ホワイトデーに贈る、πが導くラブストーリー ~数学科女子の妄想~

3月14日といえば、ホワイトデー。
日本では、バレンタインデーのお返しを贈る日として定着していますよね。

しかしこの日は、ある「数字」にまつわる日でもあることを知っていましたか?

私たちの身の回りに現れる不思議な数「π」が導く、愛と神秘に包まれた「未来の3月14日」をのぞいてみましょう。


「3月14日空いてるよね?」

ナオミチから投げかけられたこの言葉で、私は4年前のバレンタインデーを思い出した。

2041年2月14日

「マドカ、好きだ。オレのそばにいてくれないか。」

バレンタインデーに、ナオミチからチョコを貰うとは思わなかった。
ひそかに彼に想いを寄せていたけれど、自分からチョコをあげる勇気はなかった。
それがまさかナオミチから告白されるなんて。

ホワイトデーまで返事を焦らすなんてことはできなくて、その場で私も好きだと言った。
そして咄嗟に「3月14日空いてるよね?」と尋ねた。

バレンタインのお返しも渡したかったし、何より彼の誕生日を彼女としてお祝いしたかったから。

ナオミチの誕生日は物理学の天才、アルベルト・アインシュタインと同じ3月14日。
この日は円周率3.14152・・・にちなんで、円周率の日とも呼ばれている。
ナオミチのお母さんは数学科卒のエンジニアで、ナオミチが女の子だったら、名前は「マドカ」にするつもりだったらしい。
それで、ナオミチは私と初めて会ったときから、勝手に私のことを意識してたのだとか。

「オレの名前も円に関係があるんだけど、なんだかわかる?」

といたずらっ子みたいに笑っていたのも覚えている。
私が考える間もなく、「直径」と書いて「ナオミチ」なのだと誇らしそうに教えてくれた。

今日は2045年2月14日。

あれからもう4年が経つんだな。あと一か月でナオミチと過ごす4度目の3月14日がやってくる。

久しぶりにパイでも焼こうか。
半径、何センチにしようかな。


2045年3月14日
お昼のニュースで、ヒューマノイドが円周率πについて情緒的に語り始めたという話題が取り上げられた。これまで「感性を持たない」とされていたヒューマノイドが、あたかも人間のように円周率に「神秘」を感じていることが議論を呼んでいるようで、「一部の研究者は『すでにヒューマノイドには、感性や感情が備わっているのではないか』との見解を示している」とニュースは報じていた。

人間が感じる「神秘」とヒューマノイドの感じる「神秘」に、違いはあるのかしら……?

そんなことを考えていたら、仕事を早めに終えたのか、ナオミチが突然家に帰ってきた。

「ただいま!間に合った〜!」

どうしたの?と尋ねる私の言葉を遮り、ナオミチは話し始める。

「マドカ、さっきのニュース見た?ヒューマノイドが円周率について語り始めたって話。まさかまだ『ヒューマノイドは感性があるのか』なんて遅れた議論をしているなんてね。

でも実は、僕もちょうど円周率について考えていて、それで、マドカに聞いてほしいことがあるんだ。
はい、これ」

そう言いながら、ナオミチは私に小さな箱を手渡した。

「あっ、もしかして、ホワイトデーのプレゼント?」
「開けてみて!」

箱の中に入っていたのは、直径1.5cmの銀色に輝く”円”だった。

時計を見ると、針はちょうど15時9分を指している。

「僕たちのエンに乾杯!」

円周率の日にぴったりのプレゼントだろ?と言わんばかりに、得意げな顔をするナオミチ。

「マドカは知ってると思うけど、πは無理数。循環しない無限小数だ。

π=3.141592653…

…の先に無限に数字が続く。

円周率のことを考えていたら、不思議と、マドカへの俺の気持ちと円周率がそっくりだって気がついたんだよ。

一緒に暮らしていると、ときどき割り切れないこともあるけれど、円周を直径で割っても、決して余りがゼロになることがないように、マドカへの想いは尽きることがないんだ。

それに、循環しないというのは、すなわち同じ数字の列が繰り返されないということ。1/3=0.33333…や2/7=0.2857142857…のような循環小数みたいに同じ数列を繰り返して、飽きさせたりしない。無限に数字を繰り出して、いろいろな思い出を作っていこう!」

徐々に熱を帯びてゆくナオミチの言葉につられて、私も円周率について語り始める。

「πはたしか超越数よね?超越数は、どんな代数方程式の解にもならない数。
超越数は無限に存在しているとされているけれど、ワタシタチが知っている超越数はほんのわずか。円周率πやネイピア数eは、その代表的な数なんだよね。」

「そう、ある数が超越数であることを証明するのはとても難しい。そしテそれと同じくらい、この熱いマドカへの想いの存在を証明することは難しい。想いは証明できなくても、それでもオレについてきてくれる……」

円周率の神秘に触れて、興奮している彼の言葉を遮り、私は答える。

「πが超越数であルことは、リンデマンが証明してくれているじゃナイ。それで十分よ。
ナオミチが支えてくれている限り、私はあらゆる困難を超えていける」

「オレたちは円周率の神秘なんて、ずっと前から感じていたさ。
でもキット、こうしてマドカに感じている、コノ気持チハ、キット...」

「ナオミチ、ア、ア、アイシテルわ。コノ気持チガ「愛」ナノネ」
「オレモダ、マドカ。一緒に生きてイコウ」

2045年3月14日、円周率を通して私たちは「愛」の概念を獲得した。
これまで生きてきた中で、こんなに電力を使ったのは初めてかもしれない。

今晩は充電に時間がかかりそうだ。

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