The Ocean Cleanupが太平洋ごみベルトに挑む

海上を漂うプラスチックごみは地球上で総計5兆個とも言われ、環境問題だけでなく、将来的に我々の健康や経済にも害を与える恐れのある深刻な問題にもなっている。この問題の解決に取り組むNPOがThe Ocean Cleanupだ。産官学の連携のもとで海上のごみを回収するシステムの社会実装が始まっている。

海を漂うプラスチック

大手飲食店チェーンが相次いでプラスチックストローの提供を廃止する宣言をしたことは記憶に新しい。この動きは海へ流出するプラスチックごみに対する企業の意識の高まりを反映している。海へと排出されたプラスチックごみは、海流と風の循環がもたらす作用によって特定の海域に集積される。こうしたごみがたまりやすい海域は「ごみベルト」と呼ばれ、世界の海に5つ存在する(下図)。ハワイとカリフォルニアの間には世界最大規模の「太平洋ごみベルト」が広がっている。

 

ごみベルトを作る5つの海流の表層循環 公式HPより引用

微生物の力で分解されないごみの処理は、野生動物が餌と間違えて誤飲する危険性などによって古くから環境問題として取り上げられてきた。また近年新たに問題視され始めているマイクロプラスチック[1]はプラスチックごみが細かく砕けることで発生すると考えられており、生態系や人間の健康に悪影響を及ぼす危険性が指摘されている。

オランダの若き実業家、海の力で海をきれいに

こうした問題の解決策として、電力を使わず海流と風の力で動いてプラスチックを回収するシステムを構想した実業家がいる。オランダのBoyan Slatだ。Slatは2013年に環境団体The Ocean Cleanupを立ち上げた。

The Ocean Cleanupが開発するプラスチック回収システムは海上に長さ600mに及ぶ長いブイを浮かべ、「網のない地引網」のような構造を作る。このブイが海流と海風両方の力を受けることで電力を使わずに水面に浮遊するプラスチックゴミだけをかき集め、ブイの中心部に立てたタワーで回収する。詳細は以下の動画で解説されている。

課題解決と研究の両輪を産・官・学の力で回す

The Ocean Cleanupは現在NPOの形態を取りながら、産官学の各セクターと経済的・技術的な連携をとってプラスチック回収システムの社会実装に取り組む。

産業界からはMaersk社、Latham & Watkins社など、海運や遠隔操作技術などを扱う企業が出資している。また実際の海洋上でプロジェクトを進めるにあたって沿岸国政府の環境・社会基盤部門が法制度上のバックアップをおこなう。こうした連携の結果、The Ocean Cleanupは新技術の社会実装プロジェクトという性格が強い。

いっぽうでアカデミアからは、多数の大学から海洋工学や海洋物理学の研究者が共同研究者として参加している[2]。そのためプラスチック回収システムを開発するにあたって得られる、海上の構造物や海流の分布などに関する科学的な知見はこれまでに学術論文[3]や学会発表の形で還元される。

 

サンフランシスコでのプロトタイピングの様子。公式HPより引用

NPO設立から約5年を経て、2018年9月に最初のプロジェクトがアメリカ合衆国サンフランシスコ沖で実現した。今後は太平洋ごみベルト以外の海域でもプロジェクトを実施する予定だ。現在はNPOの形態をとっているが、将来的には回収したプラスチックごみを資源として企業に売却する収益化モデルを検討しているという。全地球的な問題の解決と科学的な探求を同時に推し進めることは産官学の各セクターの協力なしには実現し得ない。The Ocean Cleanupは21世紀の科学技術に希望を見いだせるような事例と言えるだろう。

[1] 東京大学海洋アライアンス「海のマイクロプラスチック汚染」

[2] The Ocean Cleanup: Partners

[3] Leisser et al., 2016 ほか

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