これがサイエンスライターの生きる道——堀川晃菜さんインタビュー

子どもから大人まで幅広い年齢層から人気を集める「なるには」シリーズの『バイオ技術者・研究者になるには』(ぺりかん社)を執筆した、堀川晃菜さん。彼女の肩書きである「サイエンスライター」とは、どのような職業なのでしょうか。(『バイオ技術者・研究者になるには』のインタビューはこちら

フリーランスのサイエンスライターとして活動するようになった経緯や、「サイエンスライターは需要があるのか」という疑問など、普段はなかなかスポットライトが当たることの少ないこの職業を掘り下げます。聞き手は、同じくフリーランスのサイエンスライターである島田祥輔です。

堀川 晃菜(ほりかわ あきな)

新潟市出身。長岡高専への進学を機に理系の道へ。東京工業大学生命理工学部に編入学し、同大学の大学院で生体分子機能工学を専攻。修士修了。農薬・種苗メーカーを経て、日本科学未来館の科学コミュニケータ―に。その後、JBpressの編集・記者を務め、現在はフリーランス。著書に『バイオ技術者・研究者になるには』(ぺりかん社)がある

 

島田 祥輔(しまだ しょうすけ)

名古屋大学大学院理学研究科生命理学専攻修了。著書に『おもしろ遺伝子の氏名と使命』(オーム社)、『遺伝子「超」入門』(パンダ・パブリッシング)、編集協力に『池上彰が聞いてわかった生命のしくみ 東工大で生命科学を学ぶ』(朝日新聞出版)、『ゲノム解析は「私」の世界をどう変えるのか』(高橋祥子著、ディスカヴァー・トゥエンティワン)がある。腸内細菌検査サービス「マイキンソー」のオウンドメディア「Mykinsoラボ」の編集長も務める。

高専から東工大に編入学、就職したはいいものの……

島田:サイエンスライターは、直訳すると「科学の記事を書く人」です。堀川さんも科学に興味をもっていると思うのですが、子どものころからそうでしたか?

堀川:小学生のときに、クローン羊のドリーをニュースで見て、バイオテクノロジーに興味をもちました。中学生のときに、地元の大学でDNA抽出実験のイベントに参加したのも大きなきっかけです。そこで、生命には未解明の現象がたくさん残されていると聞いて「体の中のミクロな世界で何が起こっているのだろう」と不思議に思いました。

島田:生物や生命のことに関心を寄せながら、工業を専門とする長岡工業高等専門学校(長岡高専)に入ったのはなぜだったのでしょう?

堀川:工業系だった父の勧めで受験しました。実は普通科に行きたかったのですが(笑)。

高専は5年間一貫で、私は物資工学科で化学を中心に学び、生物有機化学の研究室に入りました。学生実験のレポートを毎週のように書くなかで、事実と考察の区別、引用の方法など、科学的な作法を教わりました。それが今のライティングの礎になっていると思います。

そこから本格的に生物の研究をしたいと思い、東京工業大学生命理工学部に編入学しました。

島田:大学入学後はアカデミアに進むか就職するか、悩まれましたか?

堀川:かなり悩みました。学部生のときの研究室はメンバー全員が博士課程まで進む前提でしたが、修士課程で別の研究室に移ると、同期はすでに就活する気満々で(!)

「博士へ進学すると民間への就職が厳しくなる」という話も聞こえてきて、そのまま就職活動に踏み切りました。今思えば、もっと自分と向き合うべきだったなと。

当時は、仕事を選ぶ上で「自分が好きなこと」以上に「人の役に立つこと」が重要だと考えていたので、製薬企業や、機能性食品の開発ができる食品会社などを受けていました。さらに、ライフラインとして必要不可欠な産業にも目が向くようになり、食品製造の前に存在する食料生産というキーワードから、農薬・種苗メーカーに就職しました。

島田:これから世界の人口が増えて食料生産や農業効率が大きな問題になるといわれていますね。農薬・種苗メーカーに入社されたあとはどのような仕事をされていましたか?

堀川:最初の4カ月間は農業実習でした。畑を耕して種をまいたり、農薬を散布したり。ちょうど夏の時期で、Tシャツが絞れるほど毎日汗だくで、見事に痩せましたね。研究農場は牛久市にあったのですが、田んぼに入っていると牛久大仏の視線を感じて、「あれ? 私、何やっているんだろう」って自問自答することもありました(笑)。

農業実習のときの堀川さん(本人提供)

でもそのときに、「食料をイチから作るのはこんなに大変なんだ」と肌で感じた経験が、仕事の原体験のひとつになったのかもしれません。

同時に、農薬を使わないと成り立たない現代農業の現実も目の当たりにしました。でも、一般には農薬のイメージは悪く、農薬に対して批判的な意見が多く寄せられていることがショックで。作物を育てることの大変さが身に染みてわかったからこそ、消費者の視点と生産者の視点の対立にもやもやを感じていました。

私がやりたかった仕事は、科学と人々の架け橋になること

島田:メーカーに勤められたあと、日本科学未来館(以下、未来館)に転職されていますよね。同じサイエンス領域とはいえ、かなり毛色の違う環境だったと思います。転職するきっかけは何だったのでしょうか?

堀川:気分転換に本屋さんで見つけたのがマンガの『宇宙兄弟』(講談社)です。宇宙がテーマの作品を読んで宇宙がマイブームとなり、やっぱり私は純粋に科学が好きだと再認識しましたし、主人公が自分の本当にやりたいことに向かっていく姿にも鼓舞されました。

それで宇宙関係の特集雑誌も読んでいたら、宇宙に関わる仕事として未来館の科学コミュニケーターが紹介されていて。それを読んで、「私がやりたかった仕事は『科学と人々の架け橋になること』かもしれない!」と気付きました。そこで未来館の採用試験を受けて、科学コミュニケーターとして働くことになりました。

島田:そのとき私は未来館でボランティアをやっていて、そこで堀川さんと知り合ったんですよね。科学コミュニケーターの仕事について、改めて堀川さんの視点から教えてください。

堀川:主な仕事は、展示や実演をきっかけに来館者と対話することです。他にも、イベントを企画したり、未来館ブログなどで記事を書いたりしました。

未来館時代の堀川さん(本人提供)

ブログを書くのは特に楽しかったです。どうしたら興味をもってもらえるのか試行錯誤するのも楽しかったし、自分の言葉で表現できる喜びがありました。同時に、多くの読者を意識した文章の書き方、発信することに対する責任の重さもここで学びました。

島田:話すことと書くことの違いをどう捉えていますか?

堀川:話すには瞬発力と、その場にいる人に合わせた臨機応変さが不可欠ですが、反応がダイレクトで手ごたえを感じやすい。一方で書くことは、時間をかけられることが多く、遠くにいる読者に届けることができます。形にも残ります。

このころから、サイエンスコミュニケーションの中でも「書いて伝える」ことを軸にしたいと思うようになりました。ウェブのビジネスメディアのJBpressで記事を書いたことをきっかけに、編集者・記者としてJBpressに転職しました。

島田:JBpressでは堀川さんが編集者、私がライターという関係で記事を書かせてもらいました。その節は大変お世話になりました(笑)。JBpressでの仕事を経験されて、情報発信に対する思いに変化はありましたか?

堀川:国際情勢や経済など、科学以外の記事にも関わるようになり、とても勉強になりました。こうした話題はニュース性やスピード感が重要で、目まぐるしい日々を過ごしていました。一方で、科学の話題はニュース性がなくても面白いものや、もっと知ってほしいと思うことがたくさんあって。改めて科学の記事を書きたい気持ちが強まっていきました。

それと、私は突っ走るタイプなので、このスピード感でこのまま仕事を続けたら、ちょっとマズイかなと。すでに結婚していたので、あまりに家庭を顧みないと離婚危機になっちゃいますから(笑)。先々の出産・育児を考えると、フリーランスになって、その時々の自分の状況に応じて仕事を調節できたほうが長く仕事を続けられるんじゃないかと考えました。それで今のスタイルに至っています。

サイエンスライター2人が考える、「サイエンスライターって何?」

島田:堀川さんや私の職業であるサイエンスライターは、資格が必要ないので自由に名乗っていいものですが、堀川さんはどういう職業だと考えていますか。

堀川:サイエンスとある以上、まずは科学や技術に関することを客観的な立場、つまりデータや研究成果などに基づいた文章を書く職業だと考えています。島田さんはどう考えていますか。

島田:私の場合は研究者に取材することが多いけど、研究者の代弁者を意識しています。

研究者が一般向けの記事を書くのは難しい。論文など専門家向けの文章とはスタイルが違うのもありますが、やはり研究者には研究という本業に集中してほしいのが願いです。

もちろん研究者の中には、一般向けに面白い文章を書けて著書がベストセラーになった人もいます。でも、研究はもっと多様な世界で、メディアに出ている研究者が全てではないですよね。

いろんな研究を紹介して、社会にその存在を広めるためのお手伝い、と考えています。

堀川:私も研究者に取材することが多いですが、その分野の専門家から直接、個別に最先端のお話を聴けるのはとても贅沢だと思います。サイエンスライターの醍醐味じゃないでしょうか。

取材した先にはもちろん「書く」仕事が待っているわけですが……取材の後は、知的好奇心が刺激されて、いつも興奮気味です!(高度な話についていくのに必死で、頭から煙が出ているときも多々あります)。

それと、研究機関の広報のお仕事も、所属機関の魅力を伝え、研究者の代弁者という意味では近い職業だと思います。一方で、どの組織からも独立した立場のサイエンスライターである以上は「客観性」も大切にしたいです。同じ研究分野でも、研究者によって意見やスタンスが違うこともありますし。

堀川さんの取材ツール。ボールペン、ノート、ICレコーダー、カメラ、iPad。

島田:あと、自分自身がライターとして悩むのは、「どのくらい噛み砕いて書けばよいか」「どのような切り口で書けばよいか」という問題です。

広報が出すプレスリリースは重要な情報源で、取材するきっかけにもなりやすい。でもそこから、どういう切り口で紹介するか、いかに興味をもって読んでもらえるかという「書き方」の部分で、頭を抱えることが多いですね。

堀川:わかりやすさを重視しすぎて正確性が欠けてもいけませんよね。また、自分が調べ尽くしたものを全部書きたい気持ちはあるけど、媒体によってページ数や文字数が指定されるので、最適な情報量に収める必要もあります。正確性と情報量とわかりやすさのバランスをとることは、この仕事においてどんなときでも心がけています。

島田:文章が長いと、結局何が言いたいのかわからなくなってしまいますからね。私はいつも長くなりすぎて、そこからそぎ落とすのに苦労しますが、その分できあがった文章はより洗練されたものになります。

(注:この記事も最初に書いたものから3割削りました)

ゴールは決めていないけれど、このまま進みたい

島田:正直なところを聞きたいのですが、この先サイエンスライターは市場で需要があると思いますか?

堀川:需要はあると思います。今はネットで誰でも簡単に文章を書けるようになっているけど、だからこそ「誰が書いたか」の重要性は増しているはず。仕事として続けられるほどの信頼を得られるかどうか、シビアにジャッジされていると思います。クオリティの高い記事を提供するためには、専門的な内容について見識を深めることや、最新情報のキャッチアップも必要です。自戒の念を込めてですが。

また、サイエンスライターといっても、自分をどの位置に置くのか──例えば「速報性を重視」するのか「海外事情に強い」のか、「科学ファン以外にも響く」を目指すのか、そのへんの差別化も戦略として大事だと思います。もちろんオールマイティであれば最強ですが、私は独自の視点や切り口に力を入れて、なんとか険しい道を生き残りたいと思っています。島田さんはどうですか?

島田:今のところ、需要はありそうと感じています。一般向けの仕事としては、雑誌で記事を書いたり、ウェブメディアの編集をしたり。他の人が本を書くのをサポートすることもあります。

企業からの依頼で、医療機器メーカーや科学機器・試薬メーカーの製品パンフレットに掲載するユーザーインタビューをすることも。そうした機会で一般的に出回っていない話を聞けるので、いい情報源になっています。

島田の制作物の一部。単行本、雑誌、研究者向け情報誌など。

堀川:専門家向けなだけに高度な知識が要求されそうですが、確実に需要はありますよね。島田さんの仕事は幅広いです。

島田:いつクライアントから見切られるかわからないから、広げられるうちに広げておこうという不安の表れです(笑)

あと、ブログでいろいろ書く「種まき」もして、需要を呼び込む生存戦略を心がけています。「ブログを拝見して記事執筆をお願いしたい」という依頼もあるので、いくつかの種は開花に至っています。

堀川さんは、サイエンスライターとして目指すゴールはありますか?

堀川:単なる解説だけではなくて、科学に関わる人や場所、空気感など、自分が五感で感じ取ったものを伝えたいと思っています。ただ、明確なゴールは、現在はありません。

私は、ひとつのゴールに向かって突き進む人生に憧れを抱きつつも、いろいろもがきながら道を模索してきました。その結果、自分でも思いがけないかたちで、生業にしたいと思える今の仕事に出合うことができました。

なので、今後もゴールを決めてしまうことはあえてしないと思います。一歩進んだら視界が少し開けて、新しい世界が見えて、また次の一歩を踏み出せるのが楽しいので。過去の仕事で学んだことと、新しい仕事で知り得たことが、点と点を結ぶようにつながったとき、自分の中でなにか成長できたような気がして喜びを感じます。

島田:私もゴールはないです。目の前の仕事について調べて書くだけで十分楽しいし、同じところからまた仕事の依頼があれば、前の仕事が評価されたという持続的なモチベーションにつながっているから。

堀川:まあ、楽しいだけではなくて、フリーランスなので収入面のリスクはありますけどね。

島田:なので僕は、「フリーランスはいいぞ、サイエンスライターはいいぞ」と、うかつに言わないようにしています。

堀川:私も自分には合っていると思いますが、人に安易におすすめはできません。私は転職を繰り返すなかで「やりたいこと」と「できること」が「仕事として成立するか」をすりあわせた結果、今の形になんとか落ち着いています。

これだ、と思う道が見つかったので、覚悟を決めて、あとはやるだけです!

編集後記

サイエンスライターという職業は「科学についてわかりやすく書く人」と思われるかもしれません。しかし、「わかりやすい」とは何か、突き詰めると意外に難しい問題です。

これに対して2人とも、常に情報収集をして、独自の視点から読者に紹介できるよう、試行錯誤を続けています。

人によって信条は違うため、ここで話したことがすべてのサイエンスライターに当てはまるわけではありません。こういう考えをもって科学の記事を書いている人たちがいる、ということだけでも知っていただければ幸いです。

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