いま、自分が解決すべき踏まれていない領域。それこそが「未踏」―未踏プロジェクトの裏側に迫る【後編】

(前編はこちらから)

未踏性とは「この課題は、いま自分が解決すべき問いなのか?」

――先ほど「未踏的」という言葉を使われましたが、この言葉についてもう少し詳しく教えてください。

プロジェクト中、未踏に参加しているメンバーは「それは未踏的か?」と問われる場面に何度も遭遇しますし、自分自身にも常にこの問いを向けています。いまの時代にその分野や課題を踏む必要があるのか、本当に自分がこれを未踏でしなくてはならないのか、徹底的に考え抜かなくてはなりません。

世の中には、未だ誰も解決できていない、足を踏み入れられてすらいない「未踏」の領域が山ほどあります。そのなかで「いま自分がやらなければならない未踏領域」というものがかならずあるはずだ、と僕は思っています。たとえば今回の『RhythMo!』は、ソフトウェア技術が目覚ましい進歩を遂げているいま、教育とTechをかけ合わせた「EdTech(エドテック)」として価値を提供できるはずです。

ただ「踏まれていない」というだけでなく、時代のニーズにどう応えられるかという視点が重要だと感じます。その意味で、常に最新の技術だけに注目するのではなく、どこで何が求められているか、それはどんな手段で解決できそうかというアンテナを張ることも大切ですね。

――ニーズにマッチしていれば、最新の技術を駆使したプロジェクトでなくても採択されうるのでしょうか?

はい。未踏のPMのなかには、OSのカーネルを作るといったような低レイヤーに関するアイデアを好んで選ぶ方もいます。この先クラウドがどんなに進化していっても、ベーシックな部分を発展させる人は間違いなく必要なので、そうしたアイデアを出すひとも選ばれて然るべきです。

未踏でそうしたテーマのアイデアが採択されて注目を集めれば、「自分もそういうベーシックなことやりたい」という人たちがきっと出てきてくれる。そうすれば日本のITの未来はもっと明るくなっていく。そのためにも、華やかさには欠けたとしても重要な課題を解決しうるアイデアが今後も採択されていってほしいと思います。

――これまでの歴代プロジェクトを拝見しましたが、生活における実用を目的したプロジェクトが大半を占めているように感じました。

そうですね。未踏の主たる目的は「研究」ではなく「開発」です。シビアな話ですが、国民の皆さんの税金を使わせていただいているので、「このお金でやるに値することは何か」という視点は欠かせません。PMの方々も、そういった観点でプロジェクトを選んでいると思います。たとえば僕がお世話になった五十嵐PMは、教育関連のプロジェクトを多く採択していますね。

熱量だけは誰にも負けない―未踏プロジェクトに参加するメンバーたちの姿

――プロジェクト期間中は、他の参加メンバーとどのような交流があるのでしょうか?

期間中に全員と頻繁に会っていたわけではありませんが、五十嵐PMが担当していた他のプロジェクトのメンバーからはかなり影響を受けました。通常、PMの方はひとりで複数のプロジェクトをサポートします。五十嵐PMのグループでは、月に一度全員で集まってミーティングをし、進捗報告をもとにPMからアドバイスをもらったり、メンバー内でフィードバックをし合ったりなどしていました。場合によってはその場に未踏のOBも呼んでもらえるので、人脈も作れましたね。

――横だけでなく縦の繋がりも作れるのは嬉しいですね。

いまは院での研究に専念しているため『RhythMo!』の開発は手を止めているのですが、これを同期のプロジェクトとコラボレーションしようといった話も出ています。その方は数年前に、MR(Mixed Reality)を応用して、現実世界の自分の姿勢や動きを、リアルタイムで目の前で見えるようにするというプロジェクトを作っていました*。そのプロジェクトは視覚で動きを捉え、僕のプロジェクトは聴覚で動きを捉える。合わせたらなにか面白いことができるのではないか、と。彼はこれを研究論文として発表しようと考えているので、そこに可聴化を組み込んでみませんか?と打診しているところです。

*参考:自身の身体をコントローラとして使うMRシステムの開発

――先輩も同期も、個性豊かなメンバーが集っていたことと思われますが、やはり世間でイメージされているような「天才」揃いなのでしょうか。

飲み会にいけばアホな話でも盛り上がりますし、案外ふつうの人が多いですよ(笑)

ただ、共通して言えるのは、皆「とにかくこだわりが強い」ということ。誰に何を言われようと、最終的には皆自分がやりたいように進めます。好きなことに対しての思いや熱量はものすごい。もちろん一を聞いて十を知るような天才型の人もいますが、ほとんどは努力型ではないでしょうか。天才であるかどうかよりも、好きなことを続ける意志の強さが未踏プロジェクトをやり抜くために重要だと思います。

――意志が強くなければ、プロジェクトを完遂するのは難しいのでしょうか。

終盤になると「成果報告会までに作り上げなくては」というプレッシャーを感じることはありました。しかし、もともとは自分が作りたいアイデアなので、それががどんどん現実でかたちになっていくのは面白いですし、最終的には何とかなります(笑)PMや同期から意見や励ましがもらえるので、そこはどんどん頼って大丈夫です。個人的には、自分ひとりでアイデアを形にするより、未踏に参加して周りを巻き込んだほうが間違いなく楽しいと思いますね。

――専門の近いPMだけでなく、異なる分野のメンバーからもフィードバックがもらえると、アイデアをより良くかたちにできそうですね。

どの人も好奇心が旺盛で、自分がまったく知らなかった分野の話をたくさんしてくれます。好きな分野を持っている人たちが集まると「そのことについてもっと教えて!」と盛り上がり、繋がりが自然とできていっていましたね。未踏側もそういう化学反応を期待して、様々な分野から採択者を集めているのかもしれません。

アイデアを携えて、あとは熱量をぶつけてほしい

――未踏プロジェクトに参加されて、参加前と後で自分自身が何か変わったという実感はありますか?

もともと好奇心旺盛なこともあり、未踏を通して出会った人たちからたくさんの知らないことを学べたのは大きかったです。新しい分野を知ることができただけでなく、「自分はこんなにも物事を知らなかったのか!」と気付かされた。これまでさまざま方向転換をしてきたように、未踏を通して新しく学びたい対象をいくつも見つけました。

――修士を卒業されたあとは、どのような進路を考えていますか?

大学院に入学してからの研究が予想以上に面白かったため、未踏プロジェクトのあいだは博士課程に進学する予定でした。しかし、「一度就活をして、内定をもらってから進路をどうするか決めても遅くない」と思い直し、未踏期間の終盤あたりから就活も始めました。実際、未踏での経験を通して「人に届ける」ことの面白さとやりがいも感じていたので。就活を経て、ある会社からクラウドサポートエンジニアの内定をいただき、気持ち的にいまは就職に傾いています。

クラウドという分野に興味を持ったのも、未踏のメンバーから影響です。「OSのカーネルを作ります」とか「いま数億円で作っているASICを数百万円で作れるようにします」と言っている同期を見て、初めは「何を言っているんだこの人たちは……」と圧倒されていました(笑)自分はインターネットのインフラ周りについてまったく知識がなかったのですが、話を聞くうちにクラウド領域に今後の可能性とおもしろさを感じたので、やってみようかなと。非常に新しい分野でたくさんのことが吸収できそうですし、内定を頂いた企業には優秀な方が多いと聞いているので、とても楽しみです。

――やはり、今回も進路を選ぶ場面で「予期せぬ出会いからいつの間にか」という道を辿られているんですね。

「これまで未知だった分野に触れてみたい」という思いで未踏に参加するというのも、大いにアリだと思います。未踏参加にあたって、最初からひとりで何でもできるスキルはまったく必要ありません。

――最後に、どのような人に未踏への参加を勧めたいか、板摺さんの思いを聞かせてください。

「アイデアを持っているけれどかたちにできない!」という思いを抱えている人は、エントリーしてみると良いのではないでしょうか。未踏に入ってからさまざまなサポートが受けられるので、技術力やプログラミング力が足りていなくても大丈夫。アイデアがあるなら、まずは書いて応募してみましょう。色々なタイプのPMの方がいるので、きっと近い分野の人が見つけてくれるはずです。

あとは、野心を持っている人にもオススメしたいですね。未踏の目的は「起業家を輩出して日本を元気にする」というところにあります。先ほども少し触れたとおり、僕は未踏を通して日本の未来がより明るくなってほしいと願っています。自分のアイデアで国を良くしたい、最先端を切り拓いていきたいという思いがある人は、ぜひその熱量をぶつけてください。

<編集後記>

今回の取材を通して非常に印象に残ったのは、板摺さん自身の人柄と親しみやすい雰囲気。質問に真摯に耳を傾け、ときどきはにかみながら謙虚に応える彼の姿は、取材前に一方的に想像していた「未踏の天才」の近寄りがたいイメージとはまったく異なるものでした。

冒頭で述べたとおり、未踏プロジェクトはこれまで内実が明るみに出ることは多くなく、ゆえに未踏に憧れつつも、参加にハードルを感じていた人も多いのではないかと思われます。板摺さんが語るように、未踏プロジェクトは個人にとっても社会にとっても、大きな飛躍のチャンスとなりうるすばらしい機会です。夏休みの自由研究にワクワクとまらなかった人は、ぜひ未踏にチャレンジしてみてはいかがでしょうか?

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