研究活動を桃太郎風にしてみたら

※研究者の卵や研究者以外の人のための研究室用語の解説は、一番下にあります。

昔々あるところに、テニュアを持ったおじいさんとおばあさんがラボを運営しておりました

ある日、おじいさんはイタリアへ国際学会に行き、おばあさんはセミナー室へ学生とGMをしに行ったところ、空からいままで見たこともない興味深い形をした桃が降ってきました。

 

「こんな形の桃見たことがない。新規性はバッチリだが考察が難しい。学生の新しいテーマにしてみるか。」

持ち帰った桃を手持ち無沙汰な修士課程の大学院生に割らせたところ、中からいい論文がかけそうな細胞がでてきました。

「この細胞は桃から生まれたので、MMTR細胞と命名しよう。」

MMTR細胞はすくすく増殖し、科研費も当たりどんどん進捗が生まれました。そんなある日、院生はおじいさんにディスカッションを申し出ました。

「先生。面白いデータがそろい始めました。そろそろ僕も学会に参加させてください。」

「お前はラボのホープだ。きびだんごをもたせてやるから鬼ヶ島学会にオーラルで参加してはどうだ。参加費と交通費はもちろん研究費から出してやる。」

鬼ヶ島学会…。それは人里離れた小さな島で開かれる学会で、参加する鬼たちがとびっきり厳しくデータに突っ込んでくることで有名なのです。学生だからと言って容赦はありません。

しかし、そもそも自分から言い出した話を断る理由はありませんでした。

「初めての学会だ。パワポの準備ができたら鬼退治の稽古をつけてやる。」

とおじいさんは付け加えました。


見切り発車で参加申し込みをしたため、院生がアブストの準備に苦労していると、きびだんごを欲しそうな目で寄ってきたやさしい博士課程のイヌがいいことを教えてくれました。

「アブストができたら添削してやろう。それから、ネガコンとらなきゃ自家蛍光の可能性を否定できないよ。あと、まだエラーバー大きいからn数増やしたほうがいいね。」

さらに液窒の補充やピペット洗浄係などの雑用と雑誌会の準備に追われていると、ポスドクをしているお調子者のサルが

「学会発表!論文投稿!博士進学!学振!」

「海外留学!D論審査!ポスドクは不安定!テニュアトラック!」

と鳴きながら近づいてきたので、きびだんごをあげると鳴き止みました。

発表日が近づき、パワポを弄っていると機嫌が悪い助教のキジが現れて

「学会までに実験の再現性をとれればうれしいよね。」

と、暗に追加実験を要求してきたので、きびだんごをお供に徹夜で終わらせました


大学院生は、イヌとサルとキジを連れていよいよ鬼ヶ島に乗り込みましたが、学会会場、もとい島の広さが思いの外狭く拍子抜けしました。

しかし、いざ戦いが始まると一転、前の発表者達が鬼達にフルボッコにされて大炎上しており大学院生が不安になっていると、隣に座っていたイヌが

「データの妥当性は十分ディスカッションした。大丈夫だ、安心しろ。」

と励まし、サルは

「流行りのテーマでデータは隙なし!練習完璧!講演賞!間違いなし!」

とあおり、キジが

「これは流行りのテーマではないし、鬼ヶ島学会は規定上学生講演賞がないよ」

と冷静な突っ込みを入れました。

いつも通りの会話で落ち着きを取り戻した大学院生は、おじいさんとの稽古で手に入れた華麗なレーザーポインター捌きとよどみのない滑らかな口調で大量のデータ達を論理的に説明し、鬼たちを圧倒するほど完成度の高いプレゼンテーション披露しました。

質疑応答になると、間髪入れずに鬼達から飛んでくる素人質問を、大学院生は、用意した補助スライドのデータで一つ一つ丁寧に撃破していきました。そして、最後に

「それではそろそろ時間になりましたので…」

と座長が締めかけたところで大物の鬼がその声を遮り、事前に想定していなかったその日一番の厳しい質問を浴びせて来ましたが、

「大変素晴らしい質問です。…(中略)…。今後検討していきたいと思っています。」

と、うまくかわしたところで講演終了。

鬼達は

「うわぁぁぁ。これは敵わない。CNSにパブリッシュされるべき研究成果だぁぁぁ。」

と捨て台詞を吐きながら退出していきました。

鬼を見事退治した大学院生は、「早く論文書いてよ」というおじいさんからのプレッシャーを「頑張ります」というセリフでかわしつつ、「publish or perish, publish or perish…」と呟きながら論文を書き上げ、リバイズを乗り越え、論文は無事アクセプトされましたとさ。

めでたしめでたし。(※以下はじめから無限ループ)


この記事は

星井七億さんの「桃太郎シリーズ」

「IT用語だらけの桃太郎」(Takuya Noguchi, 2014)

「サイバーエージェント用語だらけの桃太郎」(tsukkyiiiiiii, 2016)

などを元ネタに書かれたものです。


研究室用語解説編

テニュア…

終身雇用の職のこと。研究職は任期が決まってるものが多い。次の職を見つけるためには業績(=論文)があると有利であることが、研究者が論文を書きたがるひとつのモチベーション。(もちろん第一義は税金で行う研究成果をしっかり世の中に共有するため)

※関連 publish or perish…

最後に院生が呟くこの台詞は、直訳すると「出版するか、さもなくば消え去るか。」なにを出版するのかと言えばもちろん論文。どこから消え去るのかは…ご想像にお任せします。

科研費…

国が支給する日本で一番有名な研究費。教授たちは年に一回申請し、審査に通れば数年間かけてそのお金を研究のため(試薬・機材を購入、学会参加費・交通費、書籍代金、研究員の給料など)に使うことができる。基本的に大学から各研究室に割り当てられる予算は限られているので、分野にもよるが科研費のような「競争的資金」と呼ばれる予算を外からとってこないと、余裕をもって研究活動ができない場合が多い。なぜか科研費が「あたる」というのか、個人的にはとても疑問。

オーラル…

口頭発表のこと。学会の発表形式には、スライドを使って十数分で部屋全体に発表する口頭発表と、部屋にはりだしたA0ポスターの前に発表者がたち、数時間にわたって、自分のポスターを聞きにきた人に適宜説明するポスター発表の2種類が大きく分けてある。

前者は多くの人に聞いてもらえる半面質疑応答や説明の時間が限られてしまう。一方で後者は少ない人数にしか聞いてもらえないが聞きに来てくれた人とじっくり議論ができる。

アブスト…

要旨の英語でAbstractの略。学会に申し込むとその発表内容の概要を数ヵ月前に出す必要がある。学会は申し込みから実際に発表するまでが意外と長い(学会によるが数ヵ月から半年ぐらい)。

修士課程・博士課程…

大学院に入学すると、修士課程で2年間研究し修士号とって卒業するひともいれば、さらに3年間の博士課程に進んで博士号を取るひともいる。大学の研究者になりたければ博士号は必須。

学振…

博士課程はストレートに卒業しても27才。その歳まで無給じゃ辛いので、日本学術振興会、通称「学振」から月20万もらえる奨学金のようなものがある。貸与ではなく給付なので、もちろん博士課程の学生の大部分は申請するが、審査ではA4で4ページの研究計画書や業績がみられ通過率は2割~3割。厳しい戦いなのです。

D論審査…

博士は英語でDoctor。D論審査とは博士論文の最終審査のこと。「学士号は参加賞。修士号は努力賞。博士号は優秀賞」という言葉があるように、卒論と修論はどんなに研究がうまくいかなくてもしっかり取り組めば落ちることはほぼないが、博論審査は、業績、研究内容や受け答えが基準に達してないと判断されると落とされることが往々にしてある。

ポスドク…

博士号をとったあと大学に雇ってもらう職につくまでの間数年間、博士研究員(通称ポスドク=post doctor)という身分として研究室に籍をおき研究をする。助教や教授など大学に雇われている人は、授業をしたり学生を指導する必要があるがポスドクは研究に専念できる。この時期にどれだけ業績を積めるかが次のポストをみつける際に非常に重要。

CNS…

科学会最高峰の論文雑誌、Cell, Nature, Scienceの頭文字をとったもの。論文雑誌によって研究のレベルが違い、どの雑誌に自分の論文が掲載されるかが、研究の質を評価するひとつの指標になる。もちろんCNSの他にもレベルの高い雑誌はあるが、この三つは一番ブランド力がある。

サブミット・リバイズ・アクセプト・パブリッシュ…

すべて論文の審査課程で使う言葉。まず論文を書いたら雑誌に投稿(サブミット)する。その後審査員のコメントが返ってくるのでそれをもとに修正(リバイズ)し再びサブミットする。これを繰り返し、受理(アクセプト)されれば万歳!あとは雑誌が出版(パブリッシュ)されるのを待つのみ。

もちろん、アクセプトされる前に掲載拒否(リジェクト)されるとこもあり、そうなったらまた別の雑誌にサブミットすることになる。何でこんなに英語をみんな使いたがるんだろう。

本記事はSCIENCE PALPUNTE様からの転載です。

作者:ドラゴン

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