「白いうさぎを追いかけて」〜理系女子キャンプは自分の好きな道を歩む女子高生へのエールにあふれていた

「白いうさぎを追いかけて」〜理系女子キャンプは自分の好きな道を歩む女子高生へのエールにあふれていた

理系か文系かー。
多くの高校生が将来の進路を考える際にまず迫られるのが文理選択だ。
つきたい職業や学びたいことが明確にあるならまだしも、将来の具体的な目標がなかったり、興味分野が広く決めかねている高校生も少なくないだろう。

2018年4月3日から4日にかけて、女子学生の理系専門職への進出を励ますためのイベントである「TYLスクール理系女子キャンプ」が高エネルギー加速器研究機構(茨城県つくば市)にて行われた。今年で7回目を迎える本イベントは、毎回書類選考となるほど人気のイベントである。女子高校生は文理選択についてどう考えているのか?抱えている不安はあるのか?女子高校生の進路選択に注目して取材した。

TYLスクール理系女子キャンプとは?

TYLスクール理系女子キャンプは今年で7回目を迎える、進路に悩む女子高校生のためのイベントだ。

参加者は高校1年生から3年生に相当する女子学生。進路決定をする前の段階で理系について知ってもらい、進路選択に役立ててもらうというのが開催の趣旨だと、*TYL所長の幅淳二先生は話す。

倍率は1.5倍から3倍と、その年によって幅はあるが人気のイベントとなっている。

*TYL:Toshiko Yuasa Laboratory(TYL)は高エネルギー加速器研究機構(KEK)とCNRS/IN2P3研究所、と現CEA/Irfu研究所が協同して設置した、新しいタイプの仮想連携研究所である。「Toshiko Yuasa Laboratory」という名前は、フランスで活躍した日本人女性研究者、湯浅年子博士にちなんで付けられ、科学技術分野への女性進出を後押しする企画を行なっている。

女子高校生のアイディア炸裂!?盛り上がった卵落とし実験

初日の4月3日、幅先生は開会式にて「(理系女子が少ない理由の一つは)理系に進みたくても諦めてしまった女性が多いのかもしれない。理系に進む勇気を持てるような機会を提供していきたい。多くの女子高校生に、理系に興味を持ってもらいたい。」と語った。

開会式が行われた後すぐに、アイスブレイクとして「卵落とし実験」が行われた。3人1組で10個のグループを作り、その場にある材料を使って、卵を13メートル(4階)から落としても割れない仕組みを考えるというもの。材料として与えられたのは、CD-ROM、トランプ、割りばし、ストロー、紙コップ、アルミホイル、養生テープ、マスク、靴下、粘土、ノート、ポテトチップス(!!)などさまざま。

初対面にもかかわらず、女子高校生達は終始和やかに、笑顔で作業していた。

ケント紙でパラシュートを作ろうと試みるグループ、粘土をカップの内側に貼り付けクッションを作ろうとするグループなど、グループによって個性的な発想が見られた。ノートに設計図を書いて議論するグループもあり、さながら本当の研究者のようであった。

出来上がった作品はパラシュート型のものもあれば、クッションをつけたもの、お神輿型のものなど、千差万別であった。

あるグループの作品

1チーム3回チャレンジすることができるが、一度失敗しても諦めずに何度も挑戦する姿勢が見られた。

卵を落としている様子

卵が割れずに取り出されると、ギャラリーからわあっと歓声が上がった。

卵を審査員に見せている様子

甲乙つけがたい中、3つのチームが表彰され、物理学にちなんだ景品が授与された。

パネルディスカッションで見えた女子高校生の不安

夕食後には大学院生やポスドクを交えたパネルディスカッションが行われた。
お茶の水女子大学・高橋さくらさん、奈良女子大学大学院・金井友希美さん、東北大学大学院・叶内 萌香さん 、KEK 加速器研究施設・小林愛音さんが登壇し、自身の研究や経験について語った。

高校生からは、以下のような質問があがった。

将来の具体的な目標がないのですが、大丈夫でしょうか
(小林さん)大学に入ったら世界も広がるし、今すぐにこだわらずに色々な経験を積んだ後で決めたらいいと思います。大学に入るにしても、学部はどこにしよう、修士に進んだならそのあとどうしよう、というように、これからも岐路はあります。高校生の時に決めたことでその後の人生が全て決まってしまうということはないので気楽に考えていいと思います。

 

文系か理系か迷っています
(小林さん)どちらに進んでも、文系・理系、どちらの能力も必要になることもあります。例えば、理系に進んでも論文や会議は英語です。また、文章を書いたり、学会で分かりやすく話したりするためには国語力、論理的に伝える力が必要です。

 

女子大に進んだ決め手はあったのですか?
(小林さん)就職したら理系は女性が少ないので、大学のうちに女性研究者の仲間を作っておこうと思いました。
(金井さん)行きたいと思った大学がたまたま女子大だった、という理由です。ただ、アットホームだなと感じたのは女子大だからかもしれません。

 

理系の方が勉強が大変と言われたのですが・・・
(叶内さん)理系の方が難しい、ということはないと思います。ただ、どちらにしても楽しいと思えないと勉強できないと思うので自分の興味を大切にした方がいいと思います。
(高橋さん)研究室の24人中半分くらいは勉強続けたい、と院に進みました。自分が好きなら続けられると思います。

 

高校生のうちから勉強しておいたほうがいいことは?
(全員)英語!

自らの経験を話す小林愛音さん

小林さんは「日本の理系分野には女性研究者が少ないので覚えてもらいやすいというメリットはありますが、研究成果を出すことに関しては性別は関係ありません。性別に関係なく成果が認めてもらえる、ということはひとつのやりがいでもあります。わたしはたまたま物理の世界に飛び込んで、それが楽しいと思ううちに自分のやりたいことが研究だと気付きました。どんなことでも一生懸命やっていくと、直接役に立たなくても自分の糧となるので、今できることを大事にしてほしいと思います。」と語った。

パネルディスカッション終了後は、有志が集まって宿舎で「お菓子の会」が行われた。パネルディスカッションに登壇した大学院生や研究者を交えて、お菓子を食べながらの自由な交流が行われた。

2日目は理系研究者による講義が行われた。筑波大学システム情報系・佐野 幸恵さん、
大学院理学研究科理学部・関口 仁子さん、CEA-Saclay・Nathalie Palanque-Delabrouilleさんの3名が講義をした。最後にKEKの施設見学を行い、2日間のプログラムは終了した。
閉会式ではひとりひとりに修了証が渡された。

修了証授与の様子

理系女子キャンプスタッフが語る、理系女子への思い

この理系女子キャンプの校長である、野尻美保子先生、共催のお茶ノ水女子大学の曺基哲先生、奈良女子大学の宮林謙吉先生にお話を聞いた。

このイベントのコンセプトを教えてください
(野尻先生)文理選択前の女子高校生に先輩の話を聞く機会を提供することが目的です。KEKでは、大学生向けのイベントは他にも開催されていましたが、高校生向けのイベントは無かったので、対象を高校生にしました。加えて、文理選択は高校生の早い時期に決まってしまうので、文理選択をする前の高校生をターゲットにしました。初めは講義だけでしたが、『高校生が先輩の話を聴く機会を提供したい』という思いから、第2回からパネルディスカッションを導入しました。さらに、もっと院生やポスドクと直接お話をしたいという要望があり、夜のお菓子の会も昨年から行っています。ホームページは不思議の国のアリスがモチーフになっていますが、アリスは自分の興味を追い求めていくキャラクターなので最適かと思いました。

 

参加者はどんな高校生が多いですか?
(野尻先生(最初の頃は科学をやるかどうか決めていない女子高校生がターゲットでした。しかし、最近は変わっていて、SSH(スーパーサイエンスハイスクール)の生徒など、科学に興味の強い女子高校生が多く参加しています。以前は、進路選択の悩みなどを相談されることが多かったのですが、近年は『もっと科学の話が聞きたい』という声も耳にします。

 

7年続けてきて参加者に変化は感じていますか?
(野尻先生)はじめは男子が多いから心配・悩んでいる、という女子高校生が多かったと思います。しかし現在は、勉強の仕方や、大学院進学・就職に対する不安の声がが多いと感じています。
(曺先生)「理系に進んでその後どうするか決めておかなければいけない」という意識が高まっているのでは、と思います。時代も変わり、リスクについて考えている人が増えたのではないかと思います。

 

そんな女子高校生たちにメッセージをお願いします
(宮林先生)文理選択や進学というと、カテゴリーが与えられてそれに自分が合うかどうかで考えてしまいがちですが、同じカテゴリーのなかでもひとりひとりたどる道筋はちがいます。そのときそのときの選択をしていくしかない。今見えている選択肢に縛られずに、自由に進路を選択してほしいです。
(野尻先生)自分の選んだ道で、好きなことをやってほしい。そして、選んだ道でのびのびとできるという実感を持ってもらいたいです。

左から、野尻先生、曺先生、宮林先生

<編集後記>
2日間取材し、理系女子キャンプのスタッフも、パネラーも、講師も、全員が女子高校生に自由に進路を選んでほしい、という思いが強いことを感じた。
女子高校生達にはぜひ、不思議の国のアリスのように自分の好奇心を追求してほしいと思う。

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