して色々な人と話をしてインスピレーションを得ていきたいですね。未来のことはわからず、起業や復学も選択肢にはあるので、KERNELで技術的な相談ができる仲間を作っておきたいと考えています。

 

バトラン 私はいま就職活動中で、しばらくは企業のエンジニアとして活躍することを考えているよ。ただずっとサラリーマンをしている自分はあまりイメージできません(笑)。落ち着いたらPhD(博士号)を取りたいです。PhDの研究はそれ自体がビジネスになりやすいため、上手くいけばそのまま起業も視野に入れています。

 

荒川 卒業後は大学院に進もうと考えています。ゆくゆく取り組みたい目標としては第一次産業にディープラーニングの技術を応用し、ブレークスルーを起こすことですね!例えば、今具体的に考えているのは漁業への応用です。海中の映像を元に漁のサポートをしたりとか。

 

バトラン フィッシングポイントの選定に使えそうだね。いつ・どこで漁をすればいいのかを正確に予測できるようになれば、漁師たちにとっては時間の節約になるはず。

 

荒川 第一次産業はまだまだAI技術による効率化の余地が十分にあるものと考えています。今後10年くらいを掛けて是非新しい技術の開発に取り組んでいきたいですね。

 

高橋 時間的コストを削減する、という面では私の目標と近いものがあります。私が関わる医療の現場では、施術自体は5分程度で終わるはずなのに、診断・意思決定で数時間掛かってしまう、ということもしばしばあります。私は一昨年、眼科AI開発の会社を起業しまして、病院ごとの診断・治療ばらつきのような問題を解決しようと考えております。将来はディープラーニングでこの問題を解決し、医療現場を加速させていきたいですね。

 

***

 

KERNELでは継続してメンバーを募集中。専門分野の垣根を越え、機械学習を軸に人が交わるこの場に飛び込んでみてはいかがだろうか。手厚いサポートはもちろん、メンバーから受ける刺激は必ずやあなたの研究や起業を力強く後押しするだろう。

 

<KERNEL募集要項(抜粋)>

今回の応募にあたっては以下の条件を踏まえてご応募ください。

 

応募条件

18歳以上の学生または社会人

KERNELに一定頻度来ることができる方

 

歓迎要件

人工知能に関心があり、機械学習 (特にディープラーニング)に一定の理解がある方(または、これから学習する強い意欲がある方)

理工系の大学生・大学院生

コンピューターサイエンスの実社会への応用に関心がある方

※低学年の方も実績の有無にかかわらず、積極的に応募歓迎いたします

その他詳細については、下記リンクをご覧ください。

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