• キャリア
    全ての業界で求められるデータサイエンティストの最先端と魅力に迫る ARISE analytics様インタビュー
    2018年4月5日
  • キャリア
    いま理系×広告業界が熱い! 採用にもデータをフル活用するセプテーニグループ
    2018年4月2日
  • キャリア
    必要とする人に最適な広告を!株式会社GeeeN若手エンジニアインタビュー
    2018年4月9日
  • 学術
    狙い目は「先輩の少ない分野」―AidemyCEOが語る「今、AIプログラミングを学べばトップに立てる理由」とは
    2018年2月24日
「テクノロジーに哲学を」理系出身の出版社社長が語る、技術者に必要な教養【後編】

前編はこちら

正解を求めるテクノロジーへの妄信が格差社会を助長する

――哲学からの視点を獲得された今、現代のテクノロジーやそれに携わる人の傾向について、高田さんはどのように見られているのでしょうか?

技術者の多くは素朴実在論者(*2)ではないでしょうか。この考え方は、突き詰めると「アルゴリズムを解明すれば全てのものが作れる」という発想に繋がります。特に工学系は、この傾向が強いかもしれません。脳の構造を模したものを作ることで人間と同じ知性を作ろうとしているのがまさに今のAI時代。仮にそれが実現したら、極めて危険なことだと僕は考えています。

先ほどもお話したとおり、機械と人間には決定的な違いがあります。人間が意味を理解して行動するのに対して、機械自体は意味を理解することはありません。コンピュータやロボットがしているのは、電気信号に対する「処理」でしかないのです。

(*2) 物の色や形など、世界は自分の見たままに存在し、客観世界があるという考え方のこと。

――コードやプログラムによってデバイスに指示を送り、それを実行するという一連の動作は確かに「処理」と言えますね。

はい。コンピュータ的な思考が社会に占める比率が増大すると、人々は処理を行動原理としてしまうようになるのではないでしょうか。これが行き過ぎると、真っ先に「正解」だけを求めるようになってしまうのではないか、と危惧しています。

生命情報とテクノロジーを駆使したリベラルアーツを

生命情報とテクノロジーを駆使したリベラルアーツを
――テクノロジーはこれからどんな方向へ舵を切るべきとお考えですか?

大量生産大量消費の時代は終わりました。効率と合理性だけを求めるテクノロジーは、もう必要ないでしょう。もっと人間が人間らしく、それぞれの生物がそれぞれの法則に則った生き方が自然にできる世界に向けて動いていくことが必要です。そのためには、「生命情報を踏まえたテクノロジーの進歩」を目指すべきではないかと考えています。

――「生命情報」とは、具体的にどのようなものなのでしょうか?

情報という概念を大きさが異なる3つに分けて考えます。その最も大きな円を生命情報、その中の中くらいの円を社会情報、一番小さな円を機械情報とします。

生命情報とテクノロジーを駆使したリベラルアーツを

「生命情報」とは、生命レベルで無意識に捉えているもののことを指します。それらのほとんどは、主観的にしか捉えられないため、認知や言語化をするのは極めて困難です。例えば、有名な例を挙げると、クオリアなどは生命情報の一つですね。

今、人間の脳に近いコンピューターの開発は着々と進んでいます。しかしそうやってできた「脳に近いもの」でもおそらく生命情報を扱うことはできないはずです。僕は、ここにこそ「テクノロジーは本当に万能であるのか?」という、長年抱いてきた疑問の答えが見つかる可能性を感じます。

今、社会はじわじわと「処理」の方へと思考を寄せ始めている。しかし、これからの時代に人間が人間らしく、生きものらしく生きるためには、生命情報をもっと意識する必要があると思います。ほんのすこしの違和感や感情の揺れ動き、視界から見えるものの変化に敏感になること。それだけでも、合理性を追求した処理の競争からは抜け出せるはずです。

生命情報を感じ取る感性を育てそれを何かに昇華していくためには、リベラルアーツが欠かせません。パターン化されていない人間の感情をベースにしたアートや文学、生命情報を踏まえたテクノロジーがこれから大切にされていってほしいと思います。

生命情報とテクノロジーを駆使したリベラルアーツを
――最後に、リベラルアーツ的な思考を獲得するためにおすすめの哲学者や哲学書について教えてください。

入り口としては、西垣先生の『生命と機械をつなぐ知 基礎情報学入門』をおすすめします。生命情報についての認識について、周辺知識も含めて理解することができます。基礎情報学の入門書とされていますが、僕自身この本を編集する過程で、テクノロジーと人がどう関われば良いのかについて理解が特に深まりました。

同じく西垣先生の『AI原論 神の支配と人間の自由』(講談社選書メチエ)も紹介します。易しくはありませんが、人間が機械とは根本的に異なる秩序の上に生きているということを理解できるかと思います。

「客観はなくて主観だけがある」という概念を理解するためには、カントやヴィトゲンシュタインの原著ももちろんおすすめします。これからのテクノロジーの進歩を担う世代の人には、ぜひとも一度、工学の視点からの進歩だけでなく、これまでお話してきたような「テクノロジーと人間はどこへと向かうのか」ということを意識してほしいと思います。


取材後記

インタビューの中で高田氏は、AIをはじめとした今日の技術進歩が目指すところについて「神の視点の獲得」と語った。しかし、当然ながらほとんどの人間は地に立つプレイヤーであって、“優秀な”機械や人工知能との椅子取りゲームから逃れることはできない。

これまで技術は、生活の便利さの希求に沿った形で発展を遂げてきた。機械は「処理」を原則として動作しているが、その秩序が今日、人間に適用されつつある。テクノロジーが人に無理を強いる構図には、もしかすると「人」について考える眼差しが欠如していることが要因にあるのかもしれない。

そんなテクノロジーの担い手である技術者や理系学生こそ、自らの目で世界を捉え、再構成する仕組みを学び、倫理を携えて技術と向き合う必要があるだろう。

哲学を学ぶことは世界の法則を発見すると同時に、観察対象となっていない自己の内側に存在する生命情報に焦点を当てることに他ならない。もしもテクノロジーが倫理的な発展をするとすれば、その答えは哲学の獲得から生まれるのではないだろうか。

・基礎情報学研究会
当記事で紹介した西垣通氏の提唱する「基礎情報学」をベースに高等学校や大学で啓発・普及活動を展開。学会や勉強会は約2ヶ月に1度開催される。詳細はこちら

・高陵社書店
1948年創業。教師向けの教育書をはじめ、学参本、絵本、マナー本などを企画・出版。HPはこちら

関連キーワード
コラムの関連記事
  • 資金提供者の意思決定をスムーズに。「Dimensions」〜LabTech海外事例最前線〜
  • 「テクノロジーに哲学を」理系出身の出版社社長が語る、技術者に必要な教養【後編】
    「テクノロジーに哲学を」理系出身の出版社社長が語る、技術者に必要な教養【後編】
  • 「テクノロジーに哲学を」理系出身の出版社社長が語る、技術者に必要な教養【前編】
    「テクノロジーに哲学を」理系出身の出版社社長が語る、技術者に必要な教養【前編】
  • 宇宙の謎を解きあかせ〜宇宙最小の粒を見る飛跡検出器〜
  • 生体分子を「発見する」とは?~推理小説的に読み解く分子生物学~
  • 「SDGsとは、近江商人の三方よし」―「アグリビジネス創出フェア2018」特別トークセッション
おすすめの記事