
研究開発には、実験(計算)を計画し、実行し、得られたデータを整理するという分野共通の手順がある。通常、研究者はノートを残すことでこれを管理する。しかし、ケース数や関連する物理量が膨大になると、従来の管理体制はあまりにも心もとない。
そこで今後の普及が期待されるのが、次世代の研究開発環境を提供する『Riffyn(リフィン)』だ。
研究機材の高度化がもたらす、思わぬ”弊害”
計測装置やコンピュータの性能向上により、一度に大量のデータを取得可能になった。しかし、これは実はメリットばかりではない。増大する情報量は、研究者に対してより高度な情報処理能力を要求するようになったからだ。
一面の数字で埋め尽くされたスプレッドシート。通常この中には、ノイズや外れ値の影響も含まれているだろう。この中からデータの傾向を掴み、情報を抽出するのは簡単なことではない。数字列の海は、時に本質的な情報を埋没させてしまう。
加えて数年前の実験結果との比較や、同時に行った大量の条件を整理することもあるだろう。この場合、各データをどのような条件で取得したかを明記しておくことは決定的に重要であるが、容易ではない。やっと探し出した数年前のデータを覗いてみると、現在とフォーマットが異なり、頼りになるのは暗号のようなメモ書きだけ、といったトラブルも起こりがちだ。
さて、あなたは自身のデータに対して、結果の解釈が十分にできていると断言できるだろうか?本当は膨大なデータの中に埋没した、新たな発見が眠っているのではないか。『Riffyn』の機能はこのような”発見”の漏れを逃さない。
実験から解析まで。データの包括的管理が可能なソフトウェアの登場
『Riffyn』は実験手順の設計から取得データの解析、チーム内での結果共有までを統合的に行うクラウドベースのソフトウェアだ。具体的な機能は、(1)実験手順の設計ツール、(2)実験結果の計測・取得、(3)得られたデータの整理・解析の大きく3つにわけられる。
実験手順は、ブロック図ベースの視覚的な設計が可能だ(図1参照)。実験に関連する物理量などを自由に定義でき、実験で取得したデータはこれらに自動的に紐づけられる。
従って『Riffyn』を使って取得したデータは、後から見ても実験条件が簡単に確認可能となる。解析機能も内蔵されており、もうデータを1つずつ手動でスプレッドシートにコピーする、なんて作業をする必要はない。
図1. Riffyn使用時の様子(Riffyn HPより)
様々な角度からデータを見つめ、研究における”発見”を逃さない
『Riffyn』の真骨頂は、なんといってもデータの整理・解析だ。
まず強力なのがエラー値の排除機能。全体のトレンドから明確に外れた値は自動的にエラー値として判断され、解析時に除外される。
また、結果の相関計算の機能が非常に強力であるのも特徴のひとつ。実験で扱ったサンプル毎、パラメータ毎など、さまざまな視点の相関を瞬時にプロットできる。スプレッドシートを介さず計算できるため、従来のようにデータファイルをダウンロードしては手動で操作、といった煩雑さとは無縁となる。
多数のパラメータを徹底的に精査することにより、入力値と結果との思わぬ関係が見えてくることもある(図2)。このような精査は手作業では限界がある。『Riffyn』があなたの膨大なデータの中から”発見”をもたらしてくれるだろう。
図2. 2種類の実験データの相関例(Riffyn HPより)
Riffynはラボ情報管理システムの代替となるか
従来の研究開発にはラボ情報管理システム(LIMS)や電子実験ノート(ELS)が使われることが一般的であった。これらはデータや情報の電子化によりチーム内での情報共有や保管を容易にしたが、結果をフォーマッティングし、データベース化することには特化しておらず、これらの作業には通常数ヶ月を要していた。(Riffyn HP参照)
一方で『Riffyn』はデータのラベリング、ソート機能に特化していることもあり、データベース作成は即時的に実行可能である。また、従来のLIMSでは情報の記録に焦点が当てられていたこともあって、『Riffyn』の実験設計機能とデータの解析機能は革新的である。
まとめ
『Riffyn』はあなたの思考を可視化し、データを整理・解析する強力なツールだ。実験の設計、結果の整理、条件間の比較。多大な時間を割いていた過程が一気に加速する。あなたの研究開発を強力にサポートする助手として、頭脳の一部として、是非利用してみてはいかがだろうか。
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