『Emerald Cloud Lab』次世代の実験は全てが遠隔操作!〜LabTech海外事例最前線〜

 研究室に足を運び、手作業で実験の準備を整え、実行する。研究者はそれが当たり前だと思っていないだろうか。もし全ての実験を遠隔操作で実施できたなら。そんな夢が現実になりつつある。

 今回紹介するのは、生命科学の分野において、遠隔操作が可能な実験設備を提供する『Emerald Cloud Lab(以下ECL)』だ。

実験には多大な手間・技術が問われる

 科学の発展の歴史は実験によって支えられてきた。仮説の真偽を明らかにするこの作業は、実験条件を厳密に設定し、それを正確に実施しなくてはならない。そのためには、実験器具を揃える金銭的コストと実行者の技術的コストの両方が求められる。

 多数の機材の用意・セッティングは一朝一夕で終わるものではない。また、人間が実験する限り、ヒューマンエラーによる結果の不確かさは避けられない。もっと手軽に、正確な実験をできないものか。ECLはこれらの課題に対する1つの答えを示そうとしている。

ゲームのような操作性とロボットによる正確性を実現

 ECLはクラウド上で制御される実験施設。専用のWebシステムで使用する試薬の種類・量、機器の作動時間や出力の強度など詳細に指定でき、リモート環境での実験が可能だ。実験時に設定するパラメータは分野や手法ごとに整理されており、ユーザーは実験の種類を選択して必要項目を埋めるだけで開始できる。

ECLの操作画面例(ECL公式サイトより引用)

 ECLの施設では、人間の代わりに作業用ロボットが実験を行っている。綿密に管理された正確な作業により、人間が実験する場合と比較して結果の不確かさを抑える効果が期待できる。機材の準備、セッティングの手間を省き、ヒューマンエラーの可能性も削減する。まさに一石二鳥だ。

豊富な実験機材があなたの要望に細かく応える 

 ECLを利用するメリットは、自分で実験機材を準備する必要がないことだ。しかし、これは裏を返せば、使用可能な機器はECLが所持しているものに限定されることを意味している。限られた機材でやりたい実験ができるのか心配に思うかもしれないが、安心してほしい。ECLの実験設備では、日々新たな機器の導入が進んでおり、非常に幅広い実験に対応可能だ。詳細は実験設備一覧を確認してほしい。

 試薬・細胞の準備・保存は勿論のこと、インキュベーション、有機化合物の合成、遠心分離など、主要な実験に必要な機材は一通り揃っている。まだ完全とは言いがたいが、ECLでは野心的な機材導入計画を掲げており、将来的により痒い所に手が届くラインナップへと成長していくだろう。

取得したデータの解析・後処理もお任せあれ

 実験で取得したデータはクラウド上のデータベースに保存される。機材の動作状態に関しても細かくログが取られており、設備の全体像と各器具の詳細が見渡せるナレッジグラフと合わせて、実験の進行状況を把握することができる。実験に関する疑問や、トラブルが生じたときの原因確認にも力を発揮する。

ナレッジグラフの例。関連情報を芋づる式に調べることができる。(ECL公式サイトより引用)

 

 また、WEBシステム上に用意された解析ツールを利用することで実験結果の考察をサポートしてくれる。グラフ作成や統計処理は勿論のこと、化学反応の時系列データからモデル式を構築したり、撮影した画像に写る細胞の数を数える機能まで用意されているから驚きだ。様々な角度からデータを見つめることで、新たな発見をもたらしてくれることだろう。

ECL解析ツールの例。左:物質A→物質Bの化学変化を定式化 右:画像に映る円形の細胞を自動で認識(赤線)して数をカウント

機材の共用化が資金不足を補う鍵となる

 ECLの活用によって実験研究に掛かる費用は大幅な軽減が予想される。ECLが提供する実験の費用は種類にもよるが、平均$25程度(CNET調べ)。機材を揃える予算が不足しがちな小規模研究室やスタートアップでも業界参入が可能な価格だ。

特に日本では、科学研究に充てられる費用の調達が年々厳しくなり、研究者の頭を悩ませている。このような背景の中、ECLによる機材の共通利用は非常に合理的だ。分野で1つの共用研究設備を持つこと。これは研究費不足への対策として重要である。日本でのECL利用、ひいては同様の設備利用システムの普及に期待したい。

まとめ

 『Emerald Cloud Lab』は完全リモートの実験環境を提供する。手間を極限まで省くことで、研究者たちは計画の立案と結果の考察に注力できる。将来は自宅から一歩も出ずに論文を書き上げる研究者も登場するかもしれない。研究者の働き方、ライフスタイルを大きく変える可能性を秘めたECL。今後も目が離せない。

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