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シミュレーションについて哲学者と語ろう:ブックレビュー『科学とモデル』

ある昼下がりのこと。「このモデル化は筋が良い」と、一人の学生がホワイトボードの前でコーヒーでも飲みながら言う。するともう一人が「でもそいつはこの問題を扱うには理想化しすぎているんじゃないかな」と返す。なんということもない、研究室の日常の一場面だ。そんなふうに観測されたデータやシミュレーションの結果とにらみ合いながら、モデルを修正したり別のモデルに切り替えたりしていく。

研究者にとってモデルは身近なものだ。たとえばテーブルを揺らしたときカップの中のコーヒーの水面がどんな応答をするかは、水面に加わる重力、浮力、テーブルから加わる外力といった要素をモデル化したシミュレーションによって考えることができるだろう。

実験、観測、理論、数値計算、どの領域にいても、「モデル」そして「モデリング」という概念は研究において日常的に使われる。モデリングとは何かと問われれば、「現実世界に起こる現象に適切な理想化や近似を施し、理解したい本質的な構造を取り出すこと」と答えることができるだろう。

モデルを構築するときにどの変数に注目し、どの変数を無視するか、そしてモデルと現実世界の現象とをどのように対応づけるかというところに、研究者としてのセンスや技量が問われる。様々な分野で用いられるモデルが科学にとってどんな存在であるかを考えるために書かれた本が、M. ワイスバーグによる本書『科学とモデル シミュレーションの哲学入門』だ。

科学哲学から見た“モデル”

本書は科学において用いられるモデルを以下の三種類に分類する。

  • 具象モデル
    形のある模型を使って現象を観察するためのモデル。本書では、1950年代にアメリカ陸軍がサンフランシスコ湾にダムを作った場合の水流の変化を知るためにおこなった、巨大な縮尺模型による実験が例に挙げられている[1]
  • 数理モデル
    時間変化する現象を数理的に理想化し、方程式のかたちに落とし込んだモデル。本書では、捕食者と被食者の個体数の時間変化を二本の微分方程式で表現したことで有名な「ロトカ-ヴォルテラモデル」が取り上げられている[2]
  • 数値計算モデル
    ミクロな手続きを計算機で扱えるようなプログラムとして確立し、膨大な数の手続きを機械的におこなうモデル。本書ではトマス・シェリングの人種分離モデルが扱われている[3]

それぞれの種類のモデルは、モデルの構造、記述のしかた、結果の解釈、そして対象を表現する能力といった構成要素を持つ。本書は特にモデルの構造と解釈に重きを置き、研究者はモデルと現実世界との対応関係について情報を得て研究を進めていくべきだと主張する。

さらに、モデルに関する従来の哲学的な議論とそれに対する反論、モデルの構築や評価の方法、モデルの理想化をはじめとする多くのトピックに触れている。従来の科学哲学の議論では、モデリングというと数理モデルについて扱う論文が多かった。それに対し本書では、具象モデルや数値計算モデルまで含め、より一般化されたモデルの考え方を提示する。自然科学の研究者が無意識におこなっている知的活動を科学哲学のアプローチから見つめ直すための入り口になるだろう。

あり得ない現実から「なぜ?」を問う

本書の中で特に注目すべきは、第七章「特定の対象なしのモデリング」での議論。モデルはふつう、現実世界に存在する現象を対象としてそれを表現することを目的とする。しかしなかには、現実には存在し得ない対象を仮定したモデルや、モデルの構造そのものの数学的な研究を目的とし、対象を想定しないモデルも存在する。

たとえば、地球全体の大気を格子に分割して流れやエネルギーのやりとりをモデリングする全球気候モデルでは、「もし地球の自転軸の傾きが今よりずっと大きかったら、気候はどのような状態になっているか?」というような仮想的な状況を作り出すことができる。

 

セルオートマトンを元にした数値計算モデル

特定の対象を想定していないが、何に見えるだろうか?

 

また、最初から対象というものを想定しないモデルとして、セルオートマトンと呼ばれる数値計算モデルが紹介される。格子状に区切ったセルの集まりを特定の規則に従って状態変化させるモデルで、ライフゲーム[4]という呼び名でプログラミングの教材として目にしたことのある読者も多いだろう(上図)。

これらのモデルは、現実世界の現象を模倣するという目的を最初から持たないゆえに、既存の科学の視点からは発見できなかった新たな洞察を与えてくれる。実在しない状況を仮定したモデルの結果を考察することは、現実世界がなぜその仮定と同じ答えを選択しないのか? という問いへの答えを示してくれることもあるだろう。

こうした「対象なしのモデリング」についての本書の議論は、とくに「シミュレーション」という呼び名でモデルを日常的に使っている研究者の興味を惹くものだ。モデルを作ったり動かしたりする行為は無機的なものに感じられるが、それが科学に対してどんな役割を果たしているかを考えることは、十分に深遠で、哲学的な思索の入り口になる。

本書で取り上げられているモデルの例は生物学関連のものが多く、最新の情報科学や計算機性能の発達を十分に反映していない部分もあることは確かだ。しかし研究の合間にふと浮かぶ「モデルとは何か? モデルを通して私たちは何をしているのか?」といった議論の歴史的な変遷が示されてている。異なる分野でモデリングを使って研究している学生同士で集まって読書会でもすれば、科学哲学への入門として最適な一冊になるだろう。

具象モデル、数理モデル、数値計算モデルのいづれか一つでも扱う研究者・学生に分野を問わず手に取ってほしい。

 

内容紹介

“本書は科学におけるモデルの役割を論じた、M・ワイスバーグの科学哲学書である。多くの科学分野で、モデル抜きに研究が成立しないということは、ほとんど誰も否定しないだろう。しかし、「モデル」が何を指すのかと問われると、多くの人が答えに窮するか、あるいはせいぜい、特定のケースでこの言葉がどう使われているかを述べるにとどまると思われる。本書は、そのような「わかっているようでわかっていない」モデルの本質に、科学哲学の立場から鋭く迫ろうとしたものである。”(訳者解説より)

著者紹介

Michael Weisberg
ペンシルバニア大学哲学講座教授。専門は科学哲学。

参考文献
[1] Huggins, E. M., & Schultz, E. A. (1967). San Francisco Bay in a warehouse. Journal of the IEST, 10 (5), 9–16
[2] Volterra, V. (1926). Fluctuations in the abundance of a species considered mathematically. Nature, 118, 558–560
[3] Shelling, T. C. (1978). Micromotives and macrobehavior. New York: Norton
[4] Gardner, M. (1970). The fantastic combinations of John COnway’s new solitaire game “Life”. Scientific American, 223, 120–123

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