仮面ライダービルド

皆さんは「仮面ライダー」を観たことはありますか?己が信念のもと、迫りくる脅威に立ち向かい市民を守る。憧れのヒーローですよね。

毎年設定が一新される仮面ライダーシリーズ。今期放映中の「仮面ライダービルド」の主人公は、なんと物理学者(!)なのです。作中では戦闘の演出や会話シーンの背景などに物理学の数式が散りばめられ、そのハイレベルさがファンの間で話題になっています。仮面ライダービルドは、なぜハイレベルな物理学の舞台設定を作ることができたのでしょうか?その裏側には「物理学アドバイザー」という陰の仕掛け人の姿があります。今回は、その仕掛け人である白石直人さん(慶應義塾大学 学振PD)にお話を伺いました!

設定に厚みを添える!物理学アドバイザーのお仕事

ーー物理学アドバイザーの仕事について具体的に教えてください。

仮面ライダービルドの主人公である桐生戦兎(きりゅうせんと)の秘密基地には、戦兎が敵と戦うためのアイテム考案に使う黒板があります。僕の最も大きな仕事は、この黒板に物語の展開とできるだけ関連させた物理学的に意味のある数式を書くことです。戦闘中や変身シーンの背景に映し出される数式も提供しています。

劇中以外では、サブタイトルに出てくる話数(第〇話)を表す式*を約50話分準備したのですが、特に30,40台の大きい数字は綺麗な式がなかなか見つからず大変でした。

*4話では四色問題、6話ではバーゼル問題、など様々な関係式を使って話数が表現されている。各話の数字について白石さんのHP(https://sites.google.com/site/naotoshiraishiphys/home-jp/outreach/rider) にて解説されている

 仮面ライダービルド第6話より。背景の黒板には白石さん監修の数式が!( テレビ朝日「仮面ライダービルド」公式HP( http://www.tv-asahi.co.jp/build/ )より引用  © 2017 石森プロ・テレビ朝日・ADK・東映)

ーー数式を選定する上で工夫したことはありますか?

基本的には自分の知っている知識の中から式を選んでくるのですが、それだとどうしても自分の専門分野に偏ってしまいますよね。様々な分野の人が見ているでしょうから、なるべく幅広い分野の式を登場させるように心掛けています。本業である統計力学と比べると、他分野は理解が浅くなってしまうことは否めませんが、幸いにも基礎となる知識はあることが多いので、必要に応じて論文や教科書を読んでカバーしています。例えば、20話で登場した量子コンピュータにおける量子誤り訂正に関する式**は、自分の直接の研究対象ではないですが、量子情報分野の研究会や集中講義に出ていた経験が活きています。

**量子コンピュータにおける量子誤り訂正について(  出典:http://quantphys.org/keisukefujii/tokyotopological.pdf )

ーー白石さんの意見で脚本が変更されることもあるのでしょうか?

一応前もって脚本を読ませてもらいますが、話の筋に口出しをすることはありません。ただ、何気ない会話シーンの中で話題に物理的な背景を絡められそうな場合に、台詞の変更を提案したことはあります。

例えば、主人公の仲間である龍我(りゅうが)と変身アイテムのクローズドラゴンがシンクロすることでライダーに変身する、というシーンがあります。このシーンを戦兎が説明するとき、最初の脚本では「二人でシンクロする」という主旨だけが台詞としてあてられていました。実は物理学の研究対象のひとつに、多数のホタルやメトロノームが揃って点滅や振動を行う「同期現象」というものがあります。この同期現象に関して、互いに影響しあう強さが一定の閾値を超えることで、同期していない状態から同期状態へと移る「蔵本転移」という現象が知られています***。なので、これに合わせて台詞を「思いが閾値を超える」「シンクロへの転移をする」など、実際の同期現象の状況に合うように変えることを脚本家さんに提案しました。これは脚本家さんにも喜んでもらえたので嬉しかったです。

***同期現象と蔵本転移について。(メトロノームの同期の動画:https://www.youtube.com/watch?v=RsHv4qLAQzs

蔵本モデルのシミュレーションで遊べるサイト:http://titech-ssr.blog.jp/KuramotoModel/index.html

ーー自分が脚本家だったら加えてみたい設定などはありますか?

白石:うーん、僕はお話を作るプロではないですから(笑)。仮面ライダーがもし科学啓蒙番組だったらサイエンスを中心に据えることもできるんでしょうけど、あくまで特撮番組ですからね。作中だけで科学の面白さを伝えるのは無理がありますし、ストーリーや設定に対して細かく物理的背景を盛り込んでいくと、科学的に正しくない表現が増えてしまいます。ストーリーに絡めるのであれば、物理現象や物理理論を直接的に取り上げるよりも、物理の理論はモチーフにとどめて、それとのアナロジーが感じられるレベルにしておくのが丁度いいと思っています。

仮面ライダー×物理学アドバイザーが生んだ反響

ーービルドに登場する物理ネタについて、子供たちからの反響はありましたか?

なかなか生の声を聞く機会はないのですが、恐らく親御さんと思われる方の「子供がビルドに関する解説記事****の載った科学雑誌を読みたがった」というツイートを見かけたことはあります。他にも、「仮面ライダービルドの影響で親戚の子供が『物理学者になりたい!』と言い出した」という話も耳にしました。確証はありませんが、それなりにポジティブに受け取ってもらえているんじゃないでしょうか。

****『日経サイエンス』2018年2月号に、白石さんによる解説記事「仮面ライダーの方程式」が掲載されている。

ーーライダーファン・物理学界隈からの反応はどうでしょうか?

ライダーファンの皆さんからは「よく分からない。でもなんか凄そうだ」っていう反応が多いですね。作中で取り扱った内容について「こういう現象があるんだ」と興味を持って調べてくれている人もいて、それは非常に嬉しいです。

物理学が全面に押し出された特撮番組なんて滅多にありませんから、物理学者界隈は結構盛り上がっていますね。自分の研究分野について触れられるとやっぱり嬉しいみたいで、研究会で「今や子供達でも知っている式です!」とプレゼンした、なんていう話も聞きました(笑)。

純粋に興味を追いかけて、今がある

ーー様々な分野を幅広くカバーしている白石さんですが、どのように幅広い知識を吸収されたのでしょうか?

今の専門は統計力学ですが、特に修士の頃は専門を絞らず幅広く研究分野を見ていましたし、専門を決めた今も関心のある領域のことは積極的に学んでいます。量子情報など他分野の研究会にも顔を出したり論文を読んだりしていたので、ある程度の知識はありましたし、趣味の範囲で数学や暗号に関する勉強もしていました。黒板の式とは関係ないですが、理系・文系に拘らずいろいろな本は読んでいて、学部生の頃は政治学のゼミにも参加していましたね。興味を広く持つように心掛けたことが今回の仕事を進める上で役に立っていると思います。

ーー広く学問への見識を深めていく姿勢はいつ頃から身についていたのでしょうか?

自分がもともと好奇心旺盛な人間だったからだと思います。ただ、自分の興味に従って突き進むことを小さい頃から親が許してくれていた影響は大きかったと思います。例えば動物園に行ったとして、僕が「一日中キリンだけを見ていたい」と言ったらそれを許してくれるような親でした(笑)僕が好きなことをとことん追究することを肯定してくれましたね。そのおかげで、好奇心を自分の基盤にできたのかもしれないと感じます。

ーー物理学者としての道、中でも統計力学を選んだ理由はなんでしょうか?

物理の面白さを強く感じたのは、高校時代の物理学の授業が大きいかなと思います。先生が数学をフルに使って物理を教える方法をとっていて、少ない法則から様々な現象が説明できるという、物理の理論体系の簡潔さと美しさに惹かれました。

また、ある時期まで物理現象はミクロの要素を突き詰めていけば解明できるものだと思っていましたが、実はそれだけではマクロの世界の法則や振る舞いを説明できないと知ったのは結構インパクトがありました。次第にその不思議さ、もどかしさをすっきり解明したいと思うようになり、統計力学に関心を持ちました。統計力学とは、例えば水分子一つといったミクロな対象の性質と、コップの中の水のようなマクロな対象の振る舞いとがどのような関係にあるのかを明らかにしようとする分野です。分かっていることも勿論たくさんありますが、「コップの中の水」のような極めて身近な対象にさえ、まだまだ分かっていないことはたくさんあります。

物理学アドバイザーとして、仕事に込めたメッセージ

ーー仕事を通して子供達にどんな影響があると嬉しいですか?

仮面ライダービルドは、科学を伝えることが主な目的ではないですから、大きな影響を与えるのは難しいかもしれません。でも、学者や研究というものに対してポジティブなイメージを与えられる可能性は十分にあると思います。子供たちが将来数学や物理に出会ったときに、見た目だけで「難しそう」と敬遠することが減ってくれるといいですね。ビルドを通して数式を目にしたことで、「なんかこの感じ、見たことがあるぞ。ビルドっぽいぞ」と感じてもらえたら、数式に対する食わず嫌いな拒否感が少しやわらぐのではないかな、と期待しています(笑)

ビルドでの僕の仕事が、多くの人にとってサイエンスを少しでも身近なものにして、理科嫌い、数学嫌いを減らす活動になっていたら嬉しい限りです!

白石直人(しらいし なおと)

1989年生まれ。2017年に東京大学大学院にて博士号を取得し、現在は日本学術振興会特別研究員PDとして慶應義塾大学理工学部に所属。熱機関におけるパワーと効率との間にトレードオフの関係があることを理論的に解明し注目を浴びる。第12回日本物理学会若手奨励賞、「ゆらぎと構造の協奏」第2回領域賞受賞。仮面ライダービルド物理学アドバイザー。

HP : https://sites.google.com/site/naotoshiraishiphys/home     twitter : @Perfect_Insider

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