
アイディア段階でこそ、誰かの意見が欲しい。興味のあるトピックを、なんとなく追いかけていたい。そう考える研究者はきっと少なくないだろう。"Academia.edu"は、そんなニーズに応える研究者向けのSNSである。
議論はアイディアを論文へと昇華させる
論文を執筆する際にもっとも人と話したくなるのは、アイディアが固まる前ではないだろうか。洋書を読んでいると、あとがきに「本のアイディアは私のゼミの学生たちから得たところも大きい」「とくに何章はだれだれに依る」と書かれていることがよくある。発表や投稿ができるほどではないけれど、ちょっと思いついたアイディアというものは、議論を通して大きく育つのである。
そうはいっても分野によっては、所属研究室の人数が少なかったり、それぞれのテーマが大きく違っていたりして、話し相手がなかなか見つからないこともあるだろう。学会や研究会も頻繁に開かれるわけではない。議論したくとも、相手がいないと感じている研究者も多いのではないだろうか。
そんなときに頼りになるのがSNSである。今や日本全国の研究者とつながれるのは言うまでもなく、海外の研究者とディスカッションすることさえ可能な時代だ。今回は数あるSNSの中でも、研究者向けに特化した"Academia.edu"について紹介する。
分野をフォローしてアンテナを張っておこう
"Academia.edu"の仕組みは単純である。名前と所属を入力し、必要ならばFacebookやGoogleのアカウントと連携させるだけで登録は完了。登録後は、知り合いや注目している研究者をフォローすればそれぞれの発信した情報が流れてくる。このあたりの使い方はTwitter等とほぼ同じであると考えてよい。
加えて、論文や資料のアップロードができる。アップロードするのはアブストラクトのみでもよい。それぞれの投稿には20日間「セッション」ボタンが設置され、コメントを残すことができる。この機能を使えば、仕上げる前の原稿をアップロードし、他の研究者からコメントをもらうことができるため、投稿前のブラッシュアップの場としても便利だ。
"Academia.edu"が優れているのは、研究者個人ではなく分野をフォローできる点である。関心のある分野を登録しておけば、新規に投稿があった際にニュースフィードに表示されるため新しい論文を追いやすくなる。逆を言えば、自分の論文もタグさえつければ知り合い以外にリーチさせられる。結果的に、比較的多くの研究者からコメントをもらいやすくなる。
モチベーションを上げてくれるアナリティクス機能、就職活動とのシームレスな接続
"Academia.edu"にはアナリティクス機能も備わっている。直近でどれくらいのアクセスがあったか、何回論文が引用されたかを見られるため、モチベーションの維持に一役買ってくれるだろう。無料プランではアクセス数、引用数という形でしか見ることができないが、有料プランにアップグレードすればより詳細な情報が得られる。
サイト上にはCV(履歴書)をアップロードすることができ、求人情報も閲覧できる。自分の活動を記録に残すだけでなく、それをそのまま就職活動にも生かせるため、ポートフォリオ的な使い方も可能だ。
現代の研究者はプロフィールサイトを持っておくのが必須と言われている。"Academia.edu"ならば、Webサイトを作るのは少し面倒……という人でも気軽に自分のプロフィールを作成しておけるため、コンピュータが苦手な人でも安心だろう。
「世界の研究を加速」する画期的な三つのポイント
"Academia.edu"は三つの点で研究者の生活と学術界を変えるポテンシャルを秘めている。
一つは、「セッション」機能による新しい査読。あらかじめ査読者を指定するのではなく、ある程度オープンにしておくことにより、ピア・レビューよりも濃度の高いディスカッションとクオリティアップが期待できる。
二つ目は、研究者の就職活動。現状では、どれだけ真面目に運用していたとしてもTwitterなどを就職活動に生かすことは難しい。しかし"Academia.edu"に残した活動記録はそのまま使うことができる。出版未満の活動も見せられる点で、研究者にとってプラスとなるだろう。
そして三つ目は、情報の受動的な摂取である。研究生活において、最新の動向にキャッチアップしていくのは重要なことである。しかし、ともすれば自分のテーマを追うことだけに精一杯で、わざわざ近接分野を検索している暇はないと感じることもあるだろう。
そんなとき、興味のある分野を登録しておけば、ニュースフィードに流れてくる情報を受動的に得られる。能動的に獲得するほどのエネルギーはなくとも、なんとなく触れるタイミングを増やせるため、視野を広げてくれるのである。
"Academia.edu"の会社ミッションは「To Accelerate the World's Research(世界の研究を加速させる)」となっている。今後も研究者の生活をより効率的に変化させてくれることを期待したい。
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