『ORCID』で実現する研究者のID管理 〜LabTech海外事例最前線〜

研究コミュニティの国際化に伴い論文の共著者数は増加しており、著者は研究者名や業績を管理するのにますます多くの労力が求められるようになっている。そこで研究者に固有のIDを付与することでこうした負荷を軽減するする非営利型サービスが『ORCID』だ。

研究者の"名前"に潜む障壁

学会の発表者リストに似た名前の複数の研究者が登場したり、論文で引用されている複数の研究が、同一の著者によるものか別人によるものか混乱したりした経験はないだろうか。冒頭で述べた研究の国際化に加え、プロジェクトの大規模化によって多数の国にまたがる共同研究や、論文の共著者数が1000を超えるような研究も分野によってはおこなわれるようになってきた。また、21世紀に入って論文出版の電子化が進み、論文雑誌と論文の数の増加傾向はますます顕著になりつつある。

特定の研究者や論文を引用する際には、研究者の名前や論文発表年を用いることが多い。しかし関連する研究者の数が増えるにつれて、一つの分野のなかに同姓同名の研究者が存在することも珍しくない。また研究者が結婚などで改姓した場合、新しい名前で発表される研究成果と過去の論文等とで研究者としての同一性を保つことが難しいという問題がある。そのため、現在は改姓後も旧来の名前を通称として著者名に使い続けるケースが多い。

これらの理由により、論文雑誌や研究機関、さらには研究助成金の申請などの際にも研究者プロフィールを管理するための労力は増え続けてきた。この問題を解決するため、他のサービスとも連携して統一的に研究者を識別する方法が求められている。

グローバルな研究者IDの管理

2012年にスタートした『ORCID (Open Researcher and Contributor ID)』は世界中の研究者に固有の識別子を付与するサービスだ。研究成果を扱うコミュニティが広く参加できるよう、論文誌の出版社や大学などが参加する非営利の組織ORCID Inc.が運用にあたっている。

ORCIDに登録した研究者は全員16桁のIDを無料で付与される。また所属機関やメールアドレスなどの基本的な情報をORCIDのデータベース上にIDとリンクさせて登録することができ、これらはORCIDレコードと呼ばれ研究者プロフィールとして公開される。研究者の個々の研究業績は論文のDOIを介してORCIDに紐づけられ、名前や所属機関が変更されてもIDによって研究業績を管理できる。

ORCIDメンバー機関との連携

ORCIDの普及において重要なのは、ORCIDと連携するメンバー機関の存在だ。ORCIDに登録された研究者の情報を、大学などの研究機関、論文の出版社、研究助成金団体などメンバー機関が利用できるような認証制度が組み込まれている。所属や業績などの記述は研究者がみずから入力することもできるが、第三者であるORCIDメンバー機関が入力することによって情報の信頼性の向上と入力の労力軽減が期待できる。

運営にあたる団体は、現在以下のような連携形態を想定している。まず、最も大きなメリットを生むのが論文誌によるORCIDとの連携だ。研究者が論文原稿を提出する際に、著者のORCID識別子も合わせて提出することを求める論文誌が増えている。これによって論文誌が研究者のORCIDレコードにアクセスすることができるようになる。論文の採録が決まればその論文の情報が新しい研究業績として、研究者のORCIDレコードに自動的に反映されるというしくみだ。

次に、研究者が所属する大学・研究機関全体でORCIDと連携するケースが想定される。論文業績の場合と同様に、研究者の所属に関する情報をORCID上で自動更新したり、機関ウェブサイトで表示する研究者プロフィールをORCIDと同期させたりすることができる。さらに、研究予算を選定・支給する助成金団体がメンバーに参加すれば、研究者の助成金の申請状況や獲得歴をORCIDレコードに登録して管理することも可能になる。

いずれのケースでも、プロフィールや業績情報を管理する際の労力を研究者が末端で担うのではなく、情報を利用する機関が上流で自動化するしくみの確立を目指す。

連携機関と利用者の拡大が鍵

ORCIDが研究者に持続的なメリットを提供するためには、より多くの研究者・研究機関が同システムと連携し、研究者データベースのインフラとして機能させることが必要だ。
ORCIDはサービス開始から現在に至るまで、IDの登録は500万件、連携するメンバー機関は900件を超える。日本でも、京都大学が2017年12月に研究機関としてメンバーシップに参加し、研究者個人のデータ入力の負担軽減に貢献している。

いっぽう、ウェブで公開される出版物や人物にIDを与える他のサービスとも連携し、IDサービスどうしの互換性を拡大することが必要だ。また、日本語圏ではORCIDに研究業績として追加できる日本語の文献ソースの整備を進めることが求められている。

まとめ

ORCIDは、研究者の名前と識別に関する問題の解決と、研究者の業績情報を管理するための労力軽減のために大きな可能性を秘めたIDサービスだ。運営方針は一貫して「研究者にとってフレンドリーであること」を目指しており、論文誌や研究機関などと幅広く連携することで研究者のためのインフラへと成長することができる。

 

[参考文献]
宮入暢子,「研究者識別子ORCID 活動状況と今後の展望」, 情報管理, vol. 59, no. 1
武田英明,「ORCIDとは何か」国立情報学研究所 第7回SPARC Japan セミナー
ORCID Membership

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